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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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コロネの恋愛観

 コロネは恋愛感情的なものが薄かった。


 幼い時、家族が離れてしまう状況に陥ったことで、寂しさを拭うように生きてしまったことが原因だった。


 周囲の者達は協力的で、コロネに味方してくれることが多かった。

 それには幼い彼女が懸命に前を向き、みんなの心を動かしていた部分も大きかった。


 想定外だったのは、彼女の考えた事業の全てが成功を勝ち取ったことだろう。


 周囲の者は惜しみ無く協力していたが、「もしコロネが失敗しても、祖父のセサミがさすがに何とかするだろう」と考えていた面もあった。

 彼女はただの女の子ではなく、公爵令嬢だったからだ。




 クリム一家が寄生していた時の散財は、ワッサンモフ公爵家から見れば痛くはないものの、コロネが与えられる令嬢支給金(生活維持費)だけでは到底賄えないものだった。それは彼女の宝物である、誕生日の贈り物を売っても追い付かない程に。


 母親のミカヌレが出奔した後、捜索に出掛けた父親のスライストも行方不明となった時期がある。

 いつ戻るかも分からない為に、勝手な判断で公爵家の資産に手を付けられなかったことが原因だった。

 表向きのスライスト達は療養と言う形になっているので、処理を任せられている家令では、普段通りの領地経営や商会経営、または寄付などの金額以外を勝手に弄ることは出来ない。

 その為コロネは、今までと同様に毎月スライストに支給される生活維持資金と、彼女に配分される予算とを合わせてクリムの散財を賄うことにしたのだ。



 更に息子であるクリムの簒奪に近い行動を、父親のセサミが止めないことで増長させていた。

 クリムの方は自分が次期公爵だと思い散財するものの、教育から逃げてきた彼の知識ではその高額散財が貴族の普通でないことを理解できないでいた。


「ワッサンモフ公爵家にはいくらでも金がある。当主であれば、これが普通だ。ワハハハハッ」


 その妻であるコーラスも我が儘に育っていた為同調し、娘のブルーベルもその考えに毒されていた。

 今も当時を思い出すブルーベル。

 彼女は「悪夢です。可能ならあの時の自分を殴り倒し、両親のことは引き摺ってでも子爵家に連れて行くのに。場合によってはご迷惑にならぬよう、一家で…………」と顔を青くさせ思い詰めることもあると言う。


 

 当時のセサミは「俺はもう公爵家を退いた身なればこそ、後継ぎが何とかするのが筋と言うもの。コロネの好きなように動いて見ろ」と、面白がるだけだった。


 元来ワッサンモフ公爵家の血には、駄目な遺伝子が受け継がれている。

 ワッサンモフ公爵家初代は臣籍降下した第二王子だったが、彼は浮気三昧でついには他国の間者のハニートラップに嵌まり、情報を漏らしかけていた(まだ他国には情報が渡らない、首の皮一枚が繋がった状況だった)。


 尚且つ公爵夫人を追い出し、彼女を妻にしようと画策していたアホだ。他国への情報漏洩は、王族だとて最悪死罪になる極刑。お家断絶は必須だった。


 公爵夫人は子供達の未来を守る為、王妃に相談して最高の隠密を回して貰い難を逃れた。元第二王子は最恐となった妻と王妃の隠密により再教育を受けて更生したが、父親(元王子)を見ていた息子は賭け事に嵌まり散財し隠密の手で再教育→更生。その子供はアルコールに嵌まり隠密の手で再教育→更生の道を辿っていた。


