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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第三章 花嫁修業2 伝説の包丁

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高く売れました

 ギルドワさんの家で、アリアーゼは、しばらくの間、旅に出ることを告げていた。


「アッチムの案内で、グラニス族の霊峰まで行って参りますわ。目的は、オリハルコンですの」


「オリハルコン……そりゃあ、伝説に出てくる素材の名前じゃないかね?」


 ギルドワさんは、しばらく絶句した。


「しかし、また、何でそんなものを? 伝説の魔獣でも倒すのかい?」


 ギルドワさんの疑問はもっともだ。リオナは、これからアリアーゼが告げようとしていることを思って、小さくため息をついた。


「わたくし、伝説の包丁を手に入れたいのですわ!」


 ギルドワさんは、口を半開きにしたまま、固まった。

 やがて、豪快に、笑い出した。


「はっはっは!  さすが、アリアーゼ様は、スケールが違うな! 花嫁修業なんて言ってたら、伝説の包丁だあ? こりゃ、たまげた」


 ギルドワさんの言葉に、アリアーゼは嬉しそうに、はにかんだ。それを見て、リオナは、少しだけ、心が温かくなった。


    ◇ 


 旅立ちの、朝。


 村の入り口まで、見送りに来たギルドワさんが、少し照れくさそうに、口を開いた。


「こんなこと言うのは、おこがましい、かもしれんが……」


 言葉を選ぶように、一度、間を置く。


「お前さんたちは、わしらにとっちゃ、娘みたいなもんだ。気を付けて行ってくるんだよ」


 その一言に、アリアーゼの動きが止まった。


 しばらく、何も言えないまま立ち尽くしていたが、やがて、その目に静かに、涙が浮かんだ。


「わたくし……本当の両親は、幼い頃に亡くしましたの」


 声が、微かに震える。


「いまの言葉……とても、嬉しゅうございました」


 そして涙を拭うと、晴れやかな笑顔で、深く一礼した。


「行ってまいります、お父様!」


 ギルドワさんも、照れ笑いを浮かべた。


「帰ってきたら、伝説の包丁で料理を作ってくれよな! アッチム様、二人を頼みます」


「まかせるっす。うちがいれば、百人力っすよ!」


 アッチムは腕を曲げて力こぶを作る仕草をした。


(旅に出ることになったの、おまえのせいだけどな……アッチム)


 リオナは心の中で悪態をついた。


    ◇  


 グラニス族の霊峰へは、船旅を挟む。

 三人を乗せた船は、港をゆっくりと離れていった。


 穏やかな、波。青い、空。

 静かに響く波音の中、リオナはそっとアリアーゼの横顔を見つめた。


「アリアーゼ様」


「なにかしら」


「ギルドワさんとの会話……とても、嬉しそうでしたね」


 アリアーゼは、少し微笑んで、遠くの水平線に目を向けた。


「そうですわね。少し、昔の話をしてもよろしくて?」


 リオナは、静かに頷いた。


「わたくし、侯爵家の生まれですの。両親は共に、騎士団に所属しておりました。でも、わたくしが幼い頃に、揃って、戦で命を落としましたわ」


 その口調は、あくまで穏やかだった。


「それで、グランベル王家に引き取られて、シュレム殿下と、兄妹のように育ちましたの」


 波の音が、その静かな語りに寄り添っていた。


「毎日、泣いてばかりのわたくしに、幼いシュレム殿下が、こうおっしゃいました」


『お嫁さんになれば、本当の家族に、なれるよ』


 アリアーゼは、その言葉を一つずつ確かめるように口にした。


「……」


 リオナは黙ってアリアーゼの言葉に耳を傾けていた。


「その言葉が、どれほどわたしの支えになったことか」


 アリアーゼの目は、遠い過去を見つめていた。


「誰かのお嫁さんになること。それは、わたくしの夢となりました。だから、シュレム殿下が許嫁と決まった時、わたくしは本当にうれしかった。だって、夢が、約束された確かな未来となったのですもの」


 アリアーゼは、少しだけ微笑んだ。


「だから、わたくしは、安心して剣を学ぶことができました。国のために、戦い続けることができたのですわ」


「……」


「でも」


 その声が、少しだけ翳った。


「婚約破棄を、告げられてしまいました」


「……」


「わたくしの約束された未来が、なくなってしまいました」


 アリアーゼは静かに首を振った。


「わたくしには、お嫁さんになる資格がなかったのですわ」


 リオナは、言葉を失っていた。


「だから、今、お嫁さんになるために修行をしているのです。まだ見ぬ旦那様のために」


 アリアーゼはそっと目を伏せた。


    ◇  


 しばらく、誰も何も言わなかった。

 ただ、波の音だけが静かに辺りを満たしていた。


 アリアーゼは、ふっと小さく笑った。


「聞いてくれてありがとう。わたくしは、一足お先に休ませてもらいますわね」


 アリアーゼは、小さく手を振ると、そのまま船室へと入っていった。

 甲板には、リオナとアッチムだけが残された。


 リオナはしばらく波間を見つめていたが、やがて口を開いた。


「アリアーゼ様が、本当にほしいものは……家族なのではないでしょうか」


 それまで静かに話を聞いていたアッチムが、珍しく真面目な表情で口を開いた。


「家族って、いつか、いなくなるっす」


 その声には、いつもの軽さはなかった。


「だから、新しい家族を作るんすよ」


 その短い言葉が、静かにリオナの胸へ落ちていった。


「そんで――」


 アッチムがリオナへ振り返った。


「リオナ、今のアリアーゼにはあんたがいるっすよ」


 アッチムは笑顔を見せると、船室へと消えた。


 甲板には、リオナだけが残された。

 リオナは、静かに水平線を見つめながら、そっとつぶやいた。


「そうです。今は、隣に私がおりますよ。アリアーゼ様」


 そう言い残して、リオナも船室へ戻っていった。


 船は、静かに進み続けていた。


    ◇ 


 数日後――。


 船は、港町へと到着した。

 朝市で賑わう港町を、三人は並んで歩いていく。その背後から、商人たちの世間話が聞こえてきた。


「近頃のグランベル王国は、ひどい有様らしいな」

「シュレム殿下は、政務をおろそかにして、ナターシャとかいう令嬢の所へ入り浸りだとか」

「王国騎士団の弱体化も深刻らしい」

「街道じゃ魔獣どもが暴れてるってのに、何の対策も打たれちゃいない」


 年配の商人が、寂しそうに呟く。


「俺はグランベルから来たんだが、本当にひどいよ。アリアーゼ様がおられた頃は、こんなことなかったんだがなぁ……」


 その言葉に、リオナは思わず足を止めた。

 だが、アリアーゼは気づいてないようだった。まっすぐ前だけを見つめ、いつものように明るく微笑む。


「さあ、参りましょう!」


 その笑顔を見つめ、リオナも静かに微笑んだ。


「はい!」


 リオナは、アリアーゼに並ぼうと速足になった。


 その時。


「う、やばい。出そうっす」


 アッチムがお腹を押さえた。


 ポンッ。


 小さな鳥の姿になると同時に、ころん、と卵が一つ転がった。


「まあ!」


「もう、癖になってるんすよ。う、もう一個っす」


 ころん、ともう一つ転がった。


「さあ、今日の分の二個っすよ」


 鳥がケタケタと笑う。二人も、つられて笑った。


 卵は高く売れました。

アリアーゼの夢の理由が、少しだけ明らかになりました。

次回、霊峰ゼルガイアで巨大な番人が三人を待ち受けます。


※ぜひ第18話もお楽しみください!

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