94.革命家の日記III
ウーリャ視点
『新聞ナロート
嗚呼、素晴らしき工業発展
___日、帝国政府は都市の工業化に力を入れると発表__既に一部地域ではかなりの発展が起こっており、噂では『パンが無料で配られている』______このまま行けば、おそらく1年と経たず全都市は働かずともパンを______』
…極端で変な記事でしょ?
まぁ、私が書かせたのだけれど。
こんな甘美な話…嘘に決まっている。
知識人層はこんな話『妄言だ』と切り捨てるだろう。
ふふっ…先生方は実に頭が良い。
…そんな先生方の意見なんて聞いていないので、お帰りください。
この文を流布する目的は、あくまで一時的に人民大衆に『夢』を配ることである。
あぁ…別に私が、唐突に善性を得てそういう行為に及んでいるわけではない。
読者諸賢もよく聞くのでは?
『上げてから下げた方が、それにより負う心理的ダメージは大きいものとなる』
というやつです。
…そう。『夢』をばらまいて、現実から目を逸らさせて、その期待が膨らみきったところで、誇張を多分に含んだ『現実的な脅威』の記事…例えば飢饉に関する記事なんかを流布し、その責任を帝国政府に負わせ、糾弾するんです。
書いていること自体は『主観と誇張を多分に含んだだけの事実』です。
…つまり、これを弾圧したら政府は更に立場が弱くなるわけです。
楽しいですね?
…さて。
最近は割と暇だ。
いや、亡命中だし、それが普通なのだとは思うのだけれど。
『オスト』としての仕事は片付けたし、新聞社に『夢』を語らせる指示も出した。
…料理でも作ってみようか?
何でもかんでも家政婦に投げていては生活力は培われない…と聞くし。
経験はインスピレーションを生む。
この機会に一度やってみよう。
まずは、屋敷内の図書室で料理本を探す。
…無い。
まぁ…良い。
美味しいものを詰め込めば、とりあえず美味しくなるだろう。
次、食糧品。
倉庫を漁れば大量の食品類がちゃんと備蓄されていた。
…流石、私の家政婦達。
その後、キッチンに行き______
______お恥ずかしいことに、かなり大変な失敗をしてしまった。
今、私の目の前には黒い固形物と、濁った水がある。
前世では割とできる方だった…と自負していたのだが…これがダニング・クルーガー効果というやつだろうか。
…そういえば兄も…確か料理が苦手だった。
きっとこれは遺伝のせいだろう。そうに違いない。
ふむ…読者諸賢、『転生した人間に遺伝も何もあるのか』という至極真っ当な意見は、今は聞きたくない。
…わかるね?




