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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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女神とコロネ

 コロネの住む世界には妖精が多く住み、その妖精の代表が大精霊として幼い妖精らの様子を見ていた。


 時に救いの手を差し伸べ、時に著しい悪さをしていたなら止め、人間に比べ果てしない長い時間を喜びや悲しみを共にして信頼を抱いてきた。


 ただ今代の大精霊サラマンダーだけは、他の大精霊に比べると情緒に欠け、他の精霊にあまり興味がなかった。だからこそ彼の周囲には妖精があまり残らず、暮らしている国の環境は良くなかった。



 それに比べ。

 暮らしやすい気温、作物の育つ土壌、動植物の成長を促進させる力、天候を操る力、新しく生物や植物を生み出す力、普通の山に鉱物を宿らせる力等など、たくさんの妖精が集まり時に同種・異種と番うことで、魔力を編成させて変わっていくコロネ達がいる場所。



 お菓子や美味しい果物などに、釣られたと言えなくもない。

 けれど太古から、その風習は変わらずあることだ。


 日本でもそう。

 政=祭りは、両者ともまつりとされる。


 古代天皇や指導者は、神を慰め祈願する「祭り」を行うことで、飢えや災いから民を守り、国を治める「政」としていたと言う。



 超常的な存在に祈願や捧げ物をして幸せを願うことは、昔からよくある生活に根付いた風習なのだ。


 そこに相性やら諸々が加わって、コロネ側の方にかなり偏りが見られてしまっていたが。結果的に、普通は人間に見えない妖精達の姿も、幸福度(満腹度)や魔力一極が高まり、平素より見えまくってしまった。

 


