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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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気長なラディッシュ

  ラディッシュはコロネと共に、兄と妹のように多くの時間を過ごしてきた。

 

 カザンサススノー国のライラを救った時から、まるで冒険ような目まぐるしい展開に対応する為、試練や訓練を乗り越え、魔力を増やし魔術式を覚えることに夢中になった。



 順調に大きくなった二人だが、ラディッシュが16歳になった時から、彼の外見は年を経るのを止めてしまった。


 コロネが大人らしく可憐な顔つきになり、体型が丸みを帯びて女性らしく変化しても、ラディッシュは少年のように若々しいままだ。


 元々高かった背丈は180cm程で止まり、髭が生える訳でもない。

 若く見えると言われればそれまでだが、エルフは魔法式が一番暗記でき、体力的にピークだと思われる年齢が長く続いていく。 


 彼はその状態が長く維持され、その後も非常にゆったりとした成長を経過していく。彼の百数年年の離れた姉が、ラディッシュとたいして変わらない容姿であるのもそのせいなのだ。


 勿論妖精達より寿命は短いが、500年以上生きるエルフ達は人間よりも老化が緩やかである。



 ラディッシュも自分の成長が止まるまでは、人間とエルフの差を考えたことがなかった。


 それでも……何となく姉や曾祖母(彼女はノームから寿命を分けられているから、ある意味例外ではあるも)、他のエルフ達から話を聞いていた為、心構えは出来ているつもりでいた。


 けれど兄妹、師匠と弟子のような気安いだったコロネとの関係は、多くの人間が関わることで少しずつ二人を隔てていく。


 コロネは趣味と言いながら多くの事業を展開し、困っている人達に手を差し伸べる。更にはガシェーラル国まで手を伸ばし、遊園地こと、避難所を設けて救いの範囲を広げていった。



 コロネの魔力や纏う空気は優しいので、子供や妖精達に大人気である。

 おまけに食に関することだけは、ケチることなくわりと大盤振る舞いだ。但しお残しは厳禁だけど。



 宝石もドレスも装飾品も、必要以上には身に付けない。今も自前の洋品店で、宝石や装飾具を借り、必要に応じて鍛治師に台座やデザインの加工を依頼している。使った物もレンタルにまわすので、一度使って仕舞う等の無駄はない。


 彼女(コロネ)に取って、身に付ける物はその程度の認識だった。



 ◇◇◇

 コロネが(クリム一家が押し掛け散財した時)借金返済の為の事業開始資金がなくて、幼い時の贈り物の装飾品や宝石を売ってことがある。


 売却を請け負ったモロコシは、全て手元に置いて管理しているが、後に資金が貯まってもコロネが買い戻すことはなかった。プレゼントすると言っても「売ったものなので、未練はないの」と、逆に拒否されてしまう。


 心意気は潔く美しいが、モロコシも思い出の品を売ることも出来ず、どうしたものかと考えてしまう。そこでミカヌレに相談すると「買い取らせて頂戴。お願いよ!」と、目を潤ませて懇願されたのだった。

 ミカヌレも自分の物はわりとどうでも良いが、コロネのこととなるとやはり違うのだ。

 そうでなくともすれ違いが多くて、離れて暮らしていたので、幼き日の思い出の品は価千金である。昔に戻れなくとも、彼女にとっては思い入れがある大切な物ばかりで。



 ちなみに。

 事業を開始した当時のコロネの祖父(セサミ)は、意地が悪くて頼れない食わせ者だった為、「所詮この程度か。やっぱり子供だな」とか言われるのが無性に嫌で、頼りもしなかった経緯がある。



 そんな時でも食い意地が張っていたコロネは、ブランド蜂蜜を養蜂により格安で手に入れ、ブランド化して利益を得ていった。その際は手伝ってくれた孤児院や養蜂担当者と、金額度外視でみんなでお菓子にして食したこともあった。


