Gカップ
「まずは一つ目の試練じゃ」
長老は懐から、一つの水晶玉を取り出した。
澄んだ丸い玉だった。手のひらほどの大きさで、淡く、光を宿している。
「これは、ヴェリタスの瞳という魔道具じゃ。嘘をつけば、たちどころに赤く光る」
長老はそれを、三人の前に掲げた。そして、アリアーゼをまっすぐに見据えた。
「おぬしは、なぜ、オリハルコンを手に入れようとするのか。答えよ!」
アリアーゼは、胸を張った。そして。
「オリハルコンで、伝説の包丁を作るためですわ!!!」
静寂が辺りを包んだ。
「……えっと?」
長老の口から、間の抜けた声が漏れた。
澄んだ水晶玉は、ぴくりとも反応しない。
長老は慌てて咳払いをした。
「ご、ごほん。で、では問おう。その包丁で……何を、するつもりじゃ!」
「もちろん、お料理ですわ!」
……やっぱり、水晶玉は光らなかった。
「え……あ、そうなの? そのためのオリハルコン?」
長老は、水晶玉をまじまじと見つめた。何度覗き込んでも、玉は澄んだまま。一点の曇りもない。
リオナはそっと、ため息をついた。アッチムはそっぽを向いて口笛を吹いている。
長老はしばらく、水晶玉とアリアーゼの顔を交互に見比べていた。やがて、観念したように口を開いた。
「……とりあえず。悪いことには、使わなそうぢゃから。クリアでいっか。うん」
自分に言い聞かせるように、こくり、と頷いた。
◇
「で、では、二つ目の試練じゃ!!」
長老は、気を取り直すように、声を張り上げた。ちょっぴり、威厳が戻った。
長老は懐から羊皮紙と羽根ペンを取り出すと、さらさらと、何かを書きつけた。
「これは、神聖な古代文字じゃ。これを読み解き、その質問に答えよ!」
長老はそう言って、三人の前に羊皮紙を差し出した。
「まあ!」
アリアーゼは羊皮紙を受け取ると、まじまじと見つめた。そこには、見たことのない文字が書かれている。
「……だめですわ。さっぱり、分かりませんわ」
横からアッチムが覗き込んだ。
「あー、この文字、見たことあるっすねぇ。でも……意味は、忘れたっす!」
「……」
リオナは無言で、二人の間から羊皮紙を受け取った。
(ここは、わたしが読むしかない、ということですね)
神殿ではいくつもの古代文字を学んだ。この程度の古代文字なら読めるはずだ。リオナは文面に目を走らせた。
そして。
リオナの顔は、みるみるうちに赤くなった。思わず、羊皮紙から目を逸らしてしまう。
「どうしましたの、リオナ」
「い、いえ、あの……」
リオナは、羊皮紙と長老の顔を交互に見た。
「これ……本当に、答えないと、だめですか……?」
「試練ぢゃからな」
長老は、しれっと、言い放った。
リオナはうつむいて、押し黙った。羊皮紙を握りしめた手が、微かに震えている。やがて、覚悟を決めたように顔をあげると、小さく息を吸った。
そして。
「……と、トップが、90。あ、アンダーが、65……の、Gカップです」
消え入りそうな声で、そう答えた。顔が、耳まで真っ赤だった。
「うむ!」
長老は満足そうに、大きく頷いた。
「見事な、おっぱ――い、いや。見事な、知識ぢゃ! 若いのに大層な物(?)を持っておる! 二つ目の試練もクリアぢゃ!」
リオナは、羊皮紙を、地面に叩きつけたい衝動を、必死でこらえた。
◇
「よし。では……最後の試練じゃ」
長老は、こほん、と咳払いをして、居住まいを正した。
明らかに気配が変わった。声にも、これまでとは違う重みが宿った。
「これぞ、最大にして、最難関の試練じゃ。あそこに見えるのは、オリハルコンの眠る霊峰ゼルガイアじゃ。その入口には、古のゴーレムが、番人として据えられておる」
長老は、ゆっくりと告げた。
「あれを、打ち破ってみせよ。この五百年、達成者がいない最大の試練じゃ。あのゴーレムを打ち破らぬ限り、霊峰への入り口は……」
「ちょ、長老大変です!」
長老の声を遮るように、里の男が一人駆け寄ってきた。
「なんじゃ、騒々しい。今、大事な所なんじゃ!」
「そ、それが、その、試練のゴーレムが! 何者かによって倒されたようです!」
「……な、なんじゃと!」
長老は目を見開いた。
「……あ、あの」
アリアーゼが、申し訳なさそうに、長老に声をかけた。
「霊峰の入口の前に、いらした方でしたら、もう倒しましたけれど」
長老の、動きが、止まった。
「あの、大きな、石の人形の方ですわよね。ここへ来る前に、ばったり、お会いして」
「あー。あれ、無駄じゃなかったんですねー」
リオナは遠い目をした。
「あー! だから、見覚えあったんすねー! すっきりしたっす!」
アッチムが、ぽん、と、手を打った。
長老は、口を半開きにしたまま、固まっていた。やがて、わなわなと身体が震えだした。
そして。
「…………試練クリアじゃああああ!!」
里中に、長老の、悲痛な叫びが、こだました。!
三つの試練、まさかのあっさり(?)クリアです!
次回、新たな聖獣とご対面します。




