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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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日常のいろいろ その3

 その日クルルは、世界樹周辺の木の枝切りをしている時に倒れた。


 長年の隠密生活での不摂生や伯爵家を仕切ってきた重圧、先妻のとの悲しい死別や息子を導いてやれず罪人にした苦悩等、様々なものが重なった結果だった。

 身体や内臓年齢は、年齢以上に衰えていたのだろう。病気ではなく衰弱しており、老衰が一番近い言葉かもしれない。



 最近は気軽に話を出来る者も増え、仕事になれてきたクルルとピスタテルだったので、その衝撃は凄まじいものだった。


(私はまだ死ねない。甘やかした息子を置いていけないのです。せめてあと2年、いや1年でも良いから生きさせて下さい。どうか、神様お願いします)

 クルルは目を開けられないながらも、必死に神へ祈る。体が動かない不甲斐なさに一筋の涙が溢れ落ちていく。


 ピスタテルは恥も外聞もなく泣き崩れ、「置いていかないで。俺には父上しかいないのに……うわああぁん」とベッドで横たわる父に縋り付いていた。



 共に世界樹の近くで果物を育てているニューラズとナッタルテも、その光景には胸を痛めていた。

 コゴリとジェニスもそうだ。


 この国に来てからの彼らは徐々に打ち解けていき、何となくお互いの事情を話す間柄になっていった。

 抱えてきた過去は違えども、振り返れば全員がそれほど幸福な暮らしではなかったように思えていた。だからこそ今、やっと幸福を感じていたのに。


 共感だけでは足りず、知らないうちに存在していた連帯感。


 嗚咽が止まらぬ青年と心配げに集う者達。


 彼らの他にも人間はいたが、集った時期とここでの定住する6人の団結は強かった。



 コゴリとジェニスには例外中の例外で世界樹を使って貰ったが、おいそれとそれ使う許可は出ない。

 時に老衰は、自然の摂理なのだから。



 それでもニューラズとナッタルテは、互いに支え合う父子と自分達を重ねて、何とかならないか考えていた。




◇◇◇

 この国では最近、様々な妖精の出入りがあり、意気投合した妖精同士が融合して、魔力を高めることが流行っている。

 その融合により、今までにない能力が偶然に発現していた。

 

 それは身体能力向上(フィジカルブースト)である。


 妖精達は半ば遊びで融合している為、解除もすぐに出来る為、もう今後そんな奇跡は起きないかもしれない。


 ニューラズがそれを知った時、ナッタルテと可能性を模索した結果が、例の若返りの魔法だった。ただの治癒では老衰は治らないからだ。


 精々がお肌の若返りの成功が最大の成果で、ブーストが何処まで可能かは分からない。けれど失敗すれば効果はなく、成功すれば若返るのだ。


 言ってみれば時間の逆行魔法。

 藁にも縋りらいピスタテルは、彼女達にお願いしてそれを頼んだ。


 僅かでも可能性があるのならと。



 そしてブースト能力を持つ妖精達が要求した見返りが、美味しい果物とお菓子と踊りだった。この国の妖精の殆どは、大のお祭り好きだ。コロネの遊園地が開かれると、一時的にこの国の妖精が減ってしまうくらいに。


 ニューラズはラディッシュに頼み、コロネの住む食堂へ向かう。ルトースとカンラに美味しいお菓子を作って貰う為に。細かい計量がいるお菓子作りは、大雑把なニューラズには無理だった。


 彼女達の給金では、コロネのフルーツパーラー『エクラ』のお菓子は買えない。いや買えても少量だけだろう。

 だからこそ質より量だとばかりに、二人へ自分が持っている全額を渡して「このお金で出来るだけ美味しくて、いろんな種類のお菓子を作って。お願いします!」と頼んだのだ。

 

