36.前を向いて歩こう
メアリー視点
《魔女の旅団》の初陣は防衛戦だった。
原因は、敵が周辺の村を全て焼いて、こちらの兵站の要となる家畜類が砲により大量に爆殺され、攻撃を行えるだけの食糧の頼みが無くなったせい。
こちらは防御で手一杯となった。
本来の攻略目標である『カレブルク』なんて多分いけないんだと思う。
唯一嬉しいことがあるとすれば、防衛戦では徴用した施設が使えるから、ベッドでちゃんと寝られるし、温かいご飯が食べれる…といったくらい。
「なんでこんなことになっちゃったんだろ」
夜、徴用した家のベッドの上で、寝転がって、そんなことを独り言ちる。
「まぁ…そういう運命だったんじゃない?」
神様がそう言う。
「神様は運命ってあると思うの?」
「いや、無いよ。少なくともこの世界ではない」
「そんな断定できるんだ…そっか、神様だもんね」
「そう。私、神だけど、運命とかそういうのの管理をしたことないからね」
…ならなんで運命なんて言葉を出したのだろう。
「運命…あったら良かったのに」
私が何もしなくても幸せになれるような運命とか…
「そんなのつまらなくない?」
「つまらない…?」
「だって、どんなに頑張っても、どんなに適当でも、結果は決まってるんでしょ?私には耐えられないわ」
「そっか…そう考えるとそうなのかも…」
「聞かせてあげようか?私の努力まみれの人生を」
「ちょっと気になるかも…」
「どこから語ろうかしら_______
窓から差し込む日光がいつもより少し強く感じる。
朝だ。
「あら、おはよう」
「…ん、おはよ」
虚空からの神様の声につい答えてしまう。
侍女に聞かれてたらどうしよ。
侍女を呼び、寝間着から軍服に着替えて、家を出る。
兵士だけの村を歩き、臨時の演説台へ向かう。
今更ながら、私は相当自惚れていたらしい。
傾き始めた国の中で、英雄と祭り上げられて、新兵と一緒に小さな村の防衛をやってる…俯瞰して見ると、かなりやばい。
ちゃんと王女の下に帰れるかな…
「まぁ、帰れるよう手伝ってあげるわ」
ありがと…いつも迷惑かけてごめんなさい
「今頃畏まられても」
そっか…そうだよね。
「前を向いて歩きなさい。私はそれだけで人間から神になったの」
神様くらい強い訳じゃないよ。
…人間的にも実力的にも。
「その自覚があるのなら生き残れるわよ」
まぁ…頑張ってみる。
演説台の階段を駆け、
『メアリー様!』
『魔女様』
なんて歓声を浴びる。見渡すと結構な数の兵達が私の方向を見てくれていた。
もう自惚れない。
そんな気持ちで私は兵士達の鼓舞のため、ゆっくりと喋り始めた_____
『《魔女の旅団》初戦で完勝!
ベッドラント管区の防衛戦にて、突出した敵魔術騎兵隊に勝利___《碧眼の魔女》が陣頭指揮を行____こちらの死傷者は少な___今回の勝利に伴い《碧眼の魔女》へ勲章___「私が前線から下がったことで防衛網に穴が出来ては今回の戦果も無意味になってしまう」と辞退する意向___』
「これで良かったのかな」
「これで良いのよ」
神様はそう言う。
「…そうだね」
すっかり我が家同然となってしまった徴用宿舎で、私は新聞をパタリと閉じた。




