60.理想郷
メアリー視点
高校、放課後、教室にて。
「今日も英語の先生に叱られたんだよね。提出物出してるっていうのに何故か出してないとか言われてさ〜」
女子の一人がそう嘆く。
「マジかよ、やば!アイツのジルコニアでのアカウント探して晒そうぜ」
サッカー部キャプテンの男子がそう言い、男子達は口々に賛成の声を上げる。
「それはやめとこう。私たちがBANされちゃうし」
そう口を挟むと、周りは、
「それもそうだな」
となった。
私たちはジルコニア内で同じクランに所属していて、一応、私がクラン長をやっている。
そのため私の言うことは聞いてくれるし、色々と相談してくれる。
今もこうして、私の机を中心にして、クランメンバーが集まっている。
…私は漢字のワークをやっていただけなのに。
「mia…朝だよ?」
ジルコニアにログインすると同時に、ロザの声が聞こえてきた。
「おはようロザ。起こしてくれてありがと」
そう言うとロザは嬉しそうに跳ねた。
…旅を続けよう。
今日はクランの集まりがあるので、クラン本拠地のある王国に来ていた。
何もかもが非科学的で、ファンタジーの雰囲気を全面に出した魔法まみれの王国。レンガは宙を舞い、幾何学模様のホログラムが遠くに見える…と言っても、画質のせいか質感は幻想的というよりリアルだった。
連なる家々のうちの一つ。雑に掲げられた旗が目立つ二階建ての小さな屋敷に私達は入った。
中には地下への階段のみがあり、その薄暗い階段をロザを抱えながら降りた。
…ロザには転んで欲しくない。
階段を降り切るとそこには大きな会議室があった。
会議室と言っても現実のソレではなくRPGで四天王と魔王が会議しているような雰囲気の会議室である。黒く高い背もたれが特徴的な椅子に、ただただ大きな大理石製の円卓…そして薄暗いくらいの照明。
会議室には既にちらほらと人がいた。
「わっ、ロザちゃん来たんだ〜」
そう言いながら一人駆けてくる。
ロザはクランメンバーみんなから愛されているので、連れてくるといつもすぐにどこかへ連れ去られてしまう。
クランメンバーが全員集まったので、本日の議題について話す。
「クランスポンサー制度の登録の件なんだけど___
___きて、朝だよ、メアリー」
ローザの声で目が覚める。
何か懐かしい夢を見ていた気がする。
…まあいいや。
「おはようローザ」
「おはよ。朝ごはんできてるから早く食べて」
「ありがと」
そう言うとローザは微笑んだ。
…何故か懐かしさを感じる。
「ただいま〜」
オリビア様とソフィアが、軍人と夫人と小さな女の子を引き連れて帰ってきた。
…しかもその軍人はかなり高位そうな階級章を軍服の襟に付けていた。
咄嗟に敬礼をする。
「…もしやノイエ王国の?」
軍人は少し考えるような仕草をした後、そんなことを言う。
「な、何故?」
つい聞いてしまった。
「いや、ノイエ王国式の敬礼は独特の癖があってな。それを………うん?もしや貴女は《碧眼の魔女》か?」
私の目を見て、軍人はそう言った。
「…ええ、よく分かりましたね」
そう答えるしかない。
「こんな所で会えるとはな……まぁもはや驚く気にもなれんが」
そう言って軍人は苦笑した。
…苦労人なのだろう…そんな雰囲気が何となくわかった。




