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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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日常のいろいろ その1

 お話はまた、コロネが14歳頃に戻ります。




 コロネはラディッシュに魔術を習い、膨大な術式を暗記していった。


 エルフの寿命は長く、コツコツと生み出された術式が多くあり、子孫はそれを何年もかけて受け継ぐ。


 計算式は複雑で、扱う魔法によっては難解な術式を暗算で微調整する必要がある。

 それを習得するには、長い時間と優れた知力が必要とされる。エルフの中にはそれらが苦手な者もおり、殆ど魔法が使えない者もいた。



 エルフもそうであるが、人間は更に顕著に昔の記憶が整理され、使わないもの(記憶)を忘れていく。


 だからこそエルフにも、魔法が不得手な者が存在する。たとえとして挙げるなら、いつも身体強化魔法を発動し物理で戦う方が得意な者や、治癒魔法に特化した者だろう。

 突き抜ければ英雄だが、そうでなければ落ちこぼれと言われる部類だ。




 エルフ達は皆、幼い時に国王から魔術の知識を与えられる。ここでの国王は魔力量で決められるので(当然人格も重視されるが)、身分の差などはあまり関係がない。

 勿論対外的(国同士)には王や女王の意見は重視されるが、あくまでも代表者としての意見である。国政は頼りとなる、推薦で決まった重臣達と協力する為に独裁にはならないで済んでいた。


 特に今は少しずつ他人種も増え、対応を昔と変える必要も出てきたので、エルフ達の団結は固いのだった。



 件のクルルとピスタテルの父子は、懸命に世界樹の周囲の環境を整えている。


 まだ若く小さい世界樹に日が当たるように、周囲の木を伐採したり、野生の動物が食い荒らしたりしないように監視(こん棒で追い払う等も)する。

 今後世界樹は大きく根を張る為、邪魔になる木を斬り倒し、木工所まで運んで再利用するサイクル施設も出来上がっていた。

 エルフの国で使わなくても、優良な木材はどこの国でも引く手あまただ。



 その作業をするのはクルル達だけではないのだが、かなりの重労働であることには違いなかった。エルフのように、身体強化魔法等使えないのだから。


 最初のうちはその所業により、ゲジゲジのように嫌われた彼ら(クルルとピスタテル)

 けれど何年も真面目に働くことで、エルフ達の彼らへの眼差しも変化していった。


 仮にもし彼らが逆らっても、エルフの国であるニズラッシェリルでそれは、微風にもならず鎮圧されるだろうけれど。



 その後クルルとピスタテルは、あるハーフエルフから身体強化の術式を教えられた。火の妖精の加護を受けた瞳を媒介にし、彼ら(火の妖精達)により魔力補充を受けながら必死に学んでいった。二人とも知力は高く理解が早い為、すぐに習得出来たようだ。



 それはクルルとピスタテルは反省が認められ、そこに住む住人達と妖精に仲間と認められた結果だった。

 罪は消えないが、真摯に贖罪を受けていることはみんなが見てきたから。




 

 広大な地を整備する仕事は変わらない。

 けれど木を運ぶ力は格段に上がり、疲労も軽減してやる気は満ちていく。


 時々妖精と共に世界樹へ魔力を注ぎに来る、モモ達を遠目で眺めて微笑みを見せるピスタテル。

 直接顔を合わせたり会話等はしないけれど、彼女(モモ)が元気でいるだけで幸福に包まれるのだ。



 けれど……と、クルルは思う。

 自分はもう、年齢的に寿命は長くないけれど、ピスタテルはまだ若い。自分が亡くなった後、息子が一人ぼっちになるのではないかと心配なのだ。

 いくら肉親だとて、モモに支えを依頼するほど愚かではないクルル。



 そんな時に彼らの前に現れたのが、元チェロスト子爵領で農業を手伝っていた、カザンサススノー国の元側妃のニューラズと元王女のナッタルテだった。


 実の所今のニズラッシェリル国には、人間が多く住んでいる。但し期間限定でフルーツを育てるユゼフィラン国の農業関係者である。


 妖精の依頼を受けて、ついにこの国でも果物を増やすことにしたのだ。

 妖精の力は魔力の上昇に繋がるから、果物を作るのも植樹するのにも反論はない。


 ただただそれを依頼して頼める人物が、今までいなかっただけなのだ。

 けれど今、コロネを通して思いきり伝手が出来た。専門家と呼べる農業のプロ達が。


 ラディッシュ経由で友好を築いたコロネにより、農家からも植物専門のギルドからも援助が受けられる状態になった。


 話し合って長く在住してくれることになったのが、ニューラズとナッタルテだったのだ。


 ニューラズは農業国出身であり、元チェロスト子爵領でもチーフを任される程の実績の持ち主だった。娘のナッタルテも知識を受け継ぎ、即戦力である。


 彼女達は他の者よりも土地への執着がまだ薄い為、今回喜んで移住へ手を挙げた。やはり各国に家族がいる者は、空間転移魔法でしか移動出来ない場所へは家族での移住は好まれず、単身赴任的な扱いだった。

