38.王女の逃避行
メアリー視点
結局、私が旅団を率いて防衛戦をいくら成功させても、軍全体の兵站事情や他部隊の敗北により結局は後退を強いられていた。
そんな情勢下、《魔女の旅団》は首都防衛を名目として首都の宮殿周辺に配置換えされた。
…何故、郊外で防衛しないのだろうか。
こんなところを守ったところで、何も守れないで、敵の砲兵に殲滅される気がする。
「こういう配置が一番、参謀本部…いや、王室には求められているのよ」
虚空からそんなことを告げられる。
そういうことなら…まぁ…
「ソフィア!帰ってきてくれた!」
王女が元気そうに走ってくる。
「そんな走っているとコケて負傷してしまいますよ?第一王女」
「もう!ソフィアどうしちゃったのよ!大人になった…ような気はするけど、貴女が貴女じゃない気もする!それと、ちゃんと名前で呼んで!幼馴染でしょ!」
胸に飛び込んできて、私にそう言う。
「…ごめん、ローザ」
柔らかくハグをして、私はそう返した。
「…ふん、次かしこまったような話し方を私にしたら食事抜きだからね!」
「…ごめんね」
「な、何よ…張合いが無いじゃない」
そこから私達の、終わりの見える奇妙な日常が始まった。
宮殿防衛の任を負ってから1週間。戦況は悪化の一途を辿り、首都ですらまともに食糧が無くなってきた。
「どうかね、《碧眼の魔女》殿。鹿の肉を使ったステーキは」
私の前に出されたのは、食器だけは豪華な焼いた鹿の肉だった。
宮殿で育ってきたので所作は相変わらず綺麗にやれる。
一口食べて、声の主である国王に感想を言う。
「油が少なく、とても食べやすいです」
「そうだな。本来はラードだったりを追加で入れるらしいが…こういう食べ方もたまには良いだろう」
「はい」
そう言ったきり、黙々と食事をする。
国王一家全員が揃っているのに、誰も話をしない。
…国は刻々と終わりを迎えているのに、私は何をしているのだろうか。
「失礼します!メアリー様!」
持っていた食器をすぐに置く。
「何があった」
「反乱です!首都防衛のための臨時民兵隊が飢えを原因として蹶起しました!」
ナプキンで口を拭きながら席を立つ。
「待ってくれ」
国王はそれを止める。
「陛下、緊急事態です」
「……わかっている………ローザを連れて行ってくれ」
そう言ってローザに目を向ける。
…は?もしかして国王陛下はもう…
「そんな…」
「…行ってくれ。私と妻はここに残り、民衆の怒りを受け止める。西のアストノ立憲王国の王室は私と同じ血を継いでいる。恐らくは既に受け入れ準備を終えているだろう…頼む。ローザを連れて行ってくれ」
「……………わかりました、陛下。行くよ、ローザ」
ローザは放心状態のような朦朧とした顔で、ゆっくり頷いた。
「君、ローザを運んでやってくれ。私は撤退準備の指揮を取る」
そうローザ直属の侍女に言い、部屋を出る。報告に来た副官をそのまま捕まえて、現状を把握するため幾つか問いかける。
「今、回せる馬車の数は」
「旅団全兵員を輸送できる分は準備できております」
「我々が抜けたら宮殿はどうなる」
「少数の近衛兵のみで死守行動を行うこととなるでしょう」
「……第4大隊を切り離して宮殿に残す」
「…!わかりました」
「私は王女の様子を確認しつつ、最後の馬車に乗る。準備でき次第、部隊は西へ向かわせろ。赤十字でも掲げさせれば民衆は襲ってこんだろう」
「しかし…」
「非常時だ。わかるな」
副官は敬礼で肯定の意を示し、駆けていった。
「…大変なことになったわね」
…まぁ、やれるだけやろうと思う。




