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事件

伊豆の海で、潜る準備をする優香と晃一。


「よろしく頼むよ。俺ブランクあるけど、やっぱりインストラクターの

資格を持ってる優香が一緒だと安心だな」

「大丈夫よ。まかせて。レギュレーター、オクトパス、バルブ、

装備オールオッケー」

優香が指でOKサインを出す。


特にタンクについているバルブは、開いていないと呼吸ができない。

一番気を付けてチェックした。

お互いのバディチェックは問題なく、潜水を開始した。


潜ってしばらくすると、優香は呼吸がしにくくなった。

レギュレーターからのエアが止まる。


(もう、晃一ってば。ふざけてタンクのバルブを閉めたわね)

優香はバルブを戻すために手を後ろに回した。

インストラクタークラスになると、このくらいのリカバリーは簡単にできる。

が、その手を晃一が掴んで離さない。


(何?やめて。息ができない。助けて!)

水面に上がっていく銀色のエアーがかすんで見えて

やがて何もわからなくなった。


優香の息が止まったのを確認して、晃一は閉めたバルブを再び開けた。


引き上げられた時、

「一緒に潜っていたけど、俺は初心者で気が付いたら彼女は溺れていて、

どうしたらいいか、わからなかったんです。優香、ごめんよっ。

助けられなくてごめん」と晃一は泣き崩れた。



「城田晃一…彼がわたしを殺した!」


優香はショックで動けなくなっている。

「事故じゃなくて殺人だなんて」美和の顔色が悪くなる。気分が悪い。


「証拠とかないんですか?指紋とか」

美和の問いに残念そうに優香が答える。

「グローブをしているから指紋は付かないわ。

もし付いたとしても、バディチェックといって触って確認するから問題ないの」


「完全犯罪だな」多嘉良の言葉に優香はぎゅっと拳を握る。


「…晃一が…わたしを。どうして!?結婚しようって約束したのにっ」

顔をくしゃくしゃにして優香はフッと消えた。


「優香さん…。どこへ?」

「その恋人の所へでも行ったんじゃないか?

知っている場所なら行けるからな」


「多嘉良さん、どうしよう。警察へ行った方がよくない?」

「警察の皆さんは霊が視えないからなぁ。証拠もないしねぇ。

それと、スルーするのも大事なんだぞ。

誰も知らない事を知っているって事は、命に関わる場合もあるんだ」

多嘉良は両手をフラダンスの振り付けのようにヒラヒラさせる。

「スルーだスルー。霊能者に必要なのはスルー力。もしくは鈍感力」


「じゃあ、成仏させてあげるのはどう?」

「本人がその気にならないと無理」

「うーん…」

テーブルに突っ伏して、無力さを感じて力が抜ける美和だった。


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