ミントジュレの爺や
ミントジュレの爺やであり、また執事のロクモンは自室で報告書を読んでいた。
常々感じていたのですが、坊っちゃんには人の上に立ちたいと言う欲がない。まあ幼い時から兄弟同士なのに、派閥の者が次期王位を争う光景を見れば、仕方がないことかもしれませんが。
王太子であるストビーテ様が、坊っちゃんの才能を見込んで仕事を割り振ると、見事に熟したことでクロダイン公爵に目を付けられてしまいました。
王太子が臣下となる王弟に、出来そうな仕事を振ることは普通です。別段おかしいことではありません。
ただまあ第二王子ロコロ様は、門外漢とばかりに書類仕事を適当に扱い間違ってばかりだったことで、坊っちゃんとの違いを官職達から比較されました。勿論表立ってではありませんが。
しかしこれは、目立つことを嫌う坊っちゃんには予想外の失敗でした。
元々学者タイプの天才であった坊っちゃんは、手を抜いたのに仕事を余裕で終えてしまっていたのですから。恐らく力の50%も出していない筈です。
ストビーテ様は有能な坊っちゃんに引き続き仕事を振り分け、「こんなこと出来るか。俺の仕事は武力で国を守ることだ!」と、憤るロコロ様への依頼を減らしました。
それに眉をしかめたのは、クロダイン公爵の派閥の者です。これまでも密かにロコロ様を手伝い、書類の内容を必然的に確認できていたのに、それが不可能となってしまったからです。
普段より隠密等が、書類の盗み読み等を秘密裏にはしていたのでしょうが、書類が任されないことには口を出すことも出来なくなります。
次期国王の位置に近い、王太子ストビーテ様に認められている第三王子は、第二王子派閥であるクロダイン公爵には邪魔な存在です。
第一王子、第二王子の派閥人数が同じなら、第三王子が加勢した方が有利になると考えたのでしょう。
坊っちゃんは、どちらにも加担する気はありませんでした。
「派閥の人達、めっちゃ怖い。ロコロ兄さんは物理で恐ろしいし。クロダイン公爵は睨んでくるし最悪だよ! どうしよう、爺や~」
「しっかりして下さい、坊っちゃん。何かあれば、速やかに対処していくしかないでしょう。狼狽えるだけ無駄です!」
「そんなぁ。もうやだよ~」
まあそんな感じの時にカザンサススノー国からの縁談の話が持ちあがり、モモやコロネ様の協力を得て何とか回避出来たのでした。フォカッチャー・クロダインは、本当に最悪です。
坊っちゃんの見た目はキラキラして余裕そうなのに、中身は成長しない子供のままでした。精神的な負担があるせいか、いつも不安で心が落ち着けないのです。
私も当初は立派な王族と成長し、何れ国王となるストビーテ様の力になることを望んでおりました。
ですが……ただでさえ上の兄達と10歳以上年が離れており、国王夫妻には孫のように甘やかされてきました。
それがまた、ロコロ様や彼を祭り上げようとする者には、排除すべき者だと思われてしまったのでしょう。
私と護衛のエンヤは100%坊っちゃんの味方ですが、件のワラビーや他にフラフラと近くにいるの者達は殆どが敵だと思って正解でしょう。
恐らくクロダイン公爵家からの。
私とエンヤでは、守れる範囲も限られております。
国王夫妻は坊っちゃんのことが大事ですが、クロダイン公爵に指示されると、簡単に流されてしまうのです。恐らく金銭絡みでしょう。
それならばいっそ王子の身分など早く捨て、臣籍降下するなり、貴族籍も捨ててしまえば良いと思うのです。
もう16歳。されど16歳。
遅れて生まれた為に、周囲は全員大人なのです。
プレッシャーがあるのは当然。
頼れそうで頼れない距離感もおありなのでしょう。
ただ今はクロダイン公爵の力はかなり削がれ、腰巾着のクルル・ミズーレンも姿を消した。
ストビーテ様はワッサンモフ公爵の忠誠を受け、王位争いは前進しています。坊っちゃんの力がなくとも、地盤がためは十分でしょう。
さらに…………。
モロコシの報告では、現国王なのか先代国王の子供なのか定かではないが、坊っちゃんそっくりの顔の子供達が市井にいるらしい。
それもワッサンモフ公爵家で預かっている、使用人達の中に。
恐らく相手になった女達は、国王に見つからないように隠していたのでしょう。
昔はもっと王妃の悋気が酷く、庶子や愛人の処分のは簡単だった為、数人がモロコシに依頼して夜逃げしていたようです。
ワッサンモフ公爵家で教育された、坊っちゃん似の優秀な使用人。
モロコシがそれを教えてくれたのは、そのような選択肢もあると言う意味なのだろう。
「さあ、坊っちゃん。これが正念場ですよ。逃げは許されません。ただまあ、私とエンヤだけは、何処までもお付き合いしますけどね。私が育てた可愛い坊っちゃん。そしてロコロ様の八つ当たりで背部を切られ殺されそうなエンヤを、「殺すくらいなら僕に頂戴。僕の剣をあげるから」と、贈り物の宝剣と引き換えた坊っちゃんに、忠誠を捧げた護衛。どんな選択をしても、たとえ地獄でもお供致しましょう」
モロコシから届いた報告書を更に読みこむと、ロクモンの表情は、まるで孫の未来を馳せるように優しいものになった。
かつてストビーテを育てあげた、戦闘力高めの優秀な執事の忠誠は今、ミントジュレに捧げられているのだった。




