88.革命家の日記
ウーリャ視点。
兄の死から、はや十数年。
当時、物心ついたばかりであった私は、亡命先のルーシル帝国で28歳の誕生日を迎えていた。
そんな私は兄を真似て、活動家……なんて馬鹿なことをやっているわけではなく、『オスト』の名義で小説家、思想家をやっている。
ルーシル帝国にいるおかげで、ライヒで政界をめちゃくちゃにするような思想本を書いても逮捕されない。
10年ほど前にはなるが、私の『ライヒ改造法案大綱』なんて雑に考えたタイトルの思想本を真面目に信じ込んで反乱を起こし、統合参謀本部占拠まで起こした連中なんかもいた。
…当時、私は18歳で、新聞でその話を見た時は吐くほど笑った記憶がある。
もっとも、すぐに鎮圧されたのだけれど。
読者諸賢の中には、既に察している方もいらっしゃるでしょう。実は私、『転生者』なんです。
ええ、最近流行りのアレです。
もっとも、私は生前読む機会に恵まれませんでしたが。
この秘密は私とあなたの間だけのものといたしましょう。
作者との2人だけの秘密…お好きでしょう?
こほん。話を戻して、最近私は『とあるもの』に熱中しているの。
それは1人の天才の著作群であり、私が歪曲する実験対象。
その天才の名前は『オリビア・フォン・グラウエンブルク』。
この世界における『近代最初の天才』であり、『稀代の戦略家』として有名…だけれど、その中でも私が注目するのは彼女の『思想』。
いわく、『人外も人間も、人間相当の知性があるのなら、平等に扱うべき』なのだそう。
当時、私はこれを素晴らしい綺麗事だと感心した。
しかし、この思想を活用すれば…一般に前世で言われていた、『全体主義』に近い思想を、化粧で仕立てて再現することができるのでは無いだろうかとも考えた。
何故なら『平等』とは、ルサンチマンを煽り立てる上でとても便利な言葉であり、また国家を簒奪した後に『弾圧』の口実として利用できる…極めて合理的な、汎用性ある言葉であるからだ。
『平等を否定する反革命分子』なんてレッテルを貼れば、簡単に色んな人間を裁ける。
そういうわけで、私は今、オリビアの著作をあえて間違った『引用』と拡大解釈でもって『暴力的』なものへと昇華させ、本に纏めるということをしている。
…この思想の名前は…どうしよう…そうだ『グラウエンブルク=シヴグラード主義』にしよう。
誰も100年前に書かれた難解な原典なんか読まないだろう。
…………ああ、最後に。
私としたことが、自己紹介がまだでしたね。
まぁもしかすると、既にご存知かもしれません。
ウーリャ・シヴグラード…28歳。
職業は物書きをやっておりまして、そこそこの稼ぎがあります。
両親も兄も既におりません。
独身なので、お付き合いする相手を探しています。
良ければ……なんて、冗談です。
真に受けないでくださいね?




