プロローグ⑩:判断力のテスト ― 第二部
ロリアンは川を前に立ち止まる。
『ダンロレン周辺にこんな川はないはずだ……迷路でかなり遠くまで来たのか?』
川幅は約5~6m。彼は首を傾げる。
『いや、ありえない。町の近くを流れる川はもっと大きい。これは幻覚だ。だが……渡るべきか、引き返すべきか?』
一方、ギルドの屋外ではリネラがフェクサーとルミを呼ぶ。
(ロッド)「二人とも頑張れ。特にルミのためにな」
(ベトリック)「森で迷子になるなよ」
(フェクサー)「運なんて要らねえ! オレの獣的な勘だけあれば十分だ! ハハハ!」
(ルミ)「実際これが『直感テスト』なんだから、案外あなたの方が有利かも」
二人は別々の入口から森へ――ルミは入口5、フェクサーは入口2だ。
フェクサーはすぐに風の流れを嗅ぎ分け始めた。丸太を見つけると、躊躇なく蹴り飛ばし、仕掛けられた網の罠を暴く。
「ハ! こんなわかりやすい罠にかかるか! オレはフェクサーだぞ!!」
風通しの悪い道を避け、太陽をコンパス代わりに進む。
「よし、近道できないか確かめてやるぜ……」
フェクサーは数本の木を掴み、素手で枝や幹をへし折って進もうとする。しかし、折ったそばから魔法で再生してしまい、先に進めない。
「ちっ、オレですら通れねえなら、誰にも無理だな」
***
一方ルミは、森に入るなり不自然な光の角度や風と逆に揺れる葉に気づく。
「これは……幻術魔法だわ!」
魔力の流れを感知し、安全な道を選ぶ。ルミは緊張していた。
『知力テストで、得意分野だったのに失敗して……。今度の実技テストで結果を出さなきゃ、落ちるかもしれない……。それに、実技はあまり得意じゃないのに……』
5mごとに暗号化した印をつけ、同じ場所を循環しないようにする。
『数字を昇順に書けば、同じ数字を見たら戻ってきたとわかる』
行き止まりにぶつかり、引き返すルミ。
『このルートには追加で【✕】マークを……』
***
一方、リネラはベトリックとロッドを呼ぶ。
(ロッド)「俺たちには幸運の言葉もないのか、でけえの?」
オマックは黙ってサムズアップ。
(ベトリック)「これが彼流の応援だ」
ロッドは入口1から、ベトリックは入口4から進入。
ロッドは何も考えず、まっすぐ進み始める。
『俺は頭が良くねえ……ただの商人の息子で、特別な能力もねえ。だからロリアンが言った通り、それを逆手に取るぜ。俺の平凡さが武器だ』
ロッドは遠くを飛ぶ鳥たちを追い始めた。道が整備され、足跡もなく、落ち葉も動物の気配もない場所は、迷わず無視する。
『ふん……俺もバカじゃ……まあ、そこまでバカじゃねえよ。『ハッパ姉さん』が俺より前に30人以上も呼んだんだ。誰も通ってねえ道なんか選ぶかよ?ありえねえだろ』
ロッドは石を拾い、力いっぱい前方の地面に投げつけた。これで泥の罠を1つ発見し、丸太の落とし穴を2つ、捕獲用ネットを3つ無力化する。
『子供の頃の【肝試し】みたいに考えりゃいいんだ。友達の悪ふざけから逃げるつもりでな』
***
一方、ベトリックは自分のルートに自信満々だった。
『ふふん……僕は元ローグの師匠に鍛えられた。罠の仕掛け方なんてお手のものだ。パターンも全部わかってる。楽勝だろうよ』
ベトリックはジャンプして木の枝に掴まり、地面ではなく樹上から移動し始める。下の罠を観察しながら進むが――
あまりの集中のせいで、頭上にある罠に気づかなかった。
ガシャン!
