プロローグ⑪:判断力のテスト ― 第三部
ベトリックの言葉に、ロリアンは自分が失敗したかのように胸が締め付けられる感覚に襲われた。
「えっと……その……考えましょう……」
「考える?何を?」
「ベトリックさんがまだ……合格できる可能性を……」
彼の必死さは、まるで自分自身のため以上だった。
「ベトリックさんは敏捷力のテストで絶対に8点以上取ってます!9点か10点かも!
筋力のテストも僕と同じ方法でクリアしたから、最低4点はある。
それに……知力のテストはどうでした?ベトリックさんは頭がいいから――」
「ふむ……また統計モードか、ロリアン?まあ……」
腕を組み、冷静に分析するベトリック。
「歴史みたいな知らない分野もあったし、変な問題も多かった。でも……7点は下回らないと思う」
「じゃあ、3つの合計は最低19点!」
「ああ。でも耐久力のテストはすぐ脱落したし、判断力のテストも0点だ。最後のテストで10点取っても30点に届かない……もう終わりだよ」
「……そんなこと言わないでください!」
ベトリックはロリアンの熱意に目を丸くする。
「最後まで諦めないでください、ベトリックさん!これはあくまで推定です!敏捷力のテストは9点か10点だったはず。
耐久力のテストだって10分間耐えたんです!全体の1/6ですから、0点じゃなくて1~2点はあるはず!合計で21~24点です!」
ベトリックはロリアンの理論を科学仮説のように検討する。
ベトリック:「……なるほど。お前のロジックは悪くない。僕の自己採点だと――
【敏捷力】:10
【筋力】:5
【知力】:8
【耐久力】:0
【判断力】:0
……合計23点か。どっちの見積もりでも、面接で目立てばまだ合格できる可能性があるな」
ロリアンの表情が緩む。
「最終テストは面接だそうです。魅力のテストでは、調べたところによると、感情知能や社交性、説得力、外交性、意志の強さなどを評価するらしいです。
就職面接のようなものだと思います。ベトリックさんは大人ですから、きっと最後の試験がどんなものか、そしてどうすれば合格できるか、想像しやすいと思います」
「ああ、僕も同じこと考えてた。つまり……人生をかけた面接だと思って臨めばいいんだな?」
ベトリックは自信満々に胸を叩き、ロリアンの頭を軽く撫でる。
「任せとけ、ロリアン。判断力のテストでは過信で失敗したが、今度は同じ過ちは繰り返さない。一か八かだ」
「うん!」
***
その頃、判断力のテストではオマックが呼ばれ、入口1から森へ入っていく。
オマックはいつも通り、森の中を散歩でもするかのようにのんびりと進んでいた――
『ホム・クロスの森よりずっと楽だべ。獣の匂いもねえし……』
オマックは罠を踏み作動させるが、ロープが足を縛る前に、その太ももの力でブチ切ってしまう。
『おっと……半エルフさんの仕掛けた罠だったべか。なら、猟師から逃げる動物のつもりでいけばいいんだな』
おマックはのんびりと歩きながら、先に通った受験者の匂いを辿り、隠された罠を見破っていく――まるで森そのものと会話しているようだった。
***
一方、幻覚音エリアに到達したフェクサーに、声が襲いかかる。
《あの馬鹿デカブタは迷子になるのがオチだ》
《お前は逆方向だ、ゴリラ》
《こんなバカ、合格できるわけない》
フェクサーは震えるどころか、逆上して中指を突き立て始めた。
「クソったれが!!この偉大なるフェクサー様が、そんなもんで止まるかよ!!森の散歩程度で!くたばれ!!」
しばらく進むと、葉の壁が立ちはだかる。
「……風が流れてやがる……?それに、なんで木もねぇのに葉っぱだけの壁が立ってんだ?おかしいだろ……?」
迷わず突き進むと――出口だった。
「は?これで終わりか?これが大した試験だって?知力テストの方がよっぽど難しかったぜ!」
***
その頃、ルミはしつこい囁き声にひどく悩まされていた――
《幻覚があなたの印まで歪めている……もう道を見失ったわね……》
《五感を狂わせる幻覚の中で、目を信じるなんて……無謀だわ……》
ルミはイライラしながら耳を塞ぐ。
「くそっ……幻覚だとわかってても、うるさすぎて頭がおかしくなりそう!」
ルミは視覚的な幻覚の不自然な魔力の流れを見破り、慎重に進む。何度か同じ場所を回りつつ、印をつけて道を整理し、ついに最後に残った――開けていて、安全そうなルートにたどり着いた。
『……魔力の乱れも矛盾もない。だから幻覚ではないわ。もし罠があるなら、ここでは隠す場所がほとんどないはず……かなり巧妙に仕掛けられているのね』
「でも……『用心に越したことはない』わ」
ルミは足元から木の梢まで慎重に観察し、隠された罠の気配をいくつも見抜きながら避けて進む。そしてついに、森の出口へとたどり着いた。
「ふぅ……少し大変だったけど、魔術師じゃなかったら……それに道に印をつけてなかったら、きっと失敗してたわ」
