85.ミリア・シュタウフェンベルク
Tips:神聖ライヒの皇帝は代々、信仰契約をすると狂うと言われていたらしいです。『神の味覚』を得て、食事を摂らなくなり、空腹を薬物で誤魔化して…といった感じで肉体の衰弱が狂化を促していたみたいですね。
だから後継となる統一王国には『君主を堕落させる』として継承されなかったわけです。
もっとも、現ライヒの皇帝ラディナは『神の味覚』を持っているのですが。
一年ぶりに首都のシュタウフェンベルク邸に来た。
「ミリア、いる?」
「あ、ソフィアお姉ちゃん。久しぶり!」
落ち着いた令嬢の雰囲気を持った15歳のミリアは、私を見るや否やこちらに駆けてきてくれて、ハグをした。
「勉強、頑張ってる?」
「うん!パパの後継者になれるよう頑張ってるよ」
「そっか。良い子だね…」
そう言って優しく撫でると、ミリアは笑顔になった。
「久しいな、准将。変わりはないか」
少し老けて、髪に白いものが混じるようになったシュタウフェンベルク上級大将は、快活そうに笑った。
「変わりありません。閣下の方は…お変わりありませんか?」
「ああ、相も変わらず国防軍の管理に勤しんでるよ。シヴグラード工廠の方はどうだ」
シヴグラード工廠とは『エストブルク国営兵器産業廠』の別名で、私が8年前に雑に作って人形達に管理させている自動化された工場群のことを指す。
「パンツァーファウストの量産を継続してますね。ちゃんと資材の方も節約しつつやりくりしてますよ」
「ハッハッハ、聞いたぞ。シヴグラード工廠はパンツァーファウスト4本分の資材で5本生産するんだってな」
…まぁ…それくらいになるのかな?
「黒い国防軍の方もちゃんと伸ばしてますよ」
少しトーンを落としてそう言うと、上級大将は苦笑した。
「エストブルク・マフィアと並んで、戸籍のない者や少数派、人間界を生きる人外なんかの受け皿として…な。いつかは減らせるようにしていきたいものだ」
「まぁでも…今は必要ですので」
「そうだな」
上級大将との話をした後、ミリアに私室へと招待された。
中に入ると地球儀やライヒの地図が綺麗に並べられ、或いは壁に貼られていて、さながら地理を専門とする教授の部屋のようだった。
「これ…全部覚えるの?」
素直に感じた疑問を、そのように口に出す。
「うん。もうほとんど覚えたよ」
流石…ミリア。
「じゃあこの山脈の名前はわかる?」
地球儀を回して、アメリア合衆国の中央部を指差す。
「うん。ハーロッキー山脈だよね」
考える素振りもせず、ミリアはそう答えた。
「じゃあここら辺の中で、一番守りに有利そうな地点は?」
アストノ東部を指差す。
「ふふっ、お姉ちゃんの意地悪。もし、自然地形のみで判断するならこっちのヴァイカ川だけど、ここら辺にヴァント線っていう要塞線があるから、実際はそっちで守るのが一番有利なんだよね」
地球儀には描かれていないものの、私とミリアには見えている要塞線を、ミリアはゆっくりとなぞる。
「完璧だね」
「うん。ソフィアお姉ちゃんみたいな天才になれるよう頑張ってるの」
…天才………
____________『お前は天才になるんだ』
っ…
「だ、大丈夫!?お姉ちゃん!」
「大丈夫だよ。本当…ミリアはすごいね」
「あ、えっと…うん!凄くなるように頑張ってる!」
私はその笑顔のミリアを、ただ撫でることしかできなかった。
…自分の意思でそうなるよう目指しているのだから、貴女とは違う。
…………………?