仕掛けが作動し、光の矢がベトリックに直撃する。
「まっさ――!?」
咄嗟に身を守ろうとしたが、次の瞬間、彼はギルドの屋内にテレポートされていた。
「は……?なにが……?」
職員が近づき、番号の書かれた札を手渡す。
「おそらく、致命傷をシミュレートする罠に引っかかったのでしょう。この種の罠は、実際の冒険で『即死』した状況を再現するため、対象をギルドへ即座にテレポートさせる仕組みです」
「な……なんだってぇええ!?僕が脱落!?たった3分で!?しかも僕が……ローグ志望なのに!?」
ギルド内にいたカエリオンが、ベトリックの言葉を耳にして、涼しい顔で応じた。
「己の能力を過信しすぎたのでは?ここにはお前のようにローグを目指す者が大勢いる。そして、この罠を仕掛けたのはこの私だ。当然、ローグ志望者への対策も施してある」
「そんな……まさか……」
「その番号は、最終のテスト(面接)の呼び出し順です。お待ちください」
***
一方、ロリアンは焦り始めていた。時間が過ぎても出口が見つからない。ふと、光が道を照らしているのに気づく。
『出口……?いや、待て。こんなにわかりやすいはずがない……』
ロリアンは光を無視し、進み続ける。頭の中に描いた地図がごちゃごちゃになり、分岐の多さに方向感覚を失っていた。
『僕の時間……もう終わっちゃったのかな……?』
ふと、大量の落ち葉で覆われた道を見つける。
『……この落ち葉の量なら、あらゆる罠を隠せる。ということは……わざわざ罠を仕掛ける価値がある、つまり……正しい道なのか?』
その瞬間、ロリアンに閃きが走った――
『待てよ……今まで通った道のうち、罠がなかったルートもあった。あれはただの幻覚か、行き止まりへの誘導だった。
だとすると……正しい道だけに罠が仕掛けてあるのか?これが審査官の意図する【判断力のテスト】なのかもしれない!』
ロリアンは慎重にその道を進む。枝で地面を叩きながら、一つひとつ罠を確認していく。
→ネット:仕掛けられた捕獲用の網。
→落とし穴:葉で巧妙に隠された穴。
→木の上に仕掛けられたワイヤー:何かを引き起こすトリガー。
→蜂の巣:触れれば即アウト。
『……間違いない。今までで最も罠の密度が高い。この道は正しい……!』
しかし、その先に待っていたのは――行き止まりだった。
「まさか……!こんなに罠だらけの道が……偽物だなんて!意味がわからない……!」
ロリアンは冷静さを保とうとする。
『えっと……この道を罠を踏まずに進むのに、かなり時間を使っちゃった。どれくらい経ったか分からないけど……戻る時間はもうない。戻るにしても、また罠を避けながらゆっくり進まなきゃいけないし……』
ロリアンは枝で行き止まりの木々や幹を調べ始める。
「……これは幻覚じゃない。実体がある。だとすれば……」
ふと、一つの幹に異様な膨らみがあることに気づく。
――それは、まるでドアの取っ手のような形をしていた。
「まさか……これは……」
ロリアンはその膨らみに手を伸ばし、ゆっくりと回してみる。
ガラガラ……!
突然、周囲の枝が動き始め、目の前に通路が出現した。その先には――ダンロレンの街の中心部が広がっている。ギルドまであと10mほどだ。
「やった……!僕、できた!」
ロリアンの歓声を聞いた町の人々が振り返る。気づいたロリアンは顔を真っ赤にし、うつむいたままギルドへと走り出す。
『やはり……僕の推理は正しかった。わざわざ罠だらけの道を作るなら、そこが本物のルートに違いない。行き止まりは……観察力と直感を試す仕掛けだったんだ』
ロリアンが正面入口からギルドに入ると、職員が声をかけてきた。
「すみませんが少年、只今冒険者試験を実施中でして……」
「あ、その……僕も……受験者です……」
「そうですか?お名前を?」
「ロリアン・フェアチャイルドです」
職員は手元の名簿を確認し、番号札を渡す。
「失礼しました。これは最終のテスト(面接)の順番札です。説明しますと――」
「最終テストは、吟遊詩人であり外交官でもあるオースメル・ヴェントリネイ様が担当します。各受験者と短い個人面接を行い、『魅力』を評価されます。
判断力のテストを突破した方、または途中脱落された方は到着順に番号札を受け取り、呼び出しをお待ちください」
「どうぞ中へ。ギルドのホールでお待ちください」
ロリアンが中に入ると、ホールには数多くの受験者が座っていた。その中で、一際目立つ青色の服が視界に入る。視力が悪いため顔は見えないが、試験中に青い服を着ていたのはあの人物だけだ。
すると――
「おーい、ロリアン!こっちだよ!」
声ですぐに彼だとわかった。ロリアンは近づきながら首を傾げる。自分が森に入った時、ベトリックはまだ呼ばれていなかったはずなのに……。
「ベトリックさん