***
そのころ、ロッドはちょっと迷っていた。
石を前に投げて罠を避けたり解除したりはできたけど、この迷路みたいな道に完全に混乱してしまった。
「くっそー。罠にも幻にも引っかからなくても、出られなきゃ意味ねーじゃん。てか、そもそも迷宮ってどうやって出るんだよ。迷ったら戻ればいいって言うけど、同じ場所通ったかなんてわかんねーし!」
ロッドは長い川にたどり着いた。ロリアンと違って、彼はダンロレン出身じゃないから、このあたりにそんな川があるなんて知らない。
でも、ロッドはいつも通り石を投げてチェックした。すると、石は川に落ちた瞬間、音も立てずに消えてしまった。
「はあ?なんだよこれ。石、水に跳ねさせたかったのに、スッて消えたぞ!?ってことは……この川、幻覚か!?」
ロッドは川の上を歩き始めた。
「うわ、なにこれ。川は見えるし、水の音もするのに、普通に地面みたいに歩ける。頭がフリーズしそう!」
すると突然、視界が切り替わって、一瞬で街の中に出た。
ロッドはポカンとしながら後ろを振り向く。そこにはさっきまでいた森があり、その奥に川のあった道が見える。
「うっそだろ!?あのニセ川、出口だったのかよ!?やっべー、俺今日めっちゃ運いいわ!マジ神引きレベル!!」
***
ギルドでは、ベトリックが面接室に呼ばれた。
「頑張ってください、ベトリックさん。頑張って!」
「任せとけって、ロリアン!」
ベトリックが部屋に入って少し経つと、フェクサーがギルドにやって来て、ロリアンを見つけた。
「おっ、チビじゃねーか!もう来てたのか?」
「フェクサーさん!どうでした?」
「余裕だぜ!朝飯前ってやつだ!目ぇつぶっててもクリアできたわ、ハハハ!」
「そ、そうですか……」
(ルミ)「単純な頭って、時には恵みなのね」
(ロリアン)「ルミさん!試験、どうでした?」
(ルミ)「なかなか手強かったわ。でも知識が助けになったの。あれがなかったら、きっとあの森で一晩中さまよってたと思う」
(フェクサー)「ほぉ〜、森の中で全裸で一晩か。悪くねぇな。今ルミ、お前も今度試してみるか?」
(ルミ)「遠慮するわ」
(ロッド)「はぁ!?なんだよこれ。俺来た瞬間に聞こえるのが『フェクサー全裸』の話かよ!?まだ森の幻の中にいるんじゃねぇの!?」
(ロリアン)「ロッドさん!試験、突破できたんですか?」
(ロッド)「ああ、なんとか罠をいっぱい解除してよ。でも正直、出口はマジで運だったわ。信じられるか?幻の川が出口だったんだぜ!」
(ロリアン)「えっ……!」
(ロッド)「ん? どうした、ロリアン?」
(ロリアン)「い、いえ……なんでもありません」
(ロリアン)『……あの幻の川が出口を隠してたのか。僕、あそこを避けて通った……。もし直感で渡ってたら、もっと早く合格できてたのかも……』
(ロッド)「で、蛾野郎はまだか?それともトイレ行ってんのか?」
ロリアンは少し言葉に詰まった。
(ロリアン)「ベトリックさんは……その……三分で脱落して、僕より先に戻ってきました。いま面接試験を受けているところです」
「な、なにぃぃぃぃ!?」
(ロッド)「アイツ、何やらかしたんだ!?ローグ見習いのくせに、罠のあるステージなら俺ら『新人六人衆』の中で一番得意なはずだろ!」
(ロリアン)「ベトリックさんいわく、カエリオンさんの罠を甘く見ていたそうです。地面の罠を避けようとして、逆に別の罠にかかったとか」
(ルミ)「なるほどね。私も知力テストで似たようなことをしたわ。得意分野だからって油断して、緊張と焦りで空回りしたの」
(フェクサー)「蛾が失敗した分、きっと次はもっと強くなるさ。心配すんな」
(ルミ)「じゃああなたが強いのは、いつも失敗ばっかしてるからってこと?」
(フェクサー)「……肯定も否定もできねえな」
***
そのころ、オマックは幻聴のエリアを歩いていた。
《ハハハッ!森でも人生でも迷ってる半オークだな!》
《田舎に帰れよ、百姓!農民が冒険者になれるわけねーだろ!》
《オークなんか人間に尊敬される日ねーよ!さっさとあきらめな!》
オマックは目を閉じて、深く息を吸い込んだ。
『じいちゃんが言ってたべ……不安ってのは、お前を止めようとする悪霊みてぇなもんだって。そこで立ち止まったら、もう前に進めねぇんだ』
すると、街へ続いてそうな道が見えてきた。花が咲いてて、光も差し込んでて……まるで天国みたいな道。いかにも怪しい。けど――
『これは判断と勘のテストだべ。……でも、おいらの勘が【行け】って言ってんだべ。普通なら頭のいい奴らは【罠だ】って言うだろうけど、おいらにはそうは思えねぇんだ』
オマックはその道に足を踏み入れた。
次の瞬間、入口がバタンと閉まり、木々がうねるように道の中へ伸びてきた。両側の枝からトゲが生え、バシバシと飛んでくる!