 単身でもまだまだ閉鎖的な場所であるのは、間違いない。

 エルフは昔から悪人に狙われるので、閉鎖的になるのも仕方ないことだった。



 3か月毎に空間転移魔法で、人の行き来が行われている。今はもう、リオニオンやエッダだけではなく、ラディッシュも魔力が増えて単独で送迎対応が出来る。

 彼の他にも若いエルフ達も空間転移魔法を習得しており、手伝いを行ってくれていた。



 多くの妖精の傍にいるせいか、コロネ達の周囲には魔力が多い者が増えてきた。

 エルフ達が魔法を使えるのは、導く師がいることで知識を得られるからである。逆に言えばコロネで証明されているように、人間にも適正があれば使えることになる。



 ただ人間とエルフは、敵対してきた歴史がある。

 厳密に言うと、一部の悪辣な猟師達(ハンター)とエルフと言うことであるが。



 エルフの天敵になり得る人間に魔術を教えるのは、自分達の首を絞めることになりかねない。だからこそ魔術を教える際には、エルフを傷付けることを出来ない誓約を交わしており、教えられた人物は他者に術式を漏らせないことになっている。


 その為、人間から人間に魔術は伝わらないことになるのだ。

 覚えるのも大変なのだが、魔術に憧れを持つ者は「それでも良いので、是非教えて欲しい」と望む声が多くあった。


 その中でも性格や魔力に適正のある者だけが女王に選ばれ、女王の責任の下で魔術を学ぶことが許されたのだ。指導者となる者は、女王が信を置く者が担っていた。




 クルルとピスタテルには、償う罰がまだある為に、身体強化と治癒魔法だけが教えられていた。 しかし好奇心が強いニューラズとナッタルテは、成功率が低い珍しい魔術を学んでいた。



「お母さん、これが成功すれば嬉しい?」


「ええ、勿論よ。だって、やっと幸せになったんだもの。この時間がもっと続いて欲しいわ」


「じゃあ、私頑張るわ。お母さんの為にも、私の為にも」


「まあ、無理はしなくて良いわよ。少し効果があるだけでも儲けものだもの」


「でも私、もっとお母さんと一緒に暮らしたいわ」


「そうね、そうよね。じゃあ、お母さんも頑張っちゃうわよ」


「うん。二人でガンバロー♪」


「「おおっ!!!」」




 いつも元気なニューラズとナッタルテの母子は、空き時間で若返りの魔術を習得しようとしていた。

 失敗しても「次は成功させるわ♪」と言ってハイタッチする明るさは、いつも周囲を微笑ませたり和ませる。

 まるでそれは、カザンサススノーで失われた時間を取り戻すかのようだった。


 上手くいかなくても、お肌の張りは良くなるらしい。

 今までも術式は完成しているが、大昔に数人習得した程度の難しいものらしい。

 後に挑戦した者も、精々がお肌の若返りが少し行えた程度なのだ。


 それは術式展開時、更にその最中で個人(身長、体重、年齢、性別、血液型等)に適合した微調整分を暗算して、再計算していく必要があるので上手くいかないらしい。

 使う魔術も多く必要であり、一度行えば3か月は魔力を貯める必要があるのだ。さらにとても疲労感が強くなる。


 多くの者は数ある失敗と疲労に、諦めてしまうのだが、この母子はいつもポジティブだった。


 決して諦めないのだ。



 その様子を眺めるクルルとピスタテルは、母子の明るさに元気を貰っていた。

 ニューラズとナッタルテは、クルル達の罪を知っていたが、邪気なく汗して労働する姿を見て次第に認めていくことになった。



 彼女達は、カザンサススノー国のイヤらしい王子達や暴力的な王妃、嗜虐的な王女達の様子を知っている。

 だからこそ、クルルとピスタテルの変化を受け止められたのだ。






◇◇◇

 ちなみにカザンサススノーの側妃と王女救出作戦の際、焼けた側妃棟の救出を図ろうとしたソイズ大尉だったが、管理者の少佐に止められて涙を堪えながら諦めてしまっていた。

 彼が動けば部下も罰せられると思い。


「こんなの、おかしい。彼女達は……国の為に人質としてこんな場所にいたと言うのに。全員焼かれて死んでしまった。古い建物でなければ、ここまで酷いことにはならなかった筈だ……」



