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狐族

遺影の前で母は正座し、顔を覆って静かに泣いていた。

父は放心状態だった。 

弟も自室のベッドの上で膝を抱えて、ぼんやりしていた。


優香はそんな家族の元を離れて、ふらりと外へ出た。



スルー力か…。家へ帰るバスの中で、美和はため息をついた。



「お母さんならどうする?」帰宅した美和が母に問いかける。

「永介の言う通りよ。危ない事はしてほしくないわね」

観葉植物の手入れをしながら、母が答える。

「…そうだドレッシングがなかったんだ。美和、買ってきてくれない?」


頼まれて買い物をしたが、優香の事が気になってしまう美和だった。

「だって知ってしまったんだもの。…優香さん、どこかな?

呼んだら会えるかな。…ちょっとだけ…」と

美和は習ったように集中し、視えるチャンネルに切り替える。

「チャンネル、変わります」


額の奥でカチリと音がして、人ごみの中に向こう側が透ける人が視えた。

「うん、ああいう霊なら怖くなくていいな。 …優香さん、いる?」


「あら?呼んだのね。…美和さんだっけ。やっぱり引っ張られちゃった」

上から優香の声がした。

優香がふわふわ浮いている。

「どこへ行ってたんですか?」

「家とか、友人のところとか…」伏し目がちに優香が答える。

みんな悲しんでいて、見ていられなかった。


恋人の所へは?と聞きそうになったが美和は遠慮した。



顔をあげた優香が険しい顔になって

「あいつ!」 と叫ぶとあるカップルのそばに近づいた。


「優香さん!優香さーん」優香を追いかけると、

カップルの男の方に肩を掴まれる。

20代中ごろの、ジャケットを着て整えた髪の、いかにもエリートです

といった感じの男だった。


「優香だって?君は何者だ!?」

「え…いえ、あの…」

慌てる美和に、優香が助言する。

「人違いですって言って。女性が友達に似ていたから間違えました」って。


優香に言われたとおりにして、「ごめんなさい」と謝って、

その場を離れる美和だった。


*


通りをかなり来たところで、優香が説明しはじめた。

「今の男が彼。犯人なのよ」

「え…。今の人が犯人?」

「一緒にいたのは春に入社した新人の奥村さん。彼が教育指導している人。

…やっぱり彼女の方がよくなったのかしら…」

「そんな…そんな事で殺人なんて…」

「わたしが素直に別れなかったから」

優香が悲しそうな、悔しそうな顔をしてつぶやいた。


「それより美和さんが心配だわ。ごまかせたとは思うけど

美和さんがわたしのことを知ってるって、彼に思われたかも?」

優香に言われて美和は心臓がバクバクしてくる。


「今のうちに早く帰ったほうがいいわ。あいつはわたしが見張る。

何かあったらあなたのところへ行く。

…確か、知っている人のところへは行けるはずよね?」

優香に促されて、美和は急いで家に帰った。



「晃一さん、大丈夫?優香さんって、いつか話してくださった

亡くなった先輩だったかたでしょう?

とてもいい人だったって仰っていたかた」


晃一と一緒にいた奥村唯が心配そうに話しかける。

「大丈夫だよ。でもちょっと、今日は…ごめんね。

また改めてデートに誘ってもいい?」

「ええ、お誘いお待ちしています」

タクシーを呼んで唯を乗せた。



「さて、会話が全部聴こえるよ。狐族の聴覚はすごいね」

晃一は耳に手を当てて、集中していた。


「誰なんだ?…まさか死んだ優香と話しているのか?【今の人が犯人】だって?

…まさか死んだ優香と話しているのか?ってことは

比十ひと族とかいうアヤカシの末裔か。…何とかしなきゃだな」


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