夢が夢を呼ぶ
その若者は、グラニス族にしては背が高く、整った顔立ちをしていた。
鍛冶で鍛えられた腕は、たくましい。だが、その物腰はやわらかく、目もとは涼しげだった。長老いわく、里一番の天才鍛冶師だという。
「やあ。君たちが、噂のお客様だね。僕は鍛冶師のアルファスだ」
アルファスは、穏やかに微笑んだ。その視線が、アリアーゼの手にしたオリハルコンで止まる。
「それが、オリハルコンかい?」
「そうですわ」
アリアーゼは胸を張った。
「これで、伝説の包丁を作るのですわ」
(――また、始まった)
リオナは小さく苦笑いをした。アルファスの反応を想像して、つい身構えてしまう。
しかし。
「へえ」
アルファスは、戸惑いも、笑いも、しなかった。
「よかったら、どうして包丁を作りたいか、教えてくれるかい?」
ただ、やさしく、そう尋ねた。
(――あれ?)
リオナは拍子抜けしてしまった。アルファスのこんな反応は、想像していなかった。
アリアーゼが嬉しそうに口を開いた。
「わたくしには夢がありますの。わたくしの夢は……」
言いながら、アリアーゼは少しはにかんだ。
「いつか、誰かのお嫁さんになることですの。だから、そのための包丁ですわ」
「そうか……いい夢だね」
アルファスは、そう言って微笑んだ。
アリアーゼの頬が、ほんのりと染まった。アルファスは、その様子を見て目を細めると、再び口を開いた。
「僕もね、夢がかなったんだ」
アルファスは、炉の火に目をやった。
「伝説の素材、オリハルコンを打つのが、鍛冶師としての夢だった。君が、それを運んできてくれた」
「まあ」
「よし、決めた」
アルファスは腕まくりをした。
「僕の技術を、すべて注ぎ込むよ。君の夢のために、僕が最高の包丁に仕上げてやろう」
「うれしい……!」
アリアーゼが、瞳を輝かせた。
リオナは少し離れた場所で、二人のやり取りを見ていた。二人は笑い合っている。お互いに夢を語り合う、爽やかなイケメンと、美人令嬢。
まるで、絵画のような光景だった。
「……お?」
いつの間にか隣に来ていたアッチムが、二人を見て、にやりとした。
「あの鍛冶師、いい男っすねぇ」
「……そう、ですね」
リオナの声には覇気がない。
「なーんか、あの二人、いい感じっすねぇ」
アッチムが、ひじでリオナをつつく。
リオナは、答えなかった。
ただ、笑い合う二人を、じっと見つめていた。
◇
オリハルコンは伝説の金属だけあって、加工にも時間がかかるらしい。
完成まで時間を要するため、アリアーゼたちは、そのままグラニスの里に滞在することとなった。
「伝説の金属だ。急いては、いい仕事はできないさ」
アルファスはそう言うと、来る日も来る日も、炉の前に立ち続けた。
火花が散る。金属を打つ音が、朝から晩まで、鍛冶場に響く。
その合間にも、アルファスは手を止めて、アリアーゼのもとへ顔を出した。
「アリアーゼ。今日の進み具合を、見てくれるかい」
「まあ……」
アリアーゼは、打ちかけの刃を、そっと両手で受け取った。
「とても、素敵ですわ。昨日よりも、ずっと」
その声は、心から嬉しそうだった。
「君が喜んでくれるなら、それだけで頑張れるよ」
「わたくしも、完成が待ち遠しいですわ」
アリアーゼは、刃から顔を上げる。
「僕の夢のためだ。全力を尽くすさ」
「わたくしの夢のため、でもありますわね」
「ああ」
アルファスは、優しく微笑んだ。アリアーゼも、つられるように微笑み返す。
二人は、しばらく、言葉もなく見つめ合っていた。
リオナは、少し離れた場所で、水を汲みながら、その様子を見ていた。
「……」
水瓶が、いっぱいになっていることに、しばらく気づかなかった。
「リオナ、いいんすか?」
アッチムが、隣に腰を下ろした。
「なにがです?」
「あの二人。なんだか、くっつきそうっすよ?」
アッチムは、鍛冶場のほうへ、視線をやった。中から、アリアーゼの笑い声が、微かに聞こえてくる。
「アリアーゼ様が望むなら、いいことだと思います」
リオナは、水瓶の縁を、そっと撫でた。
「お嫁さんになる……夢がかなうなら、わたしから言う事など、何もありません」
アッチムは、しばらく、何も言わなかった。
リオナは、アッチムと目を合わせなかった。
その肩が、小さく震えているのを、アッチムは見逃さなかった。
リオナは、自分の気持ちに戸惑い始めています。
次回、アルファスがアリアーゼの前にひざまずき……?




