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宿縁モノローグ  作者: ゐぬい
三章 残留思年
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残留思年 1


 盈憐〈みれん〉

 憐れみで、満たされること。



 ある程度、この学校について説明しておこうと思う。

 ここ東高等学校、通称東高は県内でもトップ5には入る進学校(もしかしたら自称進かもしれないが)の県立高校だ。まさに公立校の鑑みたいな場所で、特に建物が古臭い。まあ、そんな文句を言ったところでオンボロ校舎を建て直すほどの財力が教育委員会、もとい県にあるとは思えないが。

 とはいえ、こんな学校にもウリはある。

 それが毎年六月末に開催される文化祭だ。

 というか、この学校にはそれしかない。

 『そのクオリティの高さは県随一。文化祭と聞けば段ボールと木組みで作ったものを想像するだろうが、そういった極限的で最低限の中でいかにクオリティを上げるか、という点において、この学校の右に出るものはない』と、いつだか来栖が力説していた。もしかすると、その魅力が高校入試の倍率に貢献する唯一の要素と言っても過言ではないのかもしれない。

 まあ、当然が如く、俺は微塵も興味がないし、楽しむつもりもない。そんなものは一部のお元気いっぱい集団のお仕事だ。

 参加はするだろうけれども、おそらくずっと、教室にいるか中庭にいるだろうし、最悪体調が悪いと言い張って保健室にいればいいし、自分の当番が終わったら帰ればいい。

 準備も最低限しかしないだろう。放課後は残らないのはもちろん、この学校には準備日と呼ばれるものがあるが、来栖の隣で言われた通りのことを脳死状態でするだけだ。

 時の流れというのは意外にも早く、そんな文化祭まで残り一ヶ月を切った。

 先週のテストも無傷で回避したが、このまま特に何事もなく夏休みに入れるわけがなく、俺が嫌いな行事ランキング堂々の第一位を飾る文化祭がやってきてしまう。

 何をやるかはとっくに決まっているらしいが、俺は一切知らない。まあ有志というか勇者というか、優者というか、そこらへんの人たちが勝手に引っ張ってくれていつのまにか完成しているだろう。


 さて、梅雨前線も近づいてきて曇り空が多くなってきた今日この頃。昼休み、渡り廊下で昼飯を食いながら窓の外をぼんやりと眺める。

 未だにあの事件の解決の目処は立っていない。

 その犯人というのが土御門でないことはわかっているにしても、それ以外の進展というものが全くない。

 魔術魔法という非科学的なものの前では、アリバイなんていう辻褄合わせは無力もいいところだ。つまり、あのとき誰もがあんな真似をできたわけで、それはあの場にいた校外学習の同じ班であろうとは例外ではないということ。もちろん、来栖も。

 指紋や落としていった髪の毛等の遺留物なんてものはないから、実質膠着状態に陥ってしまっている。

 一つだけ手があるとするならば、それは文化祭の日。

 土御門から聞いた話によると、どうやら俺の体験というのは魔術に近いらしい。

『そもそも魔術と魔法は明確に違うんだよ!魔術っていうのは簡単にいうと擬似的な魔法のことなの。つまり魔術は誰にでもできるんだけど、魔法っていうのはそれを扱える技量であったりとか、そもそも力がなきゃできないの。ほら、だからおまじないっていうのは誰でもやるでしょ?でも、賀茂くんが襲われたときっていうのは私の感覚的にはそれは魔術に分類されると思う。その黒いもや?っていうか砂?みたいなのは結局その場に残らなかったわけだからさ。ある種の幻覚に近いものだと思うんだよね。で、その魔術っていうのは色々準備が必要だったりするの。噛み砕いて言えば儀式だけど。儀式をしなきゃ魔術は発動されないし、逆に儀式さえ知ってれば誰にでも魔術が使えるってこと!あ、成功率は別としてね?』

 つまり、相手は魔術を使ってくる可能性が大いにある。そして、その魔術の使用には儀式なるものが必要である。その儀式こそが狙い目だという算段だ。文化祭準備のときに少しづつ絞り出して、当日になって動いたやつこそが犯人。

 作戦こそいくらでも立てられるとはいえ、実際に決行できるのは一度のみ。

 正直うまくいくとは思っていない。というか、我ながらあまりにも非合理的な推論である。

 ……らしくない。

 らしくないが、らしさを選ぶよりも不確定を確信に変えたい。

 と、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 次は確か世界史だったかな。

 世界史、というか大きく括って歴史というのはいい。祖先の軌跡を辿るなんてことをする生物は人間くらいしかいないだろう。

 遺伝子とは別に、石碑、粘土板、紙にこれまでを記すのは、人間の脳みそが大きく進化したその賜物だ。

 教室に戻り、教科書を持ってクラスを移動する。

 廊下を歩いていると横から

「賀茂くんは世界史だっけ?」

 と土御門の声。

「見ての通りだ」

 青い教科書を見せる。

「お前は?」

「私は日本史!」

「日本史か……」

 正直世界史と迷ったが、個人的に興味があるのが世界大戦なので世界史を選んだ。

「私も世界史にすればよかったなぁ……」

「日本史ができないのか?」

「それもあるけど!」

 なんだそれもって。

 と、そろそろ時間がなくなってきた。

「まあ、頑張れよ」

「そっちもね!」

 俺が教室に入ろうとすると、急に誰かが飛び出してきた。

「っと…」

 誰かと思い顔を確認しようとする。

 そいつは俺よりも背が高く、痩せ細っているように見えた。

「……ああ……すまない」

 ギリギリ聞こえないぐらいの声。

「夜叉先生でしたか」

「……怪我は……ないか?」

「ありません」

「今のは……俺の不注意だ……」

「いえ、こちらこそすみません」

 そこからしばらくの沈黙。すぐにどこか行くかと思ったが、俺のことをしげしげと見つめる。

「あの、俺の顔になんか付いてますか?」

「……いや」

 じゃあなんだというのか。

「……放課後に国語科に来い」

 そう耳元で言うと、スタスタと去ってしまった。しかもいつもとは違う、はっきりとした発音で。

 一体何なんだあの教員は?

 あの声を普段から使えばいいのにと思いつつ、一つ大きな疑問が残る。

 なぜ俺は国語科まで行かなければならないのか。

 あの謝罪では足りなかったのか、それともある種の罰として手伝わされるのか。

 いずれにせよ呼び出されるようなことをした覚えは一切なく、強いて言うなら先ほどの衝突のみ。

 しかし、寝ている生徒を気にもせずに授業を続けるような人が、あの衝突で呼び出しをかけるのだろうか。それともたかが衝突、されど衝突という感じで、本人は何か気に触ることがあったのだろうか。

 いくら考えたってわからないが、とりあえず放課後に行くしかない。

 全く、ただでさえ呪いに頭を悩ませているというのに、さらに謎の呼び出しとは。最初に祈ったはずの平穏な生活というのは、あの土御門の儀式の日から一目散に俺から遠ざかってしまった。

 もはやこれこそが呪いなのではないだろうか。

 俺が面倒に巻き込まれるような呪い。不幸体質、呪術遭難、疫病神憑で不運人間。呪いは、そんな存在へと変化させてしまう。

 これ以上の熟考を諦めて授業の準備を再開する。

 ああ、面倒だ。

ちなみに舞台となる場所は適当にググって良さげな場所を選びました

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