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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第三章 花嫁修業2 伝説の包丁

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アリアーゼの恋

 ラカの村では、年に一度の、収穫祭が、開かれていた。


 今年の収穫祭は、ことのほか、盛り上がっていた。

 アリアーゼとリオナにより、畑を荒らしていた魔獣が討伐され、そのおかげで、例年以上の豊かな収穫が得られたこと。

 そして、フェニックスの化身であるアッチムが、こうして村の祭りに一緒に参加していること。

 この二つが、村人たちの喜びを、いっそう大きなものにしていた。


 広場には、色とりどりの旗が、はためいている。あちこちの屋台から、香ばしい匂いが漂ってきた。村中の人々が、笑い、歌い、踊っている。


「フェニックス様だー!」


 子どもたちが、アッチムの周りへ集まってきた。


「見たい! 見たい!」


「よーし、見せてやるっす!」


 アッチムは、得意げに胸を張る。


「とりゃっ!」


 ぽわんっ。


 柔らかな光に包まれたかと思うと、そこには、あの丸っこい鳥の姿が現れた。


「わあああーっ!」


 子どもたちが、歓声を上げる。

 そして、その直後。


「フェニックス様だぁぁ!」

「ありがたや……!」

「ああ、神々しい……!」


 大人たちは一斉に、その場へひれ伏した。


「はっはっはー。我は聖獣フェニックス! 我をたたえよー!」


 アッチムは両方の翼を広げた。丸っこい鳥が翼を広げても、威厳など、まるでなかった。

 どうやらアッチムは調子に乗っているようだ。


 しかし。


「ははー!」

「ありがたやー!」

「フェニックス様ばんざーい!」


 村人たちが、口々にアッチムを崇め称える。

 

「まあ、素晴らしいですわ」


 アリアーゼが、感心したように、頷いている。


「……何をやってるんですか」


 リオナだけが、小さくため息をついた。


    ◇ 


「アリアーゼ様も、何か見せてください!」


 和やかな空気の中、村人の一人が、声を上げた。


「まあ。わたくしですか。よろしくてよ」


 アリアーゼは、静かに剣を抜く。村人の一人が、景気づけにと、大きな肉の塊を宙へ放り投げた。

 次の瞬間。


 ――シュンッ。


 剣が、一閃した。

 肉は、ふわり、と宙を舞い、そのまま大皿の上へ落ちる。そこには、驚くほど均一に切りそろえられた、薄い肉のスライスが、美しく並んでいた。


「おおおおおっ!」


 広場は、大きな拍手に包まれた。


「見事だ!」

「さすが、アリアーゼ様!」


 料理人も、目を丸くしている。

 