 強く握った拳からは血が滴り落ちていた。




 その後彼は、思い出した時に王妃達が部下を責めないように、責任を取って軍を辞めた。責任を取る形なので退職金も出なかった。


 けれど彼はそれで良いと思った。

 側妃達を守れなかったからだ。



「上官は間違っておりません。助けないと判断したのは、少佐であります」


「俺達を庇って、辞めることになるなんて」


「「「辞めないで下さい!!!」」」




 彼の部下達は高潔な彼を尊敬していたから、一人で責任を取らせるような形にはしたくはなかった。



「責任とは違う。俺は弱い男だから、逃げたようなものなんだ。こんな卑怯な男のことは、すぐに忘れてくれ」


「「「っ……」」」




 それ以上は何も言えなかった部下達は、ソイズの後悔を汲み取ったのだろう。

 悲しげで、それでいて覚悟を決めた表情だった。




 彼は鞄に荷物を纏めた後、不要な物は全て処分した。中には生きていく上で、今後使う物も含まれていた。


 彼は側妃達の形ばかりの慰霊碑の前に座し、短剣で自害を図ろうとしていた。

 だが丁度、この国の様子を確認に来ていたリオニオンとタバサに止められたのだった。



「あんた何やってんのよ。生きたくても生きられない人間だっているんだよ!」


「ああ、その通りだ。この方達は死んで良い方ではなかった。辛い環境に堪えてこられたのに、あんな火事で…………。うっ、俺は助けられなかった。命令に逆らえなかった、あぁ」



 タバサは泣きながら叫ぶ男を見て、側妃達のことで心を痛めて自死までしようとする者がいたことに驚いていた。


 慰霊碑の前には綺麗な百合が飾られていたが、恐らくこの男が備えたのだろう。



 その後もリオニオンと共に、彼の懺悔を聞いていたタバサは「分かるよ、あんた。そうなんだよ、信じた奴に裏切られると苦しいよな。うぐっ」と、前世の自分のことを振り返り涙していた。


 前世スケバンだった清子(タバサ)は、敵対する相手を信じて、タイマンの約束の筈が集団に殴られて死んだ。

 己の正義を信じた末で裏切られたのだ。



 信念を折られた時、心はポッキリ折れることを知っている。清子は殴られる痛みより裏切られた方が辛かった。

 当時の怪我の痛みは忘れても、「自分を信じてる」と言ってタイマンを提案してきた相手総長の裏切りは許せていない。


 何度も戦い語り合った女だったからこそ、余計にそう思ったからだ。



「あんたの言い分は分かった。取りあえず、移動するぞ。話はそれからだ!」


「ちょっと、あんた。おい!!!」



 タバサは自分よりガタイの良い男の首根っこを掴み、空間転移でユゼフィラン国に戻って来た。


 そしてコロネの住む食堂で働くルトースとカンラを見て、ソイズは驚愕した。



「あ、あぁ、良かった。生きていた。生きていてくれたぁ。うわああああっ、ありがとう、ありがとう」



 堪えていた涙が、堰を切ったように溢れ出した。

 ルトースとカンラは少し考えた後、「ああ! あの国の唯一の良心がなんでここに」「私達のことをちゃんと側妃と王女として扱ってくれた方ね。どうして泣いているの?」そんな感じで彼をあっさりと受け入れていた。



「やっぱり良い奴なのね。この人、あんた達の慰霊碑の前で自害しようとしていたのよ。助けられず申し訳ないです」って言って。


「まあ、そんな」

「嘘っ。生きていてくれて良かったわ」



 母子は恨みもなく、彼のことを心底心配していた。

 ソイズは信じられないと恐縮しっぱなしで、でも安心すると嗚咽が止まらない状態が続いていた。それでも徐々に笑顔を取り戻し、「生きていてくれて良かったです」と深く頭を下げていた。



 結局彼は女将の好意で、食堂の見習いシェフ兼用心棒に収まり、二人と一緒に働いている。


 その数年後。

 ルトースと再婚するのは自然の流れだった。




 そして今4年が経ち、当時の女将からルトースが店を譲り受けてソイズと共に経営している。カンラも若いシェフとお付き合いをしており、もうすぐ結婚する予定だ。


 ただ女将と旦那さんは、アルバイトとして近くに家を借り通っている。店が高く売れて悠々自適だと言うが、働くのが好きみたいだ。



 この際にコロネは14歳で、空間転移魔法を覚えて世界中を飛び回っていた。


「危険だから僕も行くから、一人で出掛けちゃ駄目だよ」と、チャルメが付いて来るようになったのもその頃からだった。


「妖精達もいるから平気だよ。攻撃魔法も覚えたし」


「それは……それも大事だけど、不意を突かれたら危険だよ」


「分かったわ。じゃあ、よろしくね。でも忙しいんでしょ?」


「忙しくないよ。魔法を使う時は、絶対教えてよね」


「うん、分かったわ。妖精達がきっと伝えてくれると思うし」



 そんなやり取りを厨房から見守るソイズとルトース。ニヤニヤしながら二人(コロネとチャルメ)に茶を出す女将と、他者の皿を下げながらも様子を見守る旦那さん。


 カンラに至っては、「若いって良いわね」と突っ込みを入れている。

 それを気付かないコロネと赤面するチャルメは、それでも幸せそうに午後を一緒に過ごしていた。







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