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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第三章 花嫁修業2 伝説の包丁

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五百年の重み

 翌朝、四人は、霊峰へと向かって、歩いていた。

 アリアーゼと杖をついた長老が並んで歩き、その後ろをリオナとアッチムが続く。


「……アリアーゼ殿。一つ、詫びねばならんことが、ある」


 しばらく歩いたところで、長老が口を開いた。


「なんでしょう?」


「三つの試練を、越えてもらったが……実を言えば、それだけでは、オリハルコンは、手に入らんのじゃ」


 長老は、言いにくそうに、続けた。


「黙っておって、申し訳ない。じゃが、どうしても、解決せねばならん問題が、もう一つ、あっての」


「まあ。問題、ですか」


「うむ。……見てもらったほうが、早い。まずは、参ろう」

    

    ◇ 


 四人は霊峰の入口まできた。アリアーゼたち三人にとっては、戻ってきたという感覚の方が強かった。里の者たちが、例のゴーレムの残骸の周りで、忙しそうに動き回っている。


「長老様。試練とはいえ、ゴーレムさんをあのように壊してしまって、よかったのかしら」


 アリアーゼは、若干申し訳なさそうに、尋ねた。


「気にしなさんな。元はただの岩じゃ。魔石を替えれば、すぐに元へ戻る」


 長老は、ニコニコと笑いながら、答えた。


 四人は石の扉の前に立った。長老が扉に手を当てて何事かをつぶやくと、重々しい音を立てながら、ゆっくりと扉が開いた。

 扉をくぐると、その奥には下りの通路が続いていた。壁に埋まった石が、淡く光を放ち、足元をぼんやりと照らしている。


 どれほど、下っただろうか。ふいに、視界が、開けた。広大な、地下の空洞だった。天井は、闇に沈んで、見えない。


 その中央に、巨大な、金属の塊が、あった。


 鈍色の表面が、石の光を受けて、かすかに、光を返している。人の背丈の、何倍もあった。


「これが……オリハルコン」


 リオナが思わず、息を呑んだ。


「まあ……」


 アリアーゼも、目を見張る。だが、すぐに首をかしげた。


「あの、長老様。これは、あまりにも大きゅうございますわね。包丁一本には、多すぎませんこと?」


「うむ。切り出す必要がある。……じゃが、それができんのじゃ」


 長老が、オリハルコンの、傍らを、指さした。

 台座の、影になった、一角。そこに、丸く、巨大な岩が、うずくまっていた。


 いや。岩では、なかった。


 ごつごつとした、甲羅。四本の、太い脚。長い首は、地に垂れて、動かない。


 巨大な、亀だった。


「聖獣、テラトータス」


 長老が、声を落とす。


「この者だけが、オリハルコンを切り出すことができる。じゃが……五百年前から眠ったまま、一度も目を覚まさんのじゃ」


「まあ、五百年も……」


 アリアーゼは心配そうにテラトータスを見つめた。リオナも言葉を失っている。

 アッチムだけは、鼻歌交じりに、キョロキョロと辺りを見回していた。


「言い伝えの目覚めの言葉がある。じゃが、それを唱えても、起きた例しがない。切り出しさえできれば、あとの加工は、我らでもできるのじゃがな」


 長老は深くため息をついた。

    

