表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/39

第十九話、統制の都リノス・吹雪のなかの恋心、解析と影の境界

今日は2話連続更新です。こちらは2話目になります。


 先にここから読んだ方は、1話前にお戻りください。


 リノスの町外れ、追っ手を撒くために逃げ込んだ古い洞窟の影。スレインは、保護した数人の獣人の子供たちを焚き火のそばに座らせ、氷の剣で削り出した即席の防壁で風を凌いでいた。



「……お腹、すいてない? これ、食べて」


 ククルが、大切に持っていた保存食を、自分より少し年上の獣人の少年――テオに差し出す。

 テオは狼の耳を持つ勇猛な氏族の出だったが、ルキウスの軍勢に捕らえられていた恐怖で、先ほどまで激しく震えていた。



「……あ、ありがとう」


 テオは差し出された乾パンを、おずおずと受け取り、ふと顔を上げた。焚き火の火に照らされたククルの瞳には、自分たちを救うために見せたあの「勇気」の残光が、まだ誇らしく宿っていた。

 その瞬間、少年の胸の中で、恐怖とは別の「熱さ」が胸の中に渦巻いた。



「あのさ……ククル。さっき、すごかった。……俺、あんな綺麗な光、初めて見た」


「えへへ。お兄ちゃんがいつも守ってくれるから。私も、誰かを守りたいって思ったんだ」


 屈託のない笑顔で答えるククル。テオは耳を真っ赤にし、尻尾を不自然に左右へ振りまくる。



「……俺、もっと強くなる。強くなって、いつか君を……」

「フン。強くなりたいのなら、まずその足の震えを止めることだな」


 不意に背後から、スレインの冷徹な声が響いた。

 スレインはいつもの不機嫌そうなかおで、ククルの頭に無造作に手を置く。その「保護者」としての圧倒的な威圧感に、テオは「ひっ」と声を漏らして縮こまってしまうが━━、


「スレインさん、怖がらせちゃだめだよ!」


「……事実を言ったまでだ。……おい、少年。その娘に不埒な動機を持つのは勝手だが、今の貴様ではその娘の『盾』の一枚にもなれんぞ」


 スレインは皮肉な笑みを浮かべつつも、子供たちの震えを止めるように、不器用な手つきでククルの毛布を整え、テオたちの分まで火を強めた。


「お兄ちゃん、もうすぐ来るかな……」


 ククルが遠い空を見つめ、ポツリと呟く。

 テオは、ククルの視線の先にいる「お兄ちゃん」という存在への猛烈な嫉妬と、自分を救ってくれた彼女への憧憬の狭間で、複雑に耳を動かしていた。

 殺伐とした逃走劇の最中、

スレインの不器用な守護と、少年の初恋の芽生えが凍てつく夜をほんのわずかだけ温めていく。


 アッシュたちのいる合流地点へは、まだ少し距離がある。吹雪は幾分か弱まったものの、身を切るような寒さは変わらない。

 スレインは子供たちに配慮し、洞窟の入り口付近に氷で壁を作り、風除けを作っていた。


 ククルは焚き火の番をしながら、子供たちに温かい飲み物を配っている。

保護した獣人の子供たちは、未だ不安げな表情を浮かべていた。しかし、ククルの優しい声かけと、スレインが時折見せる不器用な優しさに、少しずつ強張っていた表情が緩んでいくのがわかる。


「ククル姉ちゃん、これ美味しい」


「よかった。……もっとあるからね」


 一人の小さな獣人の子が、ククルにもらった干し肉を頬張りながら笑顔を見せた。その笑顔を見て、ククルも嬉しそうに微笑む。


スレインはそんな様子を遠目で見ていたが、子供たちの安全を確保するための警戒は怠らない。


 アッシュたちが無事合流できることを願いながら、スレインは静かに夜空を見上げた。


凍てつく星空の下、彼らの旅は続いてく。






━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




〜〜〜リネットとシオン〜〜〜







 白銀の軍勢から逃れ、リネットとシオンが潜り込んだのは、リノスの地下に張り巡らされた古い排水路だった。汚泥の臭いと冷気が立ち込める暗闇の中、リネットは泥まみれのゴーグルを外し、荒い息をつきながら壁に背を預けた。


「………最悪。人生最悪の避難経路ね。シオン、アッシュの気配は?」


「……地上では魔導波の乱れが激しく、正確な位置は掴めません。ですが、主殿あるじどのの命の灯火はまだ消えてはいない。……私には、そう感じられます」


 シオンは暗闇に溶け込むような佇まいで、排水路の奥を警戒している。その無機質なほど冷静な姿を見て、リネットは胸の内に溜まっていた疑問を、つい口にした。



「………ねえ、シオン。前から聞きたかったんだけど、あなた、何者なの?」


 シオンの背中が、わずかに硬直した。



「……ただの影にございます。主殿をお守りする、それだけの存在です」



「嘘ね。あなたのその身のこなし、そしてリノスの刺客を完封した技術……あれは『ただの護衛』のレベルじゃないわ。それに、アッシュに対するその異常なまでの献身。

 ━━━忠誠心なんて言葉じゃ説明がつかない。まるですべてを捧げることが、あなたの最初からの『目的』であるかのような………」


 リネットは手に持っていた小型の端末を、複雑な手つきで操作しながら続けた。


「私の解析によれば、あなたの行動原理は、この時代のどんな常識とも一致しない。……ねえ、本当は何を知っているの? なぜアッシュなの?」


 シオンはゆっくりと振り返った。火花が散るような鋭い視線が、リネットを射抜く。



「………リネット様こそ、なぜそこまで主殿に執着するのですか? ………貴女がただの好奇心旺盛な科学者でないことは、出会った時から分かっていました。 

 ━━━貴女もまた、ご自分の『役割』を果たそうとしているのではないですか?」


 シオンの反論は鋭く、本質を突いていた。リネットは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに不敵な笑みを浮かべて躱した。



「あら、それを言っちゃおしまいよ。科学者にとって『()()()()』を守ることは、真実を守ることと同義なの。……私に言わせれば、あなたの抱えているその()()の方が、よっぽどこの世界の先を狂わせているように見えるけど?」


「………主殿が自ら答えに辿り着くまで、私は語るつもりはありません。たとえ貴女が何を疑おうとも」


「ふん、頑固ね。………いいわ、今は協力してあげる。アッシュに死なれたら、私の計画も、あなたの『役割』も台無しだものね」


 リネットは端末の画面に表示された座標データを睨み、地上への脱出経路を算出し始めた。シオンは再び闇を向き、クナイを握り直す。


 互いに正体も真の目的も明かさないままの、危うい共闘。

 二人の女性の間に流れる緊張感は、地上でアッシュを追う軍勢よりも鋭く、冷たかった。


「………行くわよ。アッシュは、『忘却の洞窟』の方向に流されたはず。死ぬ前に、その『主殿』の顔を拝みに行かなくちゃね」



「………御意。案内は、影の務めにございます」



 リネットはシオンの徹底した「影」としての振る舞いに、言いようのない不気味さと………それと同じだけの信頼を感じながら、暗い下水道の先へと足を踏み出した。






ここまでお読みいただきありがとうございます。


「続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると嬉しいです!」


また、星の評価もぜひ!

1つでも2つでも………なんならマックス(5つ)でもいいのでつけていただくと、作者、すごくよろこびます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