 頼まれた二人は、詳細も聞かずに頷いてくれた。

「まかせて! 最近おかず作りばかりで腕が鈍ってたのよ。ガンガン作るから楽しみにして良いわよ♪」


「ありがとう。さすが心の友だわ。果物たくさん出来たら、お裾分けするからね」


「本当に! うわぁ~楽しみ。今からヨダレ出そう」



 母親達の会話に娘も苦笑いだ。

「本当の姉妹みたいだよね。……ヨダレって、他にお客さんもいるのに恥ずかしい」


「うちのお母さんもピョンピョン跳ねて。子供みたいだよ。はぁ~」


「「フフフッ。いつも通りだね」」


 なんて手配が進んでいく。




 コゴリとジェニスも妖精達の士気を高める為に、踊りの演目を相談していく。今回は詠唱の邪魔にならないように、音を立てないダンスが中心だった。


「過去がどうあれ、クルルさんにはお世話になったわ。だから、少しでも力になりたいの」


「さすが俺のコゴリだ。女神のように優しい。愛してるよ♡」


「もう、やだ。ジェニスったら」



 二人の結婚式はまだだが、入籍は済んで夫婦になっていた。だからもう様付けは卒業したのだ。


 ちなみに祭り好きなコロネは他国におり、このイベントに参加出来なかったことを酷く悔やんでいた。


「も~、そんな楽しいの私も呼んでよね。次回はよろしく!」


 次回があるかは分からないけれどね。






◇◇◇

 そんな感じで準備は進んでいき、クルルの体重、身長、趣味、好きなもの等をピスタテルから聞き取っていくニューラズ。


 準備が整った翌日。

 世界樹の近くに木製のテーブルが置かれ、意識が朦朧としているクルルがその上に乗せられた。

 傍には心配げに手を握るピスタテルがいる。



 この日の為にコゴリが作ってくれた、神聖な白いドレスに身を包むニューラズとナッタルテ。彼女達は事前にテーブルに書いておいた魔法陣に向けて、手を繋いで魔法の詠唱を行う。


 傍には身体能力向上(フィジカルブースト)を補助してくれる妖精も飛んでおり、静かに力を注いでくれている。


 その周囲ではお菓子と果物が備えられ、「美味しい」「幸せやね~」と、妖精達がとんでもなく集まって喜んでいた。コゴリとジェニスも神聖な祭事用の演舞を繰り広げている。



 老衰だと言うクルルの見た目はまだ若く、とてもそんな風には見えない。まるで疲れて眠っているだけのようだ。


(貴方はまだ生きるべきよ。息子が可愛いなら、なおさらにね)

(ここは良い国だけど、家族がいないのは寂しいわ。出来るなら親子で楽しく過ごして欲しいです)


