第十八話、統制の都リノス・ 分断される絆
本日も二話連続更新です。こちらが一話目になります。続きは昼(11:30)頃更新となります。
白銀の軍勢は、情けをかける『人間』としてではなく、不浄を排除する『機能』としてアッシュたちを包囲している。
ルキウスの敷いた網は、逃げ道を塞ぐだけではなく、逃げる者の「心」を徐々に削るように狭まっていた……
「……清めたまえ。秩序の名の元に」
感情を廃した指揮官の号令と共に、巨大な白銀の盾を並べた重装歩兵が、壁となって押し寄せる。四方から突き出される魔導槍の放電が、アッシュの視界を青白く焼き、焦燥を煽った。
「くそっ! どけよ、お前ら!!」
アッシュの声は荒く、剣筋にはいつもの粘り強さが欠けていた。連戦につぐ連戦と、ククルを常に護りながらという見えないプレッシャー。
本人も気づいていないほどに明らかに繊細さに欠けていた。
納刀して力を溜める余裕すらなく、がむしゃらに古剣を振り回すが、白銀の盾に弾き返され、火花だけが虚しく散る。
「アッシュ、落ち着きなさい! 陣形を崩されたら終わりよ!」
リネットが叫ぶが、アッシュの耳には届かない。
その乱戦の最中だった。
広場の中央、ルキウスの兵士たちが逃げ遅れた獣人の子供たちを、「処分」しようと剣を振り上げるのが見えた。
「――っ、やめろぉ!!」
アッシュは我を忘れ、背後の防御を捨てて走り出した。
だが、それはルキウス軍が誘い込んだ、あからさまな「罠」であった。
「お兄ちゃん?!だめだよ……! あの子たち、死んじゃう!」
怯えていたはずのククルが、アッシュの制止を聞かずに駆け出す。いつもアッシュの背中に隠れていた小さな少女が、初めて自分の意志で「盾」になることを選んだ。
「お兄ちゃんを、いじめないでぇ!!」
ククルが『守護のベル』を無我夢中で振りまわす。【月詠:慈雨の光】が爆発的な輝きを放ち、広場を白銀の粒子で埋め尽くした。
兵士たちの視界が奪われる。だが、その光は同時に、軍勢に対し「ここに最優先の排除対象がいる」と教える狼煙となってしまった。
「……標的変更。不浄の原因を排除せよ!」
「っ!?」
白銀の騎兵たちが、目眩ましを抜けてククルへと殺到する。
「ククルッ!!」
アッシュが叫ぶ。
だがその瞬間、彼とククルの間に、ルキウスの副官が放った大型の魔導榴弾が着弾した。
――ドォォォォォン!!
鼓膜を破壊する爆音。時計塔が爆圧に耐えかね、轟音を立てて崩れていく。アッシュの視界を土煙が遮り、一行を無慈悲に分断した。
「――が、はっ……!!」
爆風に吹き飛ばされたアッシュが瓦礫の中から顔を上げたとき、世界は三つに分かたれた。
瓦礫の向こう側。スレインが叫びながらククルを小脇に抱え、崩落する建物の隙間へと滑り込むのが見えた。
「くっ、スレイン……! ククルを頼む!!」
スレインは一瞬だけアッシュを振り返り、言葉の代わりに氷の壁を築いて退路を確保し、子供たちを連れて闇へ消えた。
一方、別の路地へと弾き飛ばされたリネットとシオン。
「最悪……っ! シオン、アッシュが!」
「……今は、生き延びるのが先決です! 参りましょう!」
シオンはリネットの腕を引き、独自の逃走経路を確保して包囲をすり抜けていく。
シオンの瞳は一瞬、アッシュを案じていたが、リネットを護衛しつつ逃走経路を確保する役割を選ばざるを得なかった。
「……はぁ、はぁ、っ……」
アッシュは一人、白銀の包囲網の真っ只中に取り残された。
誰もいない。頼れるスレインの剣も、リネットの導きも、シオンの護衛もない。
連戦による疲労で魔力も底をつき、右手の紋章は機能を停止したかのように沈黙している。
握る古剣は重く、冷たい……
アッシュは初めて、自分がどれほど仲間に支えられていたかを痛感し、同時に自分一人では何もできないという「恐怖」が喉を焼いた
。
「『アシュフォード・グローリア。』……逃げ場はないぞ……」
白銀の甲冑たちが、規則正しい歩幅でアッシュを追い詰める。
逃げ道を探す余裕すらなく、アッシュは背後の崖際へと追いやられた。
「……くそ……俺は……っ!!」
アッシュは覚悟を決め、一人で地を蹴った。
だが、放たれた魔導弾が足元へ着弾し、限界を超えたアッシュを崖の下――「劫火の急流」へと弾き飛ばした。
「――がはっ……ああぁぁぁっ!!」
冷たい水。激しい轟音。
アッシュ・グローリアは独り、濁流の底へと沈んでいった。
意識が途切れる直前、アッシュの脳裏に響いたのは、ルキウスの慈しみに満ちた冷酷な声だった。
『……アッシュ。……愛する者さえ守れないその無力さが、君の『毒』に対する唯一の治療法なんだよ……』
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