 妻となる者がどれ程優秀でも、駄目な部分が出てしまう子孫達には、元より隠密から厳しい教育を受けさせることが最適解だとし、その後の教育方針が決定したのである。


 勿論教育に家族が関わることは出来るが、中心は隠密達が教師であることに代わりはないのだ。


 セサミも例に漏れず隠密からの教育を受け、歴代でも優秀だと評価されていた。

 だが駄目遺伝子は水面下での活動を継続しており、人を意のままに操ることを悦とした個人的ゲームが続いていた。


 妻も子供達もその一つだった。

 自分に逆らわず、概ねうまくいった。

 けれどセサミは、コロネの言動を意識していた。恐らく3歳頃には、天才の片鱗が見え隠れしていたのだろう。特に物覚えの早さと、その口調によって。


 周囲の会話を理解し、そしてそれを会話に落とす能力。ただ真似ているだけなら微笑ましくても、理解が伴えば驚異にもなり得る。


 セサミはそれを疑い、そして成長する孫を注意深く観察していた。


 自分に似て小賢しいコロネを屈服させ、操りの対象に加えたい悪徳爺(セサミ)は、彼女が泣きついてくることを待った。


 けれどコロネはそれに屈せず逆に苦境に立たされたことで、自らに宿っていた『超記憶』を活性化させることになった。 

 結果はチェルシーハニーの事業化や、それに伴う冒険者ギルドとの連携、社交界を巻き込んだリサイクル仕様の洋品店の開業に、母の思い出からの真鍮細工作りと、それに伴う職人の育成などだ。


 人を操りたい駄目遺伝子は、セサミだけでなくコロネにも受け継がれていた。

 でも方向性の違いが大きかった。


 自らの保身で動いていた行動は、コロネに安寧をもたらすことで、別のベクトルに向かう。

 自分が辿っていたかもしれない、不幸の可能性をなくすことに舵を切り始める。

 何処に生まれても、ある程度の幸せを手に出来るようにとの思いから、再始動したのだ。


 それは母やモロコシの生い立ち、孤児院等で不幸な子達を見てきたから、そう考えたのかもしれない。



 自分の視界の中で関わる人には、幸せになって欲しい。


 それがコロネの行動原理だった。

 この何とも穏やかな方向に至ったのは、周囲がコロネを大切にしてくれたからだ。


 逆にこの能力持ちで世を憎み不幸に育ったなら、最悪の悪役令嬢になりえたかもしれない。


 結局のところ、環境が与える影響が大きいのだろう。



 溢れる知識欲と刺激を求める本質のせいで、もし平和な家庭で育ったとしても、普通の令嬢のような学園生活を送るのは苦痛だったことだろう。


 幸い?なことにコロネを取り巻いた複雑な家庭環境は、公爵令嬢でありながらも学園に通わなくて良い免罪符を与えた。


 知性と教養を隠密達から叩き込まれたコロネは、数々の修羅場を潜り抜けたせいで、時々影武者のブルーベルと成り代わっても違和感を感じさせない胆力さえあった。


 そもそも影武者であるブルーベルがコロネを支える為に、公の社交の98%を担っている。残り2%は、近しい者の冠婚葬祭である。



「私なんかより、ブルーベルの方が公爵令嬢に相応しいわ」


「何のご冗談を。私はコロネ様の名を汚さぬよう、日々努めているだけで御座います。とてもコロネ様の才覚などには、この身は遠く及びません」


「もう。ブルーベル、固いってば。私達は従姉妹なのだから、そんなに固い言葉はいらないの。それでなくても貴女には、たくさん迷惑をかけているのに」


「迷惑などは微塵も御座いません。仕える者として影武者になる誉れ、大変に遣り甲斐を感じております」


「……分かったわ。でも無理はしないでね。私は貴女にも幸せになって欲しいの。影武者を辞めたくなったらいつでも教えてね。他にも変装のうまい隠密はいるのだから」


「私では、役不足で御座いますか?」


「何で? 全然違うわよ。結構窮屈なこともあるから大変だと思って。それに今後は、好きな人だってできるかもしれないでしょ? 私は政略結婚の必要があれば、それに従うつもりだし」


