56.南方戦線異常なし
人間の匂いを感じ取る嗅覚を頼りに、戦場を闊歩する。
「戦争はすっかり変わっちゃったのね〜」
「オリビアが銃杖なんか作るからじゃない?」
「銃杖技術が勝手にコピーされて、結果的にこんな状態になったわけだから私のせいじゃないよ?」
…そういうものなのだろうか。
「そういうものだよ。私達みたいな研究者がどんなに良い武器を作ろうが、悪い武器を作ろうが、人間はどの道殺し合う。だから好きに開発して、好きに技術を送り付ければ良い」
オリビアは先程の敵から奪っていた銃杖に頬擦りをしながら、そんなことを言う。
…それなりに狂っているらしい。
「…貴女が言う?私の後継者ちゃん」
私も同じくらいには狂っているらしい。
しばらく歩くと黒や灰色の軍服姿の兵士達が隠れている塹壕に着いた。
「アドラー軍団第4特別編成旅団のソフィア・シヴグラード中佐だ。現在地の確認のため立ち寄った。ここに将校はいるか?」
無論、大嘘である。オリビアからアドラー軍団に関する情報を聞いて作った作り話である。
オリビアには本来は人形用として用意していた軍服を着てもらって、副官を装ってもらっている。
「はっ!中佐殿」
出てきた人間の襟を見ると、階級は少尉と分かった。
「少尉、地図はあるか。実は大隊の攻勢指揮中を陣頭で行っていたら本隊とはぐれてしまってな」
「はい、中佐殿」
そう言って地図を差し出してくる。
「ありがたい。恩に着るよ」
「とんでもございません中佐殿」
…相当よくできた将校らしい。
「何か一つ、礼に何かしたい。私にできることがあれば言ってくれないか」
「そんなそんな…とんでもない」
「ふむ………なら君、何か要望はあるか」
下士官らしき人間にそう聞く。
「はっ!中佐殿、兵員が足りないので充当を願いたいであります」
この感じだと恐らくは全戦線で兵員不足が深刻なのだろう。
「…ふむ…しかしなぁ………いや、直談判してみるか…とりあえず、ありがとう。一応増やせるか交渉はしてみるよ」
そんな風に切り抜けて、去る。
「塹壕による防衛戦術にはたくさんの人員を必要とするんだね」
オリビアの縮地魔法でエストブルクに戻ってきた私は少尉から貰った地図を読みながらそんな風に言う。
「逆に言えば、それを克服することで強力な防御戦術となりうるんじゃない?」
オリビアはそんな風に言ってきた。
「確かに。でも人員不足を克服って…」
「それこそパンツァーファウストを装備した自転車部隊が良いんじゃない?機動的に部隊を運用することで敵の攻撃部隊へのカウンターとして運用するみたいな」
「でも、どうやって敵の攻撃を察知するの?」
「あら?そういえばソフィアは知らないんだっけ。ライヒは魔術信号通信っていう技術で長距離間の連絡を容易にやれるようになったの。だから、塹壕を掘ってそこに通報部隊を配置、これに魔術信号通信を送らせて、活用すれば良い。信号は数分で後方司令部まで届くから、容易に行動をさせられるわ」
…かなり興味深い話だった。つまり、変に戦力をバラけさせずに防御を行えるわけだ。例え圧倒的な戦力により攻撃されようと、焦土戦術と合わせれば撃退できるだろう。




