67.ソフィアになる前
ぼんやりとした意識の中、私は映画館で一人、映画を観ていた。古い白黒の、平和と戦争を体験した主人公の記録映像。
そこには喜びがあり、悲しみがあり、その主人公が感じたであろう五感が…私には感じられない五感があった。
初めは退屈そうに、些か欠伸でも挟みながら…私はそれを観ていた。
しかしそのうち、段々と目が離せなくなってきた。
それは、その映像の主人公が、戦争により追い詰められ始めたからである。
初めは何故、目が離せないのか分からなかった。
内容自体は、特段唆られる内容でもない。
…そのうち段々と理解してきた。
私はその主人公の死を見届けたいと思っている…という些かズレた理由が。
私がもし、その主人公に物質的な支援を行えるとなれば、恐らくするだろう。
それは主人公の最後が遠のくことで、私をその分、ドキドキさせてくれるから。
その点において『生の人間の一生を外野から見届けたい』なんていう気持ちとは違う。
その主人公の死の瞬間がどんなものであれ、『最後の瞬間』というのは私にとって…恐らくはこの世の何物にも代えがたい最高の刺激である。
抗って死ぬのか、従って殺されるか、どんな表情をするのか、どんな言葉を発するのか…その全てが一瞬のうちに表現される芸術。私はそれを白黒で観ようと、鮮やかな色彩を幻視するし、その瞬間だけは主人公の五感を感じられる。
私はエンドロールの中でどんな表情をしているのだろう…と、それすらも気になって仕方がない。
くだらない日常や、くだらない幸せ…そんなものを全て積み重ねて、人間はどんな最後を迎えるのだろう?
私はスクリーン___を______?______
___朝だ。夢の内容は覚えていないのに、何故か『残念』という気持ちだけが胸に残っていた。
美味しい食事を食べる夢でも見たのだろうか?
リビングへ行き、イザベラと雑に挨拶をする。
「おはよ」
「…おはよう…あんた大丈夫?」
「?」
「頭の中がぐちゃぐちゃよ?まるで転生前…あれ。段々治っ……いや、なんでもないわ。顔でも洗ってきたら?」
「…わかった」
洗面台に立つと、自然と鏡に目が移った。
転生前よりも成長した…二十代女性のような顔。
私が転生せず成長できていたら、こんな顔だったのだろうか。
まぁ…目の前にいるのは白と赤の髪をした赤い目の人外である。結局のところ、それ以上でもそれ以下でもないのだから、それ以外のことに意味なんてない。
……鏡の先の存在を、私……は……主……人___?
何か、変な事を考えていたらしい。
パシャパシャと顔に冷たい水をかけて、モコモコの柔らかいタオルで顔を拭く。
「あんた最近疲れてるの?大丈夫?」
「別に。どうして?」
「いや…その……………顔色が悪かった…から?」
「そっか。心配してくれてありがとう」
そう言ってイザベラを撫でる。
「っ……なんなのよ…あんた…」
「…?」
「いや、なんでもないわ」
「そっか」
…イザベラを心配させないよう、適度に休もう。