「たかが政略であるのなら、尚更私が対応させて頂きます。その身を汚す必要など、コロネ様にはないのです」


「ちょっと、それは駄目よ。私はブルーベルに幸せになって欲しいのだから」



 そんな会話をしていると、ミカヌレが会話に参入してきた。


「安心して、コロネ。ワッサンモフ公爵家では政略結婚なんてしなくて良いのよ。もし仮に結婚することがあっても、白い結婚にして好きなように生きなさい。ストビーテ様が国王になったことだし、もし公爵家に婿が来るとしてもそこら辺は考えて貰っているから」


「その辺とは、政略結婚のことですか?」


「そうよ。コロネは好きな相手と暮らして、その人との子供も生んで、領地経営だけ相手に任せれば良いことにするから」


「そんな不誠実なこと、通してはいけないわ」


(ミカヌレ)もそう思うわ。だから結婚なんてしなくて良いのよ。もし政治的な関係でストビーテ様が無理を通すなら、その可能性もあると言ってあるから。コロネは余計なことを考えないで、好きなことをしてなさい」


「そうですよ、コロネ様。そんな結婚なら尚更、(ブルーベル)の出番で御座いますから。全ての憂いは私にお任せ下さいませ」


「まあ二人とも固いわね。嫌な相手なら、いくらでも逃がすから任せて。今のワッサンモフ公爵家に不可能はないわ。貴族籍なんていくらでも隠密の技で偽造するし、他国の貴族籍だって買ってあげることも出来るわ。

 二人のことは絶対に不幸にさせないから、安心してね」


「お母様、格好良い」

「伯母様、ありがとうございます」



 ブルーベルの頑なさは変わることはなかったが、こんな感じのやりとりは続いていたので彼女(ブルーベル)は孤独ではなかった。


 彼女はワッサンモフ公爵家やコロネ達が大切だし、仲間のことも大好きで頑張っていたのだから。




 まあそんな感じのコロネだったので、恋愛面の情緒には欠けていた。

 ブルーベルの方も同様で、一生を影武者で生きると決めていたのだ。

 そんなブルーベルが将来、ミントジュレの影武者であるガルスと相愛で結婚することなど、予想もつかないことであった。



 コロネがチャルメの気持ちに気付かなかった理由には、どうせ結婚するなら政略結婚だろうと諦めていたこともある。

 いくらミカヌレやスライストが伝えても、ブルーベルが身代わりになると訴えても、あくまでも弁えていた。

 


 だからこそチャルメの気持ちに気が付いた時、経験にない感情に対処できず、狼狽えて逃亡を図ることになったのだった。



「好きって言われたわ。だってチャルメとはずっと一緒だったのよ。私の大食いするところだって、さんざん見られているのに。正気なの~」


 そんな感じで。

 それでも嫌なら、即断ったことだろう。


 でも………………。

「どうしよう。私、チャルメのこと嫌いじゃないわ。一緒にいて心地良いし楽しいもの。でもでもでも、どうしよう~~~~」


 初めての告白と、この返答に悩むコロネ。




 ちなみに。

 コロネは関わった老若男女、みんなに好かれていた。

 平民の男子達は、憧れるものの自分には支えきれないと諦め、貴族令息達もラディッシュとチャルメがいるから諦めていた。


 時々いる頭の悪い貴族令息は、「どうせ深窓の令嬢だろう? 既成事実を作ればいけるのでは」と関わりも薄ければ軽薄な発言をほざいた瞬間に、ワッサンモフ公爵家の地下の拷問部屋に招待されていた。


 そして数日後。

 真人間になって(洗脳されて)解放され、害のない正直者として生きていくのだた。



 過保護な隠密達の深い愛に支えられているコロネは、こうして幸せな経験に頭を抱えることになったのだ。



 あとコロネは隠密の護衛の他に、普通に護身術を身に付けており、暴漢避けの魔道具を持っているので防御は完璧だった。

 この後に魔法も習うことになるので、ハッキリ言って最強の部類である。








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