 方やカザンサススノー国の火の大精霊サラマンダーや一部の火の妖精達は、灼熱の炎に身を置くことが一番の快感で、人間や他の妖精のように食べることにあまり興味がない。

 純粋に火の力を巧みに操ることで、その影響を楽しむ。

 歴代でも楽しかったとサラマンダーの記憶に残るのは、元は共にカザンサススノー国で過ごした土の大精霊ノームと作り上げた武器のことである。


 二人が大精霊になったばかりで、幾つかある役割にあたふたし、仲良く話し合っていた頃の記憶だ。その時は確かに、互いを尊重していたのに。



「おおっ。お主の火の調整で、最高の刀が作れたぞ。これで民を襲うドラゴンも一刀両断だ。礼を言うぞ!」


「別に良いよ。余裕だしな。それよりもっといろんな物を作ろうぜ。俺も協力するから」


「うむ、頼む。まだまだ精進しようぞ!」


 気の合う二人で肩を組み、作品について何度も語りあった。そんな時間が確かにあった。


 鋭く光るような刀身の完成を二人で眺め、歓喜しあった記憶。



 その後のサラマンダーは大精霊となったことで、妖精達に崇められるようになり努力を厭うようになった。


「なあ、ノームよ。わざわざ大精霊になってからも、受肉して汚れ仕事などしなくても良いだろ? 他の奴に任せておけよ」


「……変わったな、お主。鍛治はワシは生き甲斐だ。口を出される所以はない」


「何だよ、その言い方は。俺はお前のことを考えて言ったのに。くそっ、好きにしろよ!」



 その後不貞腐れたサラマンダーは、200年程マグマに籠りふて寝していた。



 複数の大きな火山が囲むカザンサススノー国に残り暮らすのは、己の技術向上のみを圧倒的に望む土の妖精とその子孫達が多い。

 火山に暮らす火の妖精は、彼らをサポートする仲間達である。

 ただ彼らには、戦争で使う武器を作ることに罪悪感はない。

 それがどれだけ人間や動物、果ては妖精と人間の間に生まれた混血児達が傷付いたとしても、何も感じないのだ。

 罪悪感を感じないように教育された子供達もいるだろうけれど。


 多くの者を傷付ける武器作りを嫌う妖精達は、次第にその国を出ていった。

 その原因のもう一つに、地の妖精や地の妖精と人間の混血児の美醜による選民主義により、迫害されたことも否めない。


 大精霊ノームや受肉した土の妖精達は、鍛冶に最適な低身長で上腕が異常に発達していた姿をしていたから、人間には異形に見えたのだろう。

 元より妖精や大精霊、女神さえ敬わないカザンサススノー国では、当時の王族がそれを加速させていた。


「醜い見た目の者が作った物なんて、認めないわ」


「そうですわ。元は土の精霊でも、美しい姿の者もいるのですもの」


「フッハハハッ。こいつら(醜い奴)は出来損ないだ。奴隷にして鉱山に送ってやれば良い」




 土の大精霊ノームはそれを聞いて怒りに震えた。その後すぐ、仲間である土の妖精や受肉した土の妖精達を連れてニズラッシェリル(エルフの国)へ移住したのだ。

 あくまでも受肉は本人の望みによる姿だ。

 思う通りの姿ではなく人間型になれば、持ち得る能力はあまり発揮できない。それこそ失敗なのだが、それに人間は気付かない。



 未熟な土の妖精が何とかなっているのは、気紛れに手伝う火の妖精のお陰だった。カザンサススノー国での土の妖精の多くは、火の妖精に頭が上がらないのだ。




 

◇◇◇

 そもそも妖精とは何なのか?


 それはこの世界の近辺を管理する、女神の部下のいうな位置付けだ。


 女神は言う。

「(コロネのいる)この世界の管理は、大精霊に任せるわ。滅びるようなことがなければ好きにしてて良いから、お願いね」


 軽いけどこんな感じだ。

 一人の女神が管理する星は、1000を超えるのでなかなか一ヶ所には留まれない。

 それでももう、何万年も前のことになる。


 今のノームが大精霊になって6代目だ。

 この星が出来て1代目の大精霊に頼んだとしてもかなりの時間が経過しており、今いる大精霊達は詳細を知らない。

 たぶん3代くらいまでは何とか伝わったのかもしれないが、文章にも残っていないので本当に分からないのだ。


 だから割りと勝手に生きていた。

 星が滅びるとかは論外であるが、世界の管理なんて考えてなかった。



 人間は死ぬと生まれ変わるが、その中でもランダムに選ばれた者が妖精になる。


 暑さも寒さも感じず、好きなように生きていける存在。

 妖精が人間へと受肉したり、悪い妖精が人間の体を乗っ取ったり、人間に力を貸したりと好きなように振る舞うのは、元人間だから親和性が高いのだ。


 妖精の中で魔力が強く人格も良い者が大精霊になることが多いが、今代のサラマンダーのように大精霊になって威張ってしまう者もいる。


 火の妖精は意外と我が強く、仕方がない面もあるにはあるが。



 大精霊としての寿命を終えた時、適正があれば女神の助手として管理側にまわり、そうでない者は人間に生まれ変わる。


 順繰り順繰りで、適切な役割を渡されるのである。



 

 そんな世界の中で『超記憶』を持つコロネは、女神に恩恵を受けて生まれた者である。


 前世で善行を行い生きた人間。


 ランダムに選ばれる妖精の中でも、シード(優遇)される次期大精霊が約束される存在。



 けれど前世で、今のコロネである存在はそれを固辞した。



「私のような者より、素晴らしい方はたくさんおります。出来るならば、来世も是非人間にして下さい」


「良いのですか? 妖精であれば暑さや寒さ、痛みや空腹、愛憎渦巻く人間関係などの苦しみから解放されるのですよ」


「はい。もし傷付くことになっても、私は人間が好きなのです」


「……そうですか。残念です。貴女ような方が人間を支える側にまわれば、世界も安定すると思うのですが」


「私は人間の可能性を信じています。失敗しても立ち上がる力があると。女神様に対して大変烏滸がましく、申し訳ありません」


「謝らなくて良いのです。私も貴女を見てそう思ったのですから。だから今度貴女がここに戻って来たら、また相談させてね」


「ありがとうございます。女神様の存在が感じられるから、私は不安なく生きていけるのです。女神様も無理せず、お元気でいて下さいね」


「……ありがとう。やはり貴女には傍にいて欲しかったですが、仕方ないですね。

 貴女が次に生まれる場所は、ちょっと複雑な貴族令嬢です。辛いまま早世しないように『超記憶』を授けるわ。仮に貴族でなくなっても、この能力があれば生きていく力となるでしょう」


