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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第三章 花嫁修業2 伝説の包丁

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夢が夢を呼ぶ

 その若者は、グラニス族にしては背が高く、整った顔立ちをしていた。


 鍛冶で鍛えられた腕は、たくましい。だが、その物腰はやわらかく、目もとは涼しげだった。長老いわく、里一番の天才鍛冶師だという。


「やあ。君たちが、噂のお客様だね。僕は鍛冶師のアルファスだ」


 アルファスは、穏やかに微笑んだ。その視線が、アリアーゼの手にしたオリハルコンで止まる。


「それが、オリハルコンかい?」


「そうですわ」


 アリアーゼは胸を張った。


「これで、伝説の包丁を作るのですわ」


(――また、始まった)


 リオナは小さく苦笑いをした。アルファスの反応を想像して、つい身構えてしまう。


 しかし。


「へえ」


 アルファスは、戸惑いも、笑いも、しなかった。


「よかったら、どうして包丁を作りたいか、教えてくれるかい?」


 ただ、やさしく、そう尋ねた。


(――あれ?)


 リオナは拍子抜けしてしまった。アルファスのこんな反応は、想像していなかった。

 

 アリアーゼが嬉しそうに口を開いた。


「わたくしには夢がありますの。わたくしの夢は……」


 言いながら、アリアーゼは少しはにかんだ。


「いつか、誰かのお嫁さんになることですの。だから、そのための包丁ですわ」


「そうか……いい夢だね」


 アルファスは、そう言って微笑んだ。


 アリアーゼの頬が、ほんのりと染まった。アルファスは、その様子を見て目を細めると、再び口を開いた。


「僕もね、夢がかなったんだ」


 アルファスは、炉の火に目をやった。


「伝説の素材、オリハルコンを打つのが、鍛冶師としての夢だった。君が、それを運んできてくれた」


「まあ」


「よし、決めた」


 アルファスは腕まくりをした。


「僕の技術を、すべて注ぎ込むよ。君の夢のために、僕が最高の包丁に仕上げてやろう」


「うれしい……!」


 アリアーゼが、瞳を輝かせた。


 リオナは少し離れた場所で、二人のやり取りを見ていた。二人は笑い合っている。お互いに夢を語り合う、爽やかなイケメンと、美人令嬢。

 まるで、絵画のような光景だった。


「……お?」


 いつの間にか隣に来ていたアッチムが、二人を見て、にやりとした。


「あの鍛冶師、いい男っすねぇ」


「……そう、ですね」

 

 リオナの声には覇気がない。


「なーんか、あの二人、いい感じっすねぇ」


 アッチムが、ひじでリオナをつつく。


 リオナは、答えなかった。

 ただ、笑い合う二人を、じっと見つめていた。


    ◇ 


 オリハルコンは伝説の金属だけあって、加工にも時間がかかるらしい。

 完成まで時間を要するため、アリアーゼたちは、そのままグラニスの里に滞在することとなった。


「伝説の金属だ。急いては、いい仕事はできないさ」


 アルファスはそう言うと、来る日も来る日も、炉の前に立ち続けた。

 火花が散る。金属を打つ音が、朝から晩まで、鍛冶場に響く。


 その合間にも、アルファスは手を止めて、アリアーゼのもとへ顔を出した。


「アリアーゼ。今日の進み具合を、見てくれるかい」


「まあ……」


 アリアーゼは、打ちかけの刃を、そっと両手で受け取った。


「とても、素敵ですわ。昨日よりも、ずっと」


 その声は、心から嬉しそうだった。


「君が喜んでくれるなら、それだけで頑張れるよ」


「わたくしも、完成が待ち遠しいですわ」


 アリアーゼは、刃から顔を上げる。


「僕の夢のためだ。全力を尽くすさ」


「わたくしの夢のため、でもありますわね」


「ああ」


 アルファスは、優しく微笑んだ。アリアーゼも、つられるように微笑み返す。

 二人は、しばらく、言葉もなく見つめ合っていた。


 リオナは、少し離れた場所で、水を汲みながら、その様子を見ていた。


「……」  


 水瓶が、いっぱいになっていることに、しばらく気づかなかった。 


「リオナ、いいんすか?」


 アッチムが、隣に腰を下ろした。


「なにがです?」


「あの二人。なんだか、くっつきそうっすよ?」


 アッチムは、鍛冶場のほうへ、視線をやった。中から、アリアーゼの笑い声が、微かに聞こえてくる。


「アリアーゼ様が望むなら、いいことだと思います」


 リオナは、水瓶の縁を、そっと撫でた。


「お嫁さんになる……夢がかなうなら、わたしから言う事など、何もありません」


 アッチムは、しばらく、何も言わなかった。


 リオナは、アッチムと目を合わせなかった。

 その肩が、小さく震えているのを、アッチムは見逃さなかった。

リオナは、自分の気持ちに戸惑い始めています。

次回、アルファスがアリアーゼの前にひざまずき……?

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