「その、目覚めの言葉というのは?」


 リオナが、尋ねる。


「うむ」


 長老は懐から、古びた羊皮紙を取り出した。両手でうやうやしく広げる。

 そして、テラトータスの前に進み出た。背筋を伸ばし、息を吸う。


「目覚めの言葉――クックドゥードゥルドゥー」


 ……テラトータスは、微動だにしない。


「クックドゥードゥルドゥー!」


 もう一度、今度は声を張る。


 ……やはり、動かない。

 垂れた首も、閉じたまぶたも、ぴくりともしない。


「このとおり、なのじゃ」


 長老は肩を落とした。


「わしの代だけではない。先代も、その先代も。五百年の間、誰一人、起こせなんだ」


「クックドゥードゥルドゥー……」


 アリアーゼが、その言葉を繰り返す。


「妙な響きですわね」


「なーんか、聞き覚えある気も、するんすけどねぇ」


 アッチムが、首をひねる。だがそれきり、思い出せないようだった。


 リオナは、その言葉を、口の中で、転がしていた。


「クックドゥードゥルドゥー。何かの鳴き声みたいですね。コケコッコーみたいな」


 その、瞬間。


 ぴくり。


 テラトータスの、脚が、動いた。


「え……?」


 長い首が、ゆっくりと持ち上がる。固く閉じていたまぶたが、薄く開いた。


「ふぁ……ふぁあああ……」


 大きな口が、あくびに開く。


「あれえ、朝かなあ? おはよー」


 地下の空洞に、テラトータスの間延びした声が響いた。


「起きたぁぁぁ!?」


 長老の叫びが、それを、かき消した。長老は、そのまましばらく固まった。


    ◇ 


「起きましたわね」


 アリアーゼが、そっとつぶやく。

 長老は、固まったままだ。


「五百年……わしらの、五百年はいったい……」


 リオナは長老の肩に優しく手を置いた。


「同じ音でも、聞く人によって、変わりますから」


 そっと、羊皮紙を覗き込む。


「これを書き留めた方が、少し……耳がおかしかったのかもしれませんね」


 長老は、羊皮紙とテラトータスを、交互に見た。それきり、言葉が出てこない。


 当のテラトータスは、寝ぼけた目で、のっそりと辺りを見回している。やがて、その視線が一点で止まった。


「……あらあ?」


「よっす! お久しぶりっす」


 アッチムが、さっと手をあげた。


「あらぁ、アッチムちゃん! さっきあったばかりの気がするけど。わたし、どのくらい寝てたあ?」


「五百年くらい寝てたみたいっすよ」


「あらら。ついこの前ねぇ」


 のんびりと、二匹はうなずき合った。

 その様子を、長老がぽかんと見ている。


「……のう」


 恐る恐る、長老が口を開いた。テラトータスと気安くじゃれ合う、アッチムを指す。


「そちらの、お嬢さんは……何者、なのじゃ?」


 リオナは、ちらりとアッチムに目を向けた。


「こちらは、アッチム様。聖獣フェニックスの化身です」


 リオナは、さらりと答えた。


「…………ええええええ!?」


 長老の絶叫が、地下にこだました。


「せ、聖獣フェニックス!?  ずっと一緒におったのか!?」


「ええ。最初から」


「気づかなんだ……」


 長老は頭を抱えた。

 試練のあいだ、ずっと傍にいたあのギャルが、伝説の聖獣。


「もう……もう、何も分からん!」


 長老が、天を仰いだ。


「おぬしたちは、いったい何者なのじゃ!!」


 その、問いに、アリアーゼがすっと、前へ出た。

 胸を張り、そして、晴れやかに名乗った。


「わたくしたちは、アリアーゼ花嫁修業団ですわ!」


「ちがいます!」


 リオナが、すかさず、叫んだ。

 だが。


「いや……まあ、合ってますけど……」


 その声は途中から、しぼんで消えた。

    

    ◇ 


「……さてと。オリハルコンを切り出したいのじゃが。頼めるかの、テラトータス様」


 長老が恐る恐る話しかけた。


「ええー」


 テラトータスは、面倒くさそうに、首を伸ばした。


「せっかく、いい気持ちで、寝てたのにぃ。……まあ、いいわぁ。アッチムちゃんの連れなんでしょ?」


 のっそりと、腰を上げる。その体が淡い光に包まれた。


 ぽわん。


 光が収まると、そこに一人の女性が立っていた。ゆったりとした衣に、とろんとした目。どこか眠たげな風情の女だった。


「あたし、聖獣テラトータスの化身、チョキーナ。よろしくねぇ」


 チョキーナは、大きく伸びをした。


「さーて。ちゃちゃっと、やっちゃおうかしらぁ。どのくらいほしいのお?」


 その言葉に、アリアーゼが、目をキラキラと輝かせながら、前へ出た。

ついにオリハルコンを手に入れました!

次回、温泉で二人の距離が急接近します。

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