「へへ……『貰いもんに文句言うんじゃねえ』ってな。緑のお姉さんも、楽な道なんかくれねえべ」
オマックは全力で走り出した。
ほとんどのトゲは分厚い皮と筋肉に弾かれたが、いくつかは腕や服に刺さった。それでも、痛みなんか気にせず突っ走る。
出口が閉じかけたその瞬間――
オマックは思いきり跳び、ギリギリで外に飛び出した!
突然、森から半オークが飛び出してきたもんだから、街の人々はびっくりして悲鳴を上げた。
「ふぅ〜……あれは『足の速ぇやつ専用』の出口だべ。ちょっとでも遅れてたら、終わってたっぺな」
―――――
数分後、オマックはギルドの本部に戻ってきた。仲間たちはすぐに彼の姿を見つける。
(ロッド)「おお、最後の新人がやっと帰ってきたぞ!……って、なんか刺さってねぇか?ハハハ!」
(フェクサー)「でっけぇ奴、根性あるじゃねぇか!オレみたいに楽勝で通ったの見て、試験官が難しくしたんだろ!ハッハッハ!」
(ロリアン)「オマックさん、大丈夫ですか?体に何本かトゲが刺さっていますよ」
オマックはようやく気づいた。
(オマック)「あぁ、ほんとだべ!でも痛くねぇよ、皮に刺さらなかったすんだ」
(フェクサー)「そりゃそうだ!その見事な筋肉は力の源だけじゃなく、天然の鎧でもあるんだ!まさに筋肉の守護神――いや、『オーク筋肉神』だな、ハハハ!」
しばらくして、ベットリックが面接室から出てきた。自信満々の笑みを浮かべている。
(ロッド)「おい蛾、三分で落ちたって話はどういうことだよ?」
(ロリアン)「ベットリックさん、どうでした?ずいぶん自信があるようですね」
(ルミ)「最後のテストってどんなの?難しいの?」
ベットリックは余裕たっぷりに椅子へ腰かけ、笑みを崩さずに話し始めた。
(ベットリック)「ただの『面接』さ。だけど、オースメルさんは完璧主義で厳しい上司のフリをして、こっちを『無能な部下』扱いするんだ。心が弱い奴にはキツいだろうな。ま、俺は完璧にこなしたけどな」
一同は沈黙した。どう反応すればいいのか分からない。
(ロッド)「……え、マジでそれだけ?俺んちの親父がギルドの面接でやってるのと同じじゃね?」
(ルミ)「なんか仕掛けとかないの?ベットリックさん、彼が私たちに何を求めてるか気づいた?」
(ベットリック)「簡単さ。『諦めるかどうか』を見てるだけだよ。耐久力のテストみたいなもんだが、こっちは体じゃなくて心を攻めてくるタイプの試練だ」
「次は29番!」
その番号はロリアンのものだった。
(ロリアン)「は、はいっ……!今行きます!」
(ベットリック)「ロリアン、一つだけアドバイスしてやるよ。『これが人生で最後のチャンス』だと思って戦え。僕はそうした」
ロリアンは小さく微笑み、振り返って面接室へと足を踏み入れた。それが、冒険者試験の最後の試練だった。




