事件
伊豆の海で、潜る準備をする優香と晃一。
「よろしく頼むよ。俺ブランクあるけど、やっぱりインストラクターの
資格を持ってる優香が一緒だと安心だな」
「大丈夫よ。まかせて。レギュレーター、オクトパス、バルブ、
装備オールオッケー」
優香が指でOKサインを出す。
特にタンクについているバルブは、開いていないと呼吸ができない。
一番気を付けてチェックした。
お互いのバディチェックは問題なく、潜水を開始した。
潜ってしばらくすると、優香は呼吸がしにくくなった。
レギュレーターからのエアが止まる。
(もう、晃一ってば。ふざけてタンクのバルブを閉めたわね)
優香はバルブを戻すために手を後ろに回した。
インストラクタークラスになると、このくらいのリカバリーは簡単にできる。
が、その手を晃一が掴んで離さない。
(何?やめて。息ができない。助けて!)
水面に上がっていく銀色のエアーがかすんで見えて
やがて何もわからなくなった。
優香の息が止まったのを確認して、晃一は閉めたバルブを再び開けた。
引き上げられた時、
「一緒に潜っていたけど、俺は初心者で気が付いたら彼女は溺れていて、
どうしたらいいか、わからなかったんです。優香、ごめんよっ。
助けられなくてごめん」と晃一は泣き崩れた。
*
「城田晃一…彼がわたしを殺した!」
優香はショックで動けなくなっている。
「事故じゃなくて殺人だなんて」美和の顔色が悪くなる。気分が悪い。
「証拠とかないんですか?指紋とか」
美和の問いに残念そうに優香が答える。
「グローブをしているから指紋は付かないわ。
もし付いたとしても、バディチェックといって触って確認するから問題ないの」
「完全犯罪だな」多嘉良の言葉に優香はぎゅっと拳を握る。
「…晃一が…わたしを。どうして!?結婚しようって約束したのにっ」
顔をくしゃくしゃにして優香はフッと消えた。
「優香さん…。どこへ?」
「その恋人の所へでも行ったんじゃないか?
知っている場所なら行けるからな」
「多嘉良さん、どうしよう。警察へ行った方がよくない?」
「警察の皆さんは霊が視えないからなぁ。証拠もないしねぇ。
それと、スルーするのも大事なんだぞ。
誰も知らない事を知っているって事は、命に関わる場合もあるんだ」
多嘉良は両手をフラダンスの振り付けのようにヒラヒラさせる。
「スルーだスルー。霊能者に必要なのはスルー力。もしくは鈍感力」
「じゃあ、成仏させてあげるのはどう?」
「本人がその気にならないと無理」
「うーん…」
テーブルに突っ伏して、無力さを感じて力が抜ける美和だった。