 コロネがいつも重点を置くのは、ただの金儲けではなくみんなの笑顔なのだ。ただそう何回も振る舞えないのは、商売上辛いところだが。


 素敵なドレスや装飾品が好きな者もいるだろうけれど、その順位は彼女(コロネ)に取ってはとても低い。

 育った環境が多分に影響しているが、とても公爵令嬢の矜持なんてものからは外れている。


 それはコロネも自覚しており、「今さら普通の常識的な令嬢には戻れない。貴族の生活は無理だわ」と弁えていた。

 出来るけど、窮屈で嫌なのだ。




 ◇◇◇

 多忙な中でもコロネはラディッシュから魔術の基礎を学び魔道具の設計を行う。水の妖精の加護を受けているので、水質浄化とか水脈を見つけて井戸を掘る道具の設計が多く考えられていた。


 遺伝的に水の妖精の援助を格別に受けているが、子供時から複数の妖精と共にいたことでアドバイスも貰え、わりと多方面の商品化を行えるコロネは有利であった。

 難しい術式のいらない物なら、ヒット商品を多数世に送り出せた。


 「さすが僕の弟子だね。やるじゃないか!」


 「たまたまですよ。水関係は水の妖精のアイディアですし、他のもみんなの思い付きを作らせて貰っただけなんですよ」


 「それがすごいことなんだよ。妖精はあまり人に情報を与えない。と言うか、人の顔なんてみんな同じに見えるらしいからね。その点コロネは、特別枠なんだろう」


 「特別枠ですか? ふふっ、私ったら胃袋掴んじゃったのね」


 「ははっ。たぶんそんな感じかな? まあ、コロネの料理も美味しくなったよ。店で出せるレベルだ」


 「へへへっ。師匠に褒めて貰えるなんて、嬉しいな」


 「ふふふっ」


 ラディッシュはコロネのミートパイが大好きだった。食に拘るだけあり、味付けのソースが濃厚でクセになる美味しさなのだ。



 子供の時はラディッシュの店の作業場で、徹夜で作業し熱中して話し合っていたけれど、今のコロネは泊まることがなくなった。

 

 今は侍女が、多忙なスケジュールの彼女を迎えに来る。それでなくとも年頃になった男女を心配しているのだろう。


 4歳差の彼らの年齢は、コロネが15歳を過ぎた今、どちらも結婚出来る年齢となる。ラディッシュは19歳だ。周囲は何となく、やきもきしてしまう。

 ただラディッシュがコロネを傷付けないことは確かなのだが。


 どちらかと言うと、15歳で食前食後のお酒が解禁になったコロネが酔って、ラディッシュを襲う可能性の方が強い。

 エルフの王子に手を出せば、平和協定が崩れる可能性もあるし、コロネには後悔をする生き方をして欲しくない。


 酒の席の失敗なんて何だかコロネらしいが、彼女にはまだ野望があるから、躓くのは今じゃないのだ。

 最近は、風の大精霊もちらほらと目につく。

 恐らくチャルメの心配が伝わっての行動だろう。


 きっと更に、会える時間は少なくなることだろう。




 「心配することないのに。コロネはみんなに愛されているね」


 そう言って、少しだけ寂しげに呟くラディッシュは、エルフであることを少しだけ悔やんだ。蚊帳の外みたいで辛かった。





◇◇◇

 コロネは寿命で亡くなった。

 90歳の大往生だ。


 寂しいけれど、泣きはしなかった。


 輪廻転生(りんねてんしょう)があることは、エルフの歴史書で学んでいるラディッシュ。


 エルフは寿命が長いから、半身と呼べる伴侶と別れた時は死にそうな程辛いらしい。

 けれどラディッシュは、待つことに決めている。

 コロネが生まれ変わるのを。



 (人の魂の色や雰囲気は、恐らく死んでも変わらない。エルフとして生まれてくる可能性もあるけど、もし人間でもまた会いたいんだ)



 恋とか愛は、まだ分からない。けれど再び、コロネと友人になりたいと思う気持ちは本当だった。


 どんな姿でも、性別がどちらでも、また出会ってみたいと思うのだ。



 残念ながらいくら魔力があったとしても、ラディッシュの願いは、今上のコロネには届かなかった。でもそれはそれで良いと思う。


 彼が好んでいたのは、令嬢らしくない彼女だったから。




「きっとまた会おうね。コロネ」





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