 ニューラズとナッタルテは成功を信じ、どんなに魔力が奪われて苦しくても詠唱を止めなかった。


 脳内で凄まじい計算と、クルルの個人情報を組み込んでいく。そして演算が終わりに近付いた頃、近くを飛んでいた妖精から更に強度のブーストが掛けられた。


「頑張れー、もう少しだ!」


 その声に周囲の妖精も力を貸すように、「頑張れ、がんばれー!!!」と祝福が積み重なっていく。



 そして詠唱が終わった時、突然白い煙のようなものに包まれ周囲は固唾を呑んだ。



 次に姿を見た時、一瞬?が飛び交った。


「……成功だよね。すごすぎない?」


「……本人だよね。うわ~~」


「何か、何か、幾つ若返ったんだよ!」


「すげえな、あの人間の魔法! もう踊っちゃおうぜ!」


「「「「良いね! 賛成♪♪♪」」」」




 ニューラズとナッタルテの魔法は成功した。

 それも大成功。


 でもこれは、ただの身体能力向上(フィジカルブースト)ではなかった。周囲の妖精の祝福も加わった結果なのだ。 



 成功と共に軽快でポップに踊り出すコゴリとジェニスは、妖精達と共にクルクルと楽しそうに歌も歌い始めた。完全にお祭りモードに突入だ。




◇◇◇

「あれっ。身体が辛くない。軽いぞ」


「ああっ、父上。良かった……元気になったのですね」


「ああ、すごく気分が良い。まるで若返ったみたいだ」


「若返ってますよ、父上。鏡をご覧く下さい」


「? そんな馬鹿なこと…………。あ、本当だ。まさかこんなことが!」


「ううっ、良かった。俺はまだ親不孝ばかりで、孝行一つしていないのだから、元気でいて下さいね」



 なんと肉体年齢が30代くらいまで若返ったクルルと、手を繋いでいたせいか20代くらいに若返っていたピスタテル。


 術を施してくれたニューラズとナッタルテより若返ったことになる。



「ちょっと羨ましいわね。お肌がピチピチ」


「もう、お母さんっば。成功して良かったね」


「ええ、本当に。これで二人とも長生き出来るわよ」


「うん………………」


 術の詠唱により、強度の疲労が訪れた母子は座り込んで目を閉じていた。とても充実した、満足した表情で。



 そんな二人を起きたばかりのクルルとピスタテルが、家まで抱えて行くことになった。


 クルルに不調はなく、走り出したくなる程気力が漲っていたので、任せることにしたのだ。


 若返った二人を眺めるのに妖精が付いていくので、ある意味安心だろう。

 その後方にはリオニオンが、念の為にこっそり跡を付けていた。


 残された妖精達とラディッシュ、女王エブラント、ノーム、ラディッシュの曾祖母クレア、エルフ達と単身赴任の人間達もみんなが歓喜に沸いた。


 コゴリとジェニスは、妖精達と共にいつまでも踊って女神に祝福を捧げたのだ。


 幸運のお裾分けのように、気付かぬうちにみんなも2~5歳若返っていたのだが、クルルの変化が驚愕過ぎて気付いていないのだった。




◇◇◇

 ニューラズとナッタルテが心配で、ベッドサイドで様子を見守るクルルとピスタテル。



「う~ん、良く寝た」


「ああ。もう朝なのね」



 さっきまでのことを忘れ、寝ぼけているニューラズとナッタルテ。


 でもそこに、若返った美形のビジョンブラッドとプラチナバイオレットが、母子の顔を覗き込んできた。


「大丈夫ですか? 無理をさせて、すみませんでした。お二人のお陰で生きています。本当にありがとうございます」


「父を助けてくれて、ありがとうございます。なんとお礼をしたら良いのか。本当に、本当にありがとう」


 

 若返える前も美形だったが、若いピスタテルとイケおじクルルはアイドル並みにキラキラしていた。


 

「大丈夫ですわ(うわ~、格好良い! イケおじ最高ね♪)。」


「え、ええと。はい、平気です(何これ、ご褒美ですか~。神様、ありがとう!)」




 エルフの美形と人間の美形はやはり少し違うようで。

 創造物のような彫刻の美しさのようなエルフより、やはり人間の美形が好きなニューラズとナッタルテの母子。

 以前は気楽に話せたのに、今は何故か緊張していた。


 何故かと言うか、美形が眩しくてだけど。



 直視出来ず布団に潜り込む母子は、やはり似た者同士なのだろう。

 クルルとピスタテルは若返ったところで、自分の顔に美醜に執着はない。既にエルフ達を見慣れているからである。



 ただクルルの先妻ジルミとブルーベルが好きだったピスタテルは、美人よりも可愛い系が好きだった。


 幸い?なことにニューラズとナッタルテは、その可愛い系である。それにクルルの命の恩人なのだ。


 この4人の年齢は、だいたい同じくらいの肉体年齢になっており、まだまだ元気で生きていける。





 女王エブラントの恩情で、クルルとピスタテルは後10年働けば罰から解放されることになった。

 その前に結婚することは可能だと付け加えられて。


「良かったですね」と、本人達以上に喜ぶニューラズとナッタルテ。コゴリとジェニスも頷いて、優しく彼らを見つめる。


 クルルとピスタテルは、仲間に恵まれたなと目頭が熱くなるのを感じた。


「ありがとうな、みんな」


「今まで以上に頑張ります。よろしくお願いします」




 前向きに生きている彼らは、これからもきっと楽しく過ごしていけるだろう。

 








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