役割分担してみました
「あいつには、剣は効かないと思うっすよー」
岩の上にちょこんと座ったアッチムが、足をぶらぶらさせながら、のんびりした声で言った。
「アッチム様! あなたも手伝ってください!」
リオナが叫ぶ。
アッチムはひらひらと手を振った。
「あー、うち、まだ本調子じゃないんで。戦うのは無理っす」
「役立たず!」
リオナが、声を荒げる。
「まあまあ。その代わり、いいこと教えてあげるっす」
アッチムは、悪びれもせず、ゴーレムを指さした。
「あいつを攻略するには、段階的に動きを封じるといいっす」
アッチムはリオナに向き直った。
「まずは足っすね。リオナ、できるっすよね?」
――さすが、聖獣。
腹立たしいけれど、こういう時の見立ては的確だ。リオナの頭に、一瞬で攻略の絵が浮かんだ。
リオナは両手を前に構えた。
「アリアーゼ様! 支援します!」
「頼みますわ!」
ゴーレムが、再び拳を振り上げた。
その動きは、速い。だが、それだけではなかった。アリアーゼが横へ動こうとするより先に、ゴーレムの拳は、その逃げ道を塞ぐように振り下ろされていた。
「……!」
アリアーゼはとっさに身体をひねり、その拳を避けた。
「こちらの動きを先読みしているようですわね」
「かしこまりました。ならば!」
リオナは、すぐさま詠唱した。
「大気の風よ、集え! 砂を巻き上げ、その目を塞げ!」
突風が、砂と小石を巻き上げ、ゴーレムの眼窩へと吹きつける。
だが、ゴーレムは片腕を上げ、事もなげにそれを払いのけた。
「防がれた……!?」
砂煙が晴れる。ゴーレムは、微動だにしていなかった。
「賢いですわね」
アリアーゼが、剣を構えたまま、目を細めた。
「ただ大きいだけの、木偶の坊ではないようですわ」
「アリアーゼ様、笑っている場合では……!」
「うふふ。だからこそ、燃えるのですわ」
アリアーゼの声は、どこか楽しげだった。
◇
「やはり、足を止めるのが先決ですね! 大地の水よ、集え。滲み出て姿を現せ!」
リオナの目の前の地面に亀裂が走り、隙間から、水がじわりと滲み出した。
「アリアーゼ様! こちらへ!」
アリアーゼは、一瞬でリオナの意図を悟った。
「承知しましたわ」
ゴーレムの拳が迫る。
アリアーゼは、その間合いを正確に見極め、拳が届く寸前で身を翻す。
「ゴーレムさん。こちらですわ」
挑発するように微笑み、後方へ跳ぶ。ゴーレムは逃がすまいと、その後を追う。
そして、ゴーレムの足が濡れた地面にかかった。
「今だ! 地面の水よ! 氷となりて、その足を繋ぎ止めよ!」
リオナの詠唱と共に、地面からメキメキと氷が生えた。
氷はゴーレムの足に絡みつき、地面へと繋ぎ止めた。
「ひゅー。やるっすねえ」
アッチムは口笛を鳴らし、感心したように言った。
「次は腕っすね。あいつ、関節が弱点っすよ」
「関節……」
リオナは、ゴーレムの体を、素早く観察した。岩の体は隙間なく硬い。だが、腕や脚の付け根だけは、岩と岩の継ぎ目が、わずかに覗いている。
「アリアーゼ様! 関節を狙います! 対象は右腕です!」
「承知しましたわ!」
ゴーレムは、なおも動こうと足に力を込める。だが、氷ついた足はびくともしない。
「いきますわ!」
アリアーゼは、一気に右腕の間合いへ飛び込んだ。
「グ、ゴォォッ!」
ゴーレムはアリアーゼへ向かって右拳を振り下ろした。アリアーゼは軽やかに身をひねり、その一撃をかわす。
拳が地面にめり込み、右腕が伸びきった。
「よしっ!」
リオナは両手を突き出した。
「大気の風よ、集え! あの岩を浮かし、放て!」
先の尖った大岩がぶわっと宙に浮き、ゴーレムの伸びきった腕の付け根へ突き刺さった。
――バキンッ!
関節が砕け、右腕が地面へ崩れ落ちる。
「グ、ゴォォォッ!」
ゴーレムは左腕だけを残し、怒りの咆哮を上げた。
「上出来っすね!」
アッチムが再び口を開いた。
「アリアーゼ! あいつの本体は後頭部の魔石っす!」
「お任せくださいませ!」
アリアーゼは、にやりと笑った。
「グ、ゴォォッ!」
残された左拳が唸りを上げるが、アリアーゼは軽やかに身をかわした。拳は勢いよく地面へと突き刺さる。
「いただきですわ!」
アリアーゼは、その腕を駆け上がった。あっという間に肩へ飛び移る。
「終わりですわ!」
剣が一直線に振り下ろされた。
――パキィン!
後頭部に埋め込まれた魔石へ、剣が深々と突き刺さり、魔石は砕け散った。
「ゴ、ゴォォォォォォッ!」
ゴーレムは悲鳴を上げるように全身を震わせた。巨体に無数の亀裂が走る。
やがて。
――ズズゥン!
ゴーレムは音を立てて崩れ落ちた。
◇
「やったあ!」
「やりましたわ!」
リオナとアリアーゼは、同時に駆け寄った。二人は勢いよく抱き合う。
頬と頬がぴたりと触れた。リオナは我に返った。
(あれ? アリアーゼ様、近くね?)
リオナは顔を真っ赤にして、石人形のように固まった。
アリアーゼ様の頬が、自分の頬にピタリとくっついて離れない。
リオナの鼓動が意に反して早くなる。
(アリアーゼ様、近すぎますー!)
リオナの内心をよそに、アリアーゼは、うっとりと目を細め、頬をすりすりと擦り寄せている。
「ふふ。リオナの頬、やわらかいですわ」
リオナの心臓は、今にも飛び出しそうだった。これ以上は、気を失ってしまうかもしれない。
その時。
「はいはーい。いちゃいちゃするのは、そこまでっすよー」
アッチムが、ぱんぱんと手を叩きながら言った。
その瞬間、リオナは弾かれたように、アリアーゼから飛びのいた。
「い、いちゃいちゃなんて、してませんっ!」
「あら」
アリアーゼが、きょとんと、首をかしげる。
「楽しかったですのに」
「もう! お二人とも、からかわないでください!」
リオナは、真っ赤な顔のまま叫んだ。ださい!
初めての共闘で、巨大なゴーレムを打ち破りました。
次回、グラニス族の里へ。オリハルコンを手に入れるための試練が始まります。




