58.その時、歴史は動いた。
非ソフィア視点
「『ライヒ改造法案大綱』…?」
ベック元帥はそう疑問符を浮かべながら相手の話を聞いていた。
「はい。『オスト』と名乗る者が書いたとされており、統一王国時代から引き継がれたライヒの欠点の改革案について纏められているものです。是非閣下にはこれを為して頂きたい」
相手の名前はエルリッヒ・ルーデンドーフ。参謀大佐である。
「ふむ…具体的には?」
「『一君万民』と呼ばれる疑似民主制の再興や、自分の利益のためだけに陛下を利用している『君側の奸』たる政府要人の即刻処刑であります」
ルーデンドーフ大佐はそう言い切った。
…こんなもの、改革案なんかではなくただの革命の構想ではないか。
ベック元帥はそんな風に思い、苦虫を噛み潰したような表情で大佐に質問する。
「…その先には…何がある?」
「『帝国維新』により生まれる、万民が平等に『陛下の臣民』として生きる貧困無き世界であります」
またもや大佐は言い切る。
この大佐はもうダメなんだろう。
ベック元帥はそう感じた。
「…有能な官僚や大臣を粛清したところで、待っているのは更なる困窮と国家の崩壊だ。少し休んだらどうだ大佐」
「しかし、閣下…!今、閣下に行動していただけなければ、敵が更に勢力を増し…!」
大佐は焦ったように口を動かす。
「ふむ、どちらにせよ私には、即座に軍を動かす権限など無い。とりあえず、休みたまえ大佐」
「閣下!戒厳令を!」
「そんなものを出す権限など私には無い!」
そうベック元帥が言うと、打ちひしがれたように大佐は参謀総長執務室から去っていった。
___8時間後。
参謀本部内の人員の多くが帰宅した後。
参謀総長執務室の窓から、ランタンを吊るした馬車の車列がこちらに向かっているのが見える。
「…ふむ…近衛師団か?」
ベック元帥はそんな風に独り言を言う。
盟友シュタウフェンベルクは家族との団欒のため早めに帰宅したからである。
…ベック元帥に家族はいない。
近衛師団らしき車列は速度を緩めず、まっすぐこちらに向かってくる。
………………まさか!?
「ミュラー大佐!今すぐ参謀本部内の全人員に武器を配布しろ!防戦だ!敵は大勢!参謀本部人員は全員腕章を付けて敵味方判別をできるようにしろ!」
参謀総長就任以来一番の大声でそう叫ぶ。
少し遅れてホイッスルが鳴り、混乱がありながらも防御の準備が始まる。
近衛師団とて馬車から兵員を降ろし、攻撃させるまで少しは時間がかかるだろう。
何せ『統合参謀本部への攻撃』である。
恐らく命令は直前に聞かせるのだろう。
「魔術信号通信室を絶対に守れ!奴らの狙いは恐らくそこだ!通信士は増援を要請しろ!近隣の部隊は全てかき集めるんだ!」
ベック元帥は参謀本部内を駆けながらそう叫ぶ。
正面門のバリケードを確認しに来ると、ミュラー大佐がそこにはいた。
「閣下!退避を!」
「バリケードの構築状況は!」
「木製の椅子や机はとりあえず全て放り投げて、一応防御できる形にしました!」
「結構___
その時、青い閃光と、耳をつんざく轟音が元帥らの身を包んだ。
正面門は重砲により、バリケードと周辺人員ごと吹き飛ばされたのである。
『新聞ツィタデレ
統合参謀本部、襲撃さる!
___日、詳細不明の部隊が__近衛師団が到着した頃には____近衛師団長は『ベック元帥閣下は陛下の敵による陰謀によく抵抗し___なお元帥閣下のご遺体は_バラバラ___皇帝陛下は勲章の__』
軟禁状態のシュタウフェンベルク上級大将は、その新聞を閉じ、そして頭を抱えた。




