三つの試練
改めて、三人は、崩れたゴーレムを、振り返った。
あれだけの死闘の末に倒した。だが、何の変化もない。宝が出るでも、扉が開くでも、道が現れるでもない。ただ、残骸が残っているだけだった。
「結局、こいつ……何だったんすかね」
アッチムが、崩れた残骸を、つついた。
「分かりませんわ。扉の番人かと思ったのですけれど」
そう言って、アリアーゼも、首をかしげた。
「でも、なーんか……ちょっと、見覚えある気が、するんすよねー」
アッチムが首を傾げる。
「そんなことより、これからどうするんですか?」
リオナが、不安そうに尋ねた。
「そうですわね……」
「そうっすねー」
アリアーゼとアッチムは顔を見合わせた。だが、それ以上言葉が出てこない。
リオナは小さくため息を吐いた。
「それならば、やはり、グラニス族の方々を頼るのが一番じゃないですか?」
リオナの言葉に、アリアーゼはパッと表情が明るくなった。
「まあ! さすが、リオナは賢いですわ!」
「そうっすね。それが一番、てっとり早そうっす!」
そんな事を言う二人に、リオナはギュッと拳を握りしめた。こめかみがピクピクと脈打っている。
(あんたたちのせいで、遠回りしたんじゃねーの?)
かろうじて口にはしなかった。
◇
それから、三人は、里を探して、歩き回った。
だが、これ以上ないほど迷った。目印はない。街道も見つからない。
陽も次第に傾いてきた。
「今日も野営でしょうか……」
リオナは大きなため息をついた。
アリアーゼが腕を組み、空を見上げる。
「空から見られれば、すぐですのに……」
「あっ」
アッチムが、ぽんと手を叩いた。
「うち、そういや飛べるっす」
次の瞬間、いつもの丸っこい鳥へと姿を変える。
「そんじゃ、いってくるっす!」
ぱたぱたと羽ばたき、そのまま空高く舞い上がっていく。
アリアーゼとリオナは、ぽかんと、その姿を見送った。
「……」
「……わたしたち、結構疲れてるんですね」
リオナは、ぼそっとつぶやいた。
ほどなくして、アッチムが勢いよく舞い降りてきた。
「見つけたっす! こっちっす!」
「まあ! さすがですわ!」
アリアーゼの表情が、一気に明るくなった。
リオナはホッとため息をついた。
三人は、アッチムの案内で森の奥へと進んでいく。
しばらく歩くと、木々がふっと途切れた。その先には、大きな岩山を背にした、美しい集落が広がっていた。
「ここが……グラニス族の里」
リオナは、思わず肩の力を抜いた。
感動よりも先に、疲労感が襲ってきた。
◇
三人は里へと足を踏み入れた。
石を積んだ家々が、身を寄せ合うように、立ち並んでいる。畑を耕す者、水を運ぶ者。素朴な暮らしの気配が、そこにあった。
里の者たちが、三人に気づく。
「旅人……?」
「冒険者か? 久しぶりだな」
ざわめきが、広がっていく。
やがて、人垣の奥から、一人の老人が杖をつきながら進み出た。白い髭を長く伸ばし、深く皺の刻まれた顔をしている。里の長、といった風格だった。
「よくぞ、参られた。わしはこの里の長老じゃ。して、こんな辺ぴな里に何用かな」
長老は、三人をじろりと見回した。
「はい」
アリアーゼが進み出て、優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります。わたくし、アリアーゼ・フォン・ローレンスと申します。ぶしつけながら、お願いごとがありまして、参上いたしました」
アリアーゼが名乗ると、長老は目を見開いた。
「その名……もしや、グランベル最強騎士、アリアーゼ殿か?」
「そう呼ばれた時期もございましたわ。今は国を離れ、一介の修行者でございます」
長老は目を細めた。
「失礼だが、噂は伺っておる。王太子から婚約を破棄されて、国を出たと。それは、誠であったか。それで……アリアーゼ殿の願いとは、何かな?」
アリアーゼは、静かに居住まいを正した。
「では、単刀直入に申します。わたくし、伝説の素材、オリハルコンを求めて、この地に参りましたの」
その瞬間、その場はしんと静まり返った。
「オリハルコン……やはり、そうじゃったか」
長老の目つきが変わった。
「いかにも。この地にはオリハルコンが眠っておる。しかし、あれは聖なる金属。求められるままに渡せる物ではないのじゃ」
「存じております。ですが、わたくしには、どうしても手に入れなければならない理由があるのです。何か条件があるのなら、お聞かせくださいませ」
アリアーゼが言い終わると、長老は一度、静かに目を閉じた。
リオナは、不安そうに二人のやり取りを見つめている。
やがて長老は、ゆっくりと口を開いた。
「あれを求めて、これまで幾人もの者が、この里を訪れた。じゃが……」
長老の声が、低くなる。
「みな、私利私欲に走った、欲深き者ばかりじゃった。力を誇る者、財を求める者、名声を欲する者……。ゆえに、我らは、その者たちに、等しく三つの試練を課してきた」
長老は、まっすぐアリアーゼを見据えた。
「試練を乗り越えし者にのみ、オリハルコンは授けられる。おぬしたちに、その試練を受ける覚悟はあるか?」
アリアーゼは、一歩前へ進み出た。
「もちろんでございますわ」
その声に、迷いはなかった。
「この五百年、ただの一人も試練を乗り越えた者はおらん。途中で諦めた者もおれば、命を落した者もおる。それでもか?」
「望むところですわ!」
アリアーゼは、迷いなく頷いた。
「……よかろう」
長老は、ふっと口の端を上げた。
ついにグラニス族の里へたどり着きました。
次回、オリハルコンを手に入れるための試練が始まります!




