コロネは止まらない その1
コロネが経営するフルーツパーラー『エクラ』は、多くのスイーツ好きに愛される場所となった。
ユゼフィラン国に来た観光客からは、支店を自分の国にも作って欲しいと言う希望が多くあった。
食べたことがある者が同じように真似ても、味は全く違う為だ。
それにはタバサの前世で、「こんなお菓子があった」と言う記憶を聞いたコロネが、この世界にある材料で再現していく過程から始まっていたからだ。
当初のお菓子は美味しい果物ケーキとスイーツが中心だったが、果物の長時間移動が可能となり、似たような物が他国でも作られるようになった。
『新たな商品開発』
これを進めることで、『エクラ』は差別化を図ってきたのだ。
材料や手法は門外不出で、信用の置ける者だけを雇う方式を採用。
万が一に脅し等でレシピが漏れた場合は、その(レシピを聞き出した)店に対して執拗に干渉していくことを徹底した。
例えばその近隣に、『エクラ』の支店を作ること。
その場合はチャルメが銀行の(不動産屋等の)顧客から、最も有力で安価な土地または建物を購入し、素敵な外観と内装でワクワク感を与えるところから開始される。
建物を作る鍛治師にはガンテツを始めとして、自立して師匠となったケルアン、シャイン、マイケル達がいる。彼らの弟子達には孤児院の子もいるが、その卓越した技術に平民や貴族の子息も多く門戸を叩いた。
修行に耐えられ、さらに人格の良い者は仕事を任されていく仕組みで、職人仕事に身分は左右されない。
「僕に便宜を図れば、お父様から仕事を回して貰えるぞ。だから言うことを聞け!」
なんて言う物知らずの野心家貴族子息が来ても、ガンテツ達の提携先の多くはワッサンモフ公爵家や王家である。
さらにギルド関係者全般とエアピゾーラ銀行、内密なところではエルフの国や妖精の多くいる島も味方だ。
内密な部分は知らなくても、ガンテツ達とワッサンモフ公爵家・王家との繋がりを知れば、余計なことは言えない筈なので、その時点で「今回はご縁がありませんでした」と落とされることになるのだ。
不満が残り、その愚かな貴族家から抗議が来ても、レイアーがひとっ走りしてくれる。
「鍛治師の心労は仕事に支障をきたすので、止めて欲しい」との手紙を直接持ち込んで。
この時点でコロネ(実際はブルーベル)はミントジュレ(実際はガルス)と婚約中であり、王家とも懇意にしている。
さらに事業経営にはエアピゾーラ侯爵家も一枚噛んでいると言うことも公の事実だった。
それを知らない貴族家なら、「所詮は下賤な鍛治屋。有名なようだから、我が家で支配してやろう」とでも考えたのかもしれない。
事実に気付いた時はきっと、顔を青くすることになるだろう。
まあそれは、例外的な店の作りだが、『エクラ』の支店はカザンサススノー国以外にも、たくさん作られていたのだ。
今や世界的になった店の出店を拒む地域は少なく、寧ろ税金収入が期待出来ることで歓迎されていた。
けれど…………コロネが店を広げるのは、店舗を増やすことが目標ではなかった。
多くの店ではおおよその外観を作りあげた後、地下に広がる秘密の場所を、周囲に知られないように建築していた。
そこは地下と言うだけで魔道具の光で明るさは確保されている。水回りと空調も魔道具で清潔が保たれ、循環可能な作りになっていた。
丁度コロネが暮らす食堂の宿と酷似していて、たくさんの部屋があり普通に生活できる場所だった。
更に完成すると上から建物には入れず、空間転移魔法でしか出入りできないのだ。
これは当初から、コロネ達が考えていたシェルターだ。
様々な困難に晒されている子供達(と暴力や衰弱で生死をさ迷う大人の一部)を一時的に保護する場所だ。
子供達にはまず健康を取り戻して貰い、どうしたいか聞いていく。ゆっくりと療養した後で。
その上で違う国に移動したり、同じ国でも離れた場所に行くことを決める。
やってみたいことや仕事や学びたいことがあれば、出来る範囲で援助をしていくつもりだ。
ただ多くを救う為、援助には限度もあるが。
大人達もそうだ。
生きていく場所や仕事を紹介することは可能だが、保護したままではいさせられない。
だいたいの大人の場合、ある程度回復すれば眠っているうちに保護した場所から少し離れた救護院へ移動することが殆どだった。
各国の状況を掴む為に、ワッサンモフ公爵家とコロネの元に来た元ミズーレン伯爵家の隠密達がその地に住んで諜報活動を行って来た。
最初は危険だと止めたコロネだが、世界中の子供を救いたいと言う彼女の気持ちに、隠密達の心が動いたのだ。
自分達にも子供の時、こんな人がいてくれたなら。
隠密達にも、彼らを庇ってくれた人がいた。
子供である自分を庇って罰を受けた人や、中には亡くなった人もいたのだ。
出来るなら共に生きたかった。
もっと笑って、時には一緒に泣いて。
ワッサンモフ公爵家に来てから、元ミズーレン伯爵家の隠密達は強く思った。
今いるワッサンモフ公爵家の隠密達もそうだ。
貴族家の政争に使われ、汚れ仕事も多く手掛けてきた。時には命を刈り取ることも。
ワッサンモフ公爵家の縁戚と言ってもピンキリで、危険があるも給金が良い隠密にさせられ、両親に搾取されていた者も年配者には多かった。
隠密はそんな仕事だと分かっているのに。
孤児でなくても、平民でなくても、家族によって身の振り方が決められてしまっていた。
秘密保持の為に、昔の隠密は辞めることが許されなかった。
でも現ワッサンモフ公爵であるスライストは、隠密達が辞めることを許している。
「公爵家が不利にならない話をしなければ、辞めても良いんだよ。平和になった今なら、優秀な君達なら何処ででも生けるから。苦労をかけてきたね。ありがとう」
甘いと言えばそれまでで、レイアーやメロアンはその意見に反対している。それも当然のことだ。
「けれど平和な今だから、ギルドでも何でも協力していけば良い。それぞれが自立して仲間になるのも良いじゃないか」と、スライストも傍にいるミカヌレも微笑むのだ。
そんな彼らだからこそ、その娘であるコロネに協力したいと思ったのだ。
各国で労働する者の給金は、最低限の情報料だけコロネからを貰うだけとし、諜報専門で潜む者には今までと同額で給金が支払われることになった。
ワッサンモフ公爵家に下った隠密は多く増え、給金の支払いは財政を圧迫するからだ。
それでも繋がりがあることで、みんなが心強く温かな気持ちでいられるから不思議だった。
自立した仲間。
今の彼らには、それが最も相応しい呼び名かもしれない。
各地で得た情報は文書の形でレイアーにあげられ、精査される。それをワッサンモフ公爵家の幹部が裏を取り、コロネへとあげていくのだ。
16歳になったコロネは、空間転移魔法を習得している。そしてその隣にはいつも、多忙な筈のチャルメが彼女を守っているのだ。




