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第三十三話、断執の短髪、新生の四影と鉄杭の残響 

 叡智の断崖へと続く険しい氷の尾根。そりを引くテオの背中を、吹き荒れる地吹雪が容赦なく叩く。その最前線で、カイは巨大な鉄杭を杖代わりに、一歩一歩、氷を砕きながら道を作っていた。



「……なぁ、カイのじいさん。あんた、さっきからお兄ちゃんのことばかり見てるけど……本当にお兄ちゃんのじいちゃんと知り合いだったのか?」


 テオの問いに、カイは足を止め、そりの上で虚空を見つめるアッシュを一瞥した。



「知り合い……などという生易しい仲ではなかったわ。あいつ……アッシュの祖父は、この北領の果てでわしと三日三晩、文字通り死ぬまで殴り合った唯一の『戦友とも』よ」


 カイの濁った瞳に、遠い日の黄金色の記憶が宿る。


「あいつの剣は、今のこいつと同じで錆びついていた。だが、その錆びた一振りが、わしの全力の杭を正面から『鏡』のように跳ね返しおった。

 グローリアの剣術はな、テオ……相手を倒すためではなく、世界に踏みとどまるために編まれた、あまりに泥臭い執念の塊なのだ」




 ━━その時、吹雪の向こうから、不気味な魔導の駆動音が響いた。



 ルキウスが放った「白銀の斥候」――無人偵察魔導兵━が、霧を切り裂いて急降下してくる。



 「………シオン、アッシュを守れ! ここはわしが……昔の続きを見せてやるわ!」


 カイは背中の鉄杭を、片手で軽々と引き抜いた。

 偵察機から放たれた白銀のレーザーが氷を灼く。だが、カイは一歩も退かない。

 それどころか、彼はアッシュがフェンリル戦で見せたのと同じ【地這いの法】の原型とも呼べる、極限の脱力からの一撃を放った。




 ――ドォォォォォン!!




 鉄杭が空気を圧砕し、偵察機を紙細工のように粉砕する。


「いいか、若いの。グローリアの奴がよく言っておった。『道具に頼るな、己の重心を大地の芯に預けろ』とな。あいつは人間でありながら、誰よりもこの大地の声を聞こうとしていた」



 次々と現れる白銀の影を、カイは笑いながらなぎ倒していく。その戦いぶりは、洗練された帝国の剣術とは対極にある、野生とことわりが融合した圧倒的な暴力。


「……あいつは、故郷に帰るまで変わらず笑っていた。自分の一族が、世界の境界線を守るために、いつかまた泥を被ることになると知りながらな。

 ……アッシュ。お前がすべてを忘れても、お前の肉体に染み付いたその『泥』だけは、決して消えんぞ」


 カイの鉄杭が、最後の一体を氷壁へと縫い止めた。


 静寂が戻った尾根で、カイは荒い息を吐きながら、アッシュの「空っぽの手」を一度だけ強く握った。



「……懐かしい匂いだ。土と、日と、そして風……。お前はもう、あのじいさんを超えているのかもしれんな」


 カイは鉄杭を背負い直し、断崖の入り口である「凍てついた洞門」を指差した。







━━━━━━━━━━━━━━━━━









 カイの先導で「叡智の断崖」のふもと、切り立った氷壁の狭間に隠された古い魔導補給基地へと滑り込んだ一行。ルキウスの軍勢が里を制圧し、全方位への追撃を開始する中、彼らに許された時間はわずかだった。


「……ここでお別れだ、若いの。この先は『人の理』を捨てた魔女の領域。わしの鉄杭では道は拓けん」




 カイはアッシュのをテオに預けると、颯爽と吹雪の向こうへと消えていってしまう。




「………あっさりしてるのな、じいさん」


「そう?あのおじいさんだもの。今更驚くことでもないわ。


 それよりも━━━さあ全員、装備を『更新』するわよ!!

ルキウスの監視衛星は私たちの魔力波形と外見をセットで記録してる。データを上書きして、奴らの目を欺く(あざむく)のよ!!」


 リネットの指示の下、一行は隠されていた備蓄物資を手に取った。




【リネットとテオ:機能の刷新】



 リネットは派手なエンジニアコートを脱ぎ捨て、隠密性と耐寒性を極限まで高めた漆黒の「タクティカル・ギア」に身を包んだ。

 ゴーグルのレンズは紫色の対魔導偏光仕様に変わり、その佇まいは解析者アナライザーから「戦場の戦術家」へと変貌している。




「う〜ん、この漆黒の艶と肌触り。隠密性と機能性のハイブリッド!それに加え伸縮、収納性、携帯性も完璧!!……さすがわたしのチョイスね!!!」




「…………たのしそうだな。」



「…な、なによっ、うっさいわね。…テオ、あんたにはこれよ。リノスの里の重印を隠すための『偽装カモフラージュマント』。

 アッシュの大事なそりを引くなら、その小さな筋肉を魔導で補強しなさい!」



「………えっ、こ、こうか?」



 テオはアッシュのそりを引くためのハーネスを装着させて、里の少年から一人の「運びポーター」へのクラスチェンジを果たす。




【ククル:光のベール】




 ククルは、ハンスーンの契りの第三段階が昇格したことで新たな力を獲得していた。

光の粒子で作られた翼の拡張と効果範囲延長のふたつ。

 アッシュからもらった防寒着を、自らの光の粒子の力で編み直した、「光の翼」を制御するための銀糸のベールを作り出していた。


 こちらも耐寒、耐衝撃をそなえ、ククルの属性【月読】の力を補強、圧縮、変形し、物理干渉まで可能にしたそれは、「守られる少女」から、自らが道を照らす「希望」へと変わった証だった。



【シオン:決意の断髪と黒髪への回帰】




 そして、最も大きな変化を見せたのはシオンだった。

 彼女は鋭いクナイを手に取ると、迷うことなく、腰まであった艶やかな髪をその場で切り落とした。

「…ちよっと…シオン、あんた……」


 リネットが息を呑む。

 バサリと氷の床に落ちたのは、潜伏用の特殊な染料が含まれた古い髪。現れたのは、首筋をすっきりと覗かせる、鋭利なセミショートの髪型だった。さらに、染料を完全に拭い去ったことで、彼女の髪は混じりけのない漆黒へと戻り、その白い肌を一層際立たせている。


「………護衛の利便性と、過去との訣別です。今の私には、隠すべき未来も、飾り立てる魔力もありません。ただ、主殿あるじどのの刃であればいい」


 髪を切り、本来の姿に戻ったシオンの瞳は、これまでの「アサシン」としての冷血さの中に、一人の「女性」としての凄絶な決意を宿していた。

 その姿に、リネットは満足気になりながら、静かに目を細めた。


「……よし。準備は整ったな」

「あっ、ちょっとまって……」


 そして、最後に何も語らぬアッシュに………シオンは自らが切り詰め直した厚手の濃紺の外套マントを羽織らせた

「主殿。……外見が変わっても、私が貴方の影であることに変わりはありません。………いきましょう…」





ここまでお読みいただきありがとうございます。

 ちょっとでも「ワクワク」や「続きが読みたい」、などありましたらご感想、誤字脱字報告なども受け付けております。

また、星の評価もぜひ!

1つでも2つでも………なんならマックス(5つ)でもいいのでつけていただくと、作者、すごくよろこびます。

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