86.マフィアへの依頼
ミオ視点。
『エストブルク骨董品販売』の看板を掲げた事務所にて、早朝。
「お嬢、客がいらしてますが…」
ガタイのいい部下が窓の外をちらりと見たあとそう言ってくる。
妙な話…今日は予約が入っていないのだけど。
「誰が来たの?」
「おそらく…市長です」
「わかった。とりあえずいつも通り、リムリー以外、ここの部屋から離れて仕事しといて。内容によっては呼ぶから」
部下達はバッと敬礼をして、ぞろぞろと部屋の出口へと向かっていった。
部下の推測通り、市長が来た。
それもかなり憔悴した様子で。
元軍人という経歴が示すように、市長はかなりガタイが良く、黙って立っていればボディガードと見間違えるほどの筋肉を持っている…のだが、今はそれを内向きに丸め、実年齢より20歳老けて見えた。
「市長、どうかなさったんですか。とりあえず今は落ち着いて…予約すらする暇もない事態なのは察していますが、内容を言われないと、私にもどう対応すれば良いのか分かりません」
あくまで事務的に、かつできるだけ同情したような声でそう言う。
とりあえず落ち着いてもらわないとマトモに話すことだってできない。
「あ、あぁ…そうだな…」
「必要なら紅茶でも出しますが…」
「いや、大丈夫だ。ありがとう…言われた通り、落ち着いて…ちゃんと端的に話そう。私の愛娘が誘拐された」
…!?
「えっ…でも…は?そんな…」
取り繕う心の余裕すらない。
「…私も…信じられないのだが、事実だ」
「今どこに!」
敬語も忘れて、そう迫る。
「それが分からないから、捜索願いを出しに来た。警察にも依頼はしているが、あまり積極的には探してくれん」
それはそうだろう。警察にとってはただの誘拐だ。
身代金を要求する立てこもり事件に発展でもしない限りは、本格的な捜査は無い。
「今すぐ探しに行く。だから分かっている情報全部吐いて!」
「もちろんだ!全面協力する!私もこの足で探す!だから…この通りだ…どうか頼む」
市長はマフィアの私に深々と頭を下げた。
とりあえず部下たちを動員して、ひたすら足で稼がせる。レオにも協力を仰いで、幾らか人員を確保…聞き込みに当てた。
レオは市長の書いた許可証を片手に警察に乗り込んで、誘拐犯に関する現在の捜査状況を確認する。
私は魔法を使って捜査をすることにした。
「…何してるの?」
目を瞑り黙り込んでいる私に、リムリーはそう聞く。
「エストブルク全域で、植物が生い茂るような廃屋内に人の呼吸があるかを感知してる」
…8件あった。
そのうち5件は1人分の呼吸しかない。
多分浮浪者の類いだろう。
残りは…実際に見に行くだけの価値がある。
地図を取りだし、残りの3件がある場所に丸を付ける。
…今からどう部下たちに連絡すべきか…
「…待って。私が縮地魔法を使えば、貴女をそこに連れて行ける」
リムリーは、目の前にパッと現れて、私の顎をクイっと持ち上げながらそう言った。
「…!その手があったっ…今すぐ行こう!」
その言葉にリムリーは頷いて、私の手に触れると、パッと背景は切り替わった。