 そんな中、リオナは、昨日の夕飯を思い出していた。ふぞろいに切りそろえられた肉の山だった。

 そっと、アリアーゼの耳元へ、顔を寄せる。


「……アリアーゼ様」


「なんでしょう?」


「なぜそれが、キッチンでは、できないのですか?」


「……ほ、包丁と剣は、違いますわ!」


 アリアーゼは珍しく、少しだけ慌てた。


    ◇ 


「人間のお祭りってのは、賑やかでいいっすねぇ」


 アッチムが屋台の串焼きを頬張りながら、にこにこと辺りを見回した。


「楽しんでいただけて、よかったです」


 リオナも、その賑わいにつられるように微笑んでいた。


 広場の中央には、大きな鉄板が据えられていた。村一番の料理人が、その前に立ち、慣れた手つきで、次々と料理を仕上げていく。


「まあ……」


 その手さばきを見て、三人は思わず足を止めた。

 男の手にある包丁は、柄がすっかり使い込まれて、艶を帯びている。刃も、幾度となく研がれてきたのだろう。独特の輝きを放っていた。


「使い込まれた、包丁ですわね」


 アリアーゼが、感嘆したように呟く。


「おう、さすがアリアーゼ様。よくわかってるね」


 料理人は手を止めずに、豪快に笑った。


「若いころから、こいつを使い込んでる。もう、二十年以上の付き合いさ。普通の鋼とは、一味違うんだよ」


「まあ……」


「俺にとっちゃ、これが、最高の包丁さ」


 料理人は、誇らしげにそう言った。再び、鮮やかな手つきで、野菜を切り分けていった。


 リオナは、その包丁をじっと見つめた。


 二十年。


 毎日使い続け、何度も研ぎ、手入れを重ねてきたからこそ生まれた艶。

 だから、あの料理人は、あんなにも誇らしげに笑えたのだろう。


 ――きっと、あれが、彼にとっての最高の包丁なんだ。


 その時。


「最高の……包丁……」


 アリアーゼの脳裏には、まだ見ぬ旦那様の姿が浮かんでいた。


    ◇ 


 キッチンで包丁を使うアリアーゼ。それを見つめる、まだ見ぬ旦那様。


『ああ、アリアーゼ』


『はい。旦那様』


『最高の包丁を振るう君は、なんて素敵なんだ』


『まあ、そんな……』


 優しく笑いかける旦那様に、アリアーゼの頬が染まる。


『君の料理がこんなに素晴らしいのは、最高の包丁のおかげ……』


「アリアーゼ様?」


 リオナが、アリアーゼに声をかける。しかし、返事がない。

 アリアーゼは、どこか遠くを見つめながら、怪しい笑みを浮かべている。


「アリアーゼ様が、妄想に入られました」


 リオナは、小さく、ため息をついた。


「事件の予感がします」


    ◇  


 しばらくして、屋台を一通り見て回った三人は、広場の隅のベンチに腰を下ろした。


「アリアーゼ様、どうされました?」


 リオナが、まだ、どこか上の空なアリアーゼの顔を、覗き込んだ。


「リオナ」


 アリアーゼが、ゆっくりと、顔を上げた。


「あの、料理人の方、素敵でしたわね」


 そう言って、アリアーゼは頬を染めた。


「……え?」


 リオナの心臓が、どきっと、跳ねた。


「も、もしかして、アリアーゼ様、恋ですか?」


 思わず、そう尋ねてしまう。


「ええ」


 アリアーゼは、静かに頷いた。


「わたくし、恋をしてしまいましたわ」


「え、ええええええ!?」


 リオナの大きな声が、広場に響いた。周りの村人たちが、何事かとこちらを振り返る。


「そ、そんな、いきなり恋なんて――」


「あの包丁ですわ」


「……え?」


 リオナの動きが止まった。


「あの包丁の輝きに、恋をしてしまいましたの」


 アリアーゼは、うっとりと、両手を頬に当てた。


「あ……なんだ、そういう……」


 リオナは、へなへなと、力が抜けていくのを感じた。


「リオナ!」


「な、なんでしょう」


「わたくしも、最高の包丁を、手に入れたいですわ!」


(――あ、やばい)


 リオナの背筋に冷たいものが走った。この流れはやばい。


「そ、それなら!  いい包丁を、街に買いに行きましょうね!」


 リオナは慌ててそう提案した。まずは、常識的な範囲で収めなければ。


 だが。


「いいえ、リオナ」


 アリアーゼは、きっぱりと首を振った。


「わたくし、伝説の包丁を手に入れたいですわ」


 (やばい、だれか、とめてー!)


 リオナは心の中で、悲痛に叫んだ。


「伝説の包丁っすか」


 串焼きを食べ終えたアッチムが、のんびりと口を挟んだ。


「刃物で、伝説の素材って言ったら――オリハルコンじゃないっすかね」


「オリハルコン……!」


 アリアーゼの目が、大きく見開かれた。


「まあ!  それですわ! オリハルコン! ぜひ、手に入れましょう!」


 リオナは天を仰いだ。


 (アッチム! てめー、あとで覚えてろよ……!)


 こうして、伝説の包丁を求める新しい旅が、始まろうとしていた。

新章が始まりました!

次回、アリアーゼたちはいよいよオリハルコンを求めて旅立ちます。

旅の途中では、アリアーゼの過去も少しずつ明らかに……?

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