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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第三章 花嫁修業2 伝説の包丁

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アリアーゼの本音

 いくらかの時が過ぎ、ついにその日はやってきた。


「できた。ついに、完成した!」


 アルファスの声が、鍛冶場に、静かに響いた。


 仕上げを見守っていた三人の前に、包丁が差し出された。

 それは、鈍色に輝いていた。柄には、細やかな彫り模様が施され、刃は、朝の光を受けて、鋭く、澄んだ線を描いている。


 まさに伝説と呼ぶにふさわしい、誰もが、思わず息をのむ美しさだった。


「まあ……」


 アリアーゼは、息を呑んだ。


「これが、わたくしの……伝説の……」


「触ってごらん」


 アリアーゼは、そっと、柄を握った。手に、しっくりと馴染む重さだった。


「軽い……それに、なんだか、あたたかいですわ」


 アルファスは優しく微笑んだ。


「オリハルコンは、持ち手の熱を覚えるんだ。使うたび、君の手に馴染んでいくのさ。さあ、一度貸してくれるかい?」


 アルファスは、そう言うと、アリアーゼから包丁を受け取った。

 そのまましばらくその輝きを見つめていたが、やがて、それを用意されていた革の鞘へと納めた。

 そして、静かに、その場に膝をついた。


 包丁を、両手でそっと掲げるようにして、アリアーゼへ差し出す。


「アリアーゼ」


 その声は、いつもより、少しだけ低く、そして、いつもよりも慈愛に満ちていた。


「この包丁で、毎日、僕のために料理を作ってくれないだろうか」


 その瞬間、鍛冶場が、しんと、静まり返った。


 リオナは、離れた場所で、息を呑んだ。


(――え、まさか)


 心臓が、ひとつ、大きく跳ねた。


「アリアーゼ。どうか返事を聞かせほしい」


 アリアーゼは、しばらく、その場に立ち尽くしていた。

 やがて、頬が、ほんのりと、色づいていく。


「わたくし……」


 その声は、少し、震えていた。


「お恥ずかしいのですけれど、今はまだ料理が苦手ですの」


「……え?」


「まだまだ、たくさんの練習が必要ですわ。ですから……ごめんなさい」


 アルファスは、しばらく、その言葉の意味を、考えているようだった。


 そして。


「ふふ」


 小さく、笑った。


「そうか。残念だ」


 膝をついたまま、包丁を、アリアーゼの手に、そっと、握らせる。


「ぼくの夢を、かなえてくれて、ありがとう。どれだけ感謝しても、足りないよ」


 立ち上がり、埃を払う。その顔に、屈託はなかった。


「アリアーゼ、達者でな」


 アルファスは、それだけ言うと、炉のほうへ、歩いていった。


 リオナは、その背中を、ただ、見送っていた。

 アルファスの背中が見えなくなってから、リオナは、そっとアリアーゼに近づいた。


「アリアーゼ様。先ほどの、アルファス様のお申し出……あれの意味、おわかりでした?」


「ええ、もちろんですわ」


 アリアーゼは、当然のように、頷いた。


「あれは、わたくしに対する、求婚ですわ」


 アリアーゼは、包丁を大事そうに、両手で抱えた。


 その瞬間、リオナは、目を見開いた。


(――え? この人、ちゃんと、わかってたんだ!)


 リオナは言葉を失い、立ち尽くした。


「ですが、求婚なんて、受けられません」


 アリアーゼはゆっくりと首をふった。


「わたくしには、あの人の求婚よりも、もっと大事なものがあるのです」


 アリアーゼは、リオナへ視線を向けた。


「リオナ。それは、あなたとの時間ですわ」


 リオナの、心臓が、再び跳ねた。そのまま、うるさいほどの速さで、鼓動を刻み始める。


 (――今、なんて?)


 頭が真っ白になった。理解が、追いつかない。


「リオナ」


「ひ、ひゃい!」


 思わず、声が裏返った。

 アリアーゼは、優しく微笑んだ。


「今、わたくしにとって、一番大切なのは――」


 リオナは、ごくりと息を呑んだ。


「あなたとの――」


 鼓動が、耳の奥で、うるさいほど鳴り響く。


「花嫁修業ですわ!!」


 アリアーゼは言いきると、満足そうにして、ぐっと、拳を握った。


「だから、花嫁修業のためには、求婚なんて、受けてる暇は、ありませんの!」


「……」


 リオナの中で、何かが、音を立てて、崩れ落ちた。


(――ポンコツにも、程があるだろ!)


 口には、出さなかった。


 行き場のない怒りだけが、リオナの中にくすぶり続けた。


 でも。


 なぜだか、ホッとしている自分がいた。




「くっくっく。あの二人、見てて飽きないっすねー」


 遠目に様子を伺っていたアッチムは、小さくつぶやいた。

伝説の包丁、ついに完成ですわ!

次回、アリアーゼの妄想に変化が……?

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