「女神様……優し過ぎます。私、絶対に長生きしますから。そしてまた胸を張って、ここに戻ってきます!」


「待ってるわ。元気で」


「はい。行ってきます!」




 そんな感じで女神と話したことは忘れ、コロネとして成長したのだった。


 コロネが寿命を生きて女神のところに行った際、恐らく前世のことも思い出すだろう。

 そしてまた妖精になることは固辞して、人間か若しくはエルフになることを希望するかもしれない。


 次の転生でラディッシュと再び出会い、魔術の習得や魔道具の作成に力を入れるかもしれない。きっと彼はその時でも100歳を少し超えたくらいで、魂の色でコロネのことを見抜く筈だ。


 後はコロネが手出し出来なかった場所であるカザンサススノー国に転生し、人の役に立つことをしたいと考えるかもしれない。



 




◇◇◇

 今はまだチャルメに告白され、どうしたら良いかとバタバタするコロネ。

 彼女は、今住んでいるこの星が大好きだ。


 傷付かない存在になることを保留にしながら、何度も何度も泣きながら人間として生まれてくる。


 何もかも忘れて、前世とは違う存在として生きるコロネ。力を持とうとも持たずとも、その生き方は真っ直ぐでしかない。


 気配はなくとも女神と繋がっている感覚は、どんなに離れていても微かに感じていた。


 



 余談になるが。

 この星の半分は結界に阻まれており、人間も大精霊も通れない区切りが存在する。

 そこは陸が少なく海底に住居が存在し、人魚と呼ばれる存在が暮らしている。



 コロネ達の世界が平和になった時、女神の裁量でその結界がなくなり、交流が始まるかもしれない。


 この星でも、まだまだ未知が存在する。

 また離れてはいるが、生物が住む他の星々も無数に確認されている。その中には人間の住む星も多くあるようだ。


 コロネ(である心身)の旅は、まだまだ終わらない。

 そして彼女の選択肢も、常に変化していくことだろう。





 彼女は今日もチャルメと共に他国へ足を運ぶ。

 屋台でその国の昼食を取りながら、困っている人がいないか街を見て歩く。

 情報者ギルドに足を運び、隠れた情報を得て時に解決に動き、時に平和だと安堵し帰路につく。


 教会や孤児院には、遊園地の演目をその国の言葉で翻訳した絵本を寄付している。



 ユゼフィラン国では秘密裏に付くコロネ達の護衛も、空間転移魔法では置いてけぼりである。


 妖精は面白がって付いて来るので、賑やかではあるのだが。


 滅多にアクセサリーを着けないコロネの装飾品は、魔道具である。


 右耳の真珠型のピアスは、中央を押すと煙幕が出る。

 左耳のピアスは、強く2回押すことで爆発する。

 中央がサファイア型のネックレスは、水に入れると睡眠ガスが発生する。



 実は魔法の方は、3つしか訓練していない。

 一番に覚えさせられたのは、治癒魔法。

 二番目は隠蔽に限りなく近い、気配遮断魔法。

 三番目は空間転移魔法。


 本当は空間転移魔法だけを速攻で覚えたかったコロネだが、ラディッシュが止めたのである。



「治癒魔法と隠蔽魔法が出来なきゃ、空間転移魔法は教えられない。何でって? そりゃあ、危険だからだよ。コロネは目を離すと何処に行くか分かんないからね」


「そんなこと……ないと言えないわね。分かったわ、順番に教えて」


「納得してくれて良かったよ。まあ、ゆっくり覚えていこうね」


「はい、お願いします(でも本当は、早く空間転移魔法が覚えたいわ! ウズウズ)」




 そんな感じで訓練は続き、一応治癒魔法は3か月で習得していた。けれど隠蔽魔法は、さすがに無理であった。


 そこに水の大精霊ウンディーネが登場。

「そんな高等魔法が出来るまでには、10年以上訓練しなきゃ無理よ。ラディッシュはコロネを大魔法使いにして、国の軍隊にでも入れたいの?」


「違うって、安全の為だよ。僕だって不意をつかれて危ないことがあったんだから。魔法が使えなかったら、どうなっていたことか!」


「それはあんたが、エルフの癖に変装もしないで油断してたからでしょ? まったく、笑い話として女王のエブラントから聞いたわよ。その点コロネは見バレしてないし、同行者もいるから平気よ」


「同行者って、あのチャルメだろ? 魔法も使えないのに、心配だよ」


「全然平気よ。あの子にはシルフかシルフィードが付いてくれるし、あの子自身も鍛えているから」


「信用できない。無理~」


「いい加減、妹離れしなさい。見苦しいわよ」


「そんな~。今まで通り、僕が連れて行くから良いじゃないか」


「しつこい! シスコンは嫌われるわよ」


「ウンディーネのイジワル!」


「え、美しいって。まあ、抗えない褒め言葉ね!」


「言ってないよ~。難聴ババアか?」


「何よ。ブッ飛ばすわよ、小僧!」




 なんてやり取りがあり、その後2番目の魔法習得は気配遮断魔法に変更になり、あっさり覚えることが出来た。トントン拍子で空間転移魔法も習得し、コロネは自由に動き回っている。




 妖精はいるので二人きりではないけれど、たくさんの知らない場所を共に歩き、子供を保護し時には事件を解決した。


 まるで昔から一緒にいた相棒のように、阿吽の呼吸で動き、敵を翻弄していた。


 たまに焦ったコロネが左右のピアスを間違えて、敵地を爆破したのは良い思い出である。

 怪我をしたのは悪質な人買いだけだったので、心配は無用である。もしかしたら、わざと間違えた可能性も…………。




 そんな感じで、今日もコロネは幸せそうに笑っている。





「コロネってば、さっきオムライス食べたのに。ケーキなんて食べられないでしょ?」


「食べられるよ。だってこの場所でしか食べられないのよ。この地は平和だし、もう暫く来られないし」


「分かったよ。でもお土産にしよう。みんなの分も買ってあげるから」


「ええっ。でも高いよ、良いの?」


「大丈夫です。一応大富豪ですから、遠慮は無用です!」


「わ~い。チャルメは優しいなぁ。ねえ、シルフィードもそう思うでしょ?」



 話を振られたシルフィードは暫し悩む。

 

「う~ん、う~ん。チャルメは女の子に優しくないわよ。昔から銀行の御曹司だからって、子供から30代までの女に追いかけられて、恐怖で顔を歪めていたもの。たぶん普通に会話するのは、コロネとコロネまわりの女性にだけよ。

 その中でも食べ物を奢ってあげるのは、コロネだけよ」


「そーなの? もしかしたら餌付けかな? ペット枠で」


「違うよ、コロネ。君が花とか貴金属を喜ばないから、毎回食べ物なんだよ。この間だって誕生日にアクセサリーをあげても、反応薄かったでしょ? ケーキには食い付いてたけど」


「食い付いてたって。恥ずかしいなぁ、もう。まあ、そうだけどさ」


「ふふっ。そうなの? コロネって、面白い。シルフに教えてあげよう」


「止めてよ、恥ずかしいよ」


「まあ、いつもことでしょ?」


「チャルメったら、酷いわ。まあ、そうね。いつものことね。フフフッ」


「そこがコロネの良いところだから。そのままでいてよ」


「まあ、お熱いこと。私も早くシルフに会いたくなって来たわ」


「えっ、熱いとか」


「な、ないわよね」


「はい、はい。照れてないで帰るわよ。愛するシルフが待ってるんだから」




 そんな日常が、今日も慌ただしく過ぎて行くのだった。










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