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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第三章 花嫁修業2 伝説の包丁

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霊峰の番人

 船を降りてから、数日が過ぎた。


 三人は、乾いた街道を、ひたすら北へ歩いていた。

 グラニス族の地は、これまで通ってきたどの土地とも違っていた。切り立った岩山が、行く手を囲むように連なっている。草木は少なく、風が吹くたびに、乾いた砂が足元を撫でていった。


「アッチム。霊峰ゼルガイアへの道は、わかるのかしら?」


 アリアーゼが尋ねる。アッチムは、腕を組んで、しばらく空を見上げた。


「うーん……昔、来たことはあるんすけどねぇ」


 そして、あっさりと首を振った。


「昔過ぎて、よく覚えてないっす!」


 アッチムはそう言って、ケラケラと笑った。


「まあ」


「……役に立ちませんね」


 リオナが、半眼でアッチムを見つめる。

 アッチムは、悪びれる様子もなく、遠くを指さした。


「でも、たぶん、あの一番高いやつじゃないっすかね。霊峰っていうくらいっすから」


 その先には、ひときわ高い山が、雲を突いてそびえていた。頂は、うっすらと白く霞んでいる。


「まあ、立派な山ですわね」


 アリアーゼが、目を輝かせた。


「きっと、あそこに、オリハルコンがあるのですわ! さあ、参りましょう!」


 アリアーゼは、迷いなく歩き出した。

 そのまま街道を外れ、岩場へ向かっていく。

 

「アリアーゼ様!?」


 リオナは、慌てて後を追うと、アリアーゼの袖を掴んだ。


「そちらは、道ではありません!」


「あら。でも、山はあちらですもの。まっすぐ向かったほうが、早いですわ」


「そういう問題では……」


 リオナが言い終わる前に、アリアーゼは、ずんずんと岩場へ分け入っていく。

 アッチムも、鼻歌を歌いながら、のんびりと後に続いた。


「まあ、なんとかなるっすよ」


「なりませんってば! お二人とも、お待ちください!」


 リオナの声が、乾いた岩山に響く。だが、二人は、まるで意に介さない。


 リオナは、大きくため息をつくと、諦めたように、二人の背中を追いかけた。

 置いていかれたら、それこそ大変だ。


 (聖獣様と、最強騎士様! わたしは普通の女の子ですよ!)


    ◇ 


 道なき道を、二日歩いた。


 リオナは息も絶え絶えだった。

 ふと、視線を向ける。アリアーゼの足取りには、少しも迷いがない。アッチムも鼻歌交じりだ。


 (なんなの、こいつら……)


 やがて、三人は岩山の切れ目にたどり着いた。


 その最奥には、山そのものを削り出したような巨大な石の扉が鎮座していた。風雨にさらされながらも、その表面に刻まれた古い文様だけは、今なお鮮明な姿を残している。


「まあ。それらしい入口ですわね」


 アリアーゼが、目を輝かせる。


「ほら、リオナ。やはり、こちらで正しかったのですわ」


「……たまたまです」


 リオナは、汗を拭いながら返した。

 内心では、そっと胸をなで下ろす。街道を外れてからというもの、本当に目的地へ辿り着けるのか、不安で仕方がなかった。


 三人は、入口へ近づいていく。

 その時だった。


 ――ズシン。


 地面が、大きく揺れた。


「え……?」


 リオナが、足を止める。


 ――ズシン。ズシン。


 揺れは、規則正しく近づいてくる。何か途方もなく重いものが、こちらへ歩いてくる。


 そして――。


 入口の脇の岩陰から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。

 巨大な、人の形をした岩の塊。


 ゴーレムだった。


 見上げるほどの背丈。ごつごつとした岩の体は、遺跡の一部が動き出したかのようだった。眼窩の奥に、鈍い光が灯っている。


「グ、ゴォォ……」


 それは、地を這うような声で、唸った。


「な……!」


 リオナは、目を見開いた。驚きのあまり、固まって動けない。

 ゴーレムの腕が、唸りを上げて振り下ろされる。


「きゃっ!」


 思わず目を閉じた。


 その瞬間、ふわり、と体が宙に浮いた。


「え……?」


 気づけば、アリアーゼに抱きかかえられていた。


 ――ドォン!


 轟音とともに、岩盤が砕け、砂煙が舞い上がる。

 さっきまで、リオナが立っていた場所は、抉れて、大きな穴になっていた。


「速い……!」


 リオナの背筋が、冷たくなった。あれだけの巨体で、この速さ。まともに食らえば、ひとたまりもない。


「リオナ! 下がってなさい!」


 アリアーゼはリオナを地面に下ろすと、静かに剣を抜き、ゴーレムへ向き直った。

まっすぐ山へ向かうアリアーゼ。まさか本当にたどり着くとは……。

次回、巨大ゴーレムとの戦いが始まります!


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