恋人
「驚かせてしまってごめんなさい。真っ暗の中でどうしたらいいかわからなくて。
そうしていたら光が見えて、そこへ行こうと思ったら引っ張られたんです。」
6畳の和室で、ウエットスーツを着たままの小森優香が正座して頭を下げた。
木製の和室用テーブルをはさんで、優香の向こうに多嘉良、
右側に美和が座っている。
「いえ、大丈夫です。ちょっと大騒ぎしてしまいました。
こちらこそごめんなさい」
肩をすくめて気まずそうに微笑む美和に、優香はニコリと笑った。
「それで、小森さんはどうして迷って?事故に何か疑問でも?」
多嘉良の言葉に優香の表情が暗くなる。
「わたしは…どうしてこんな…こんな事に…。
恋人の晃一と趣味のダイビングで海へ行って、潜ってそして…」
*
恋人で2歳年下の城田晃一とは社内恋愛だった。
彼にダイビングが趣味だと言ったら「自分もやりたい」と始めて、
いつの間にか付き合うようになっていた。
でも会社は仕事をするところ。
仕事以外では無駄話はしないように気を付けていた。
たまにケンカもするけれど、彼の収入が安定したら結婚しようと約束していた。
会社の人にはまだ何も言っていなかったけれど、幸せだった。
4月。新人さんが入社して晃一は奥村唯という、なんともかわいらしい
女性の指導をするようになった。
その頃から、会う頻度が激減した。
*
心の中はもやもやしたり、何かが詰まった感じがして苦しかったが
「きっと忙しいんだ」と思って我慢してた。
「別れたい」
そう言われたのは、社内で晃一と奥村唯との関係が噂された頃だった。
「わたしとのことは内緒だったくせに。わたしたち、付き合っていたのに。
みんなに話を聞いてもらうわ」つい、感情的になってしまった。
「待って。まってくれよ」
「イヤよ。奥村さんにもあなたがどんな人か知ってもらうわ」
そう言って別れた。
*
…いいえ。だめ。こんなのはだめ。ちゃんと話し合わなければ。
翌日、後悔して「ごめんなさい」とメールしたら
「こっちこそごめん。やっぱり別れない。お詫びにデートしよう。
久しぶりに潜りに行こうよ」と誘われた。
優香はこぼれるような笑みで
「そうしてくれるの!?嬉しい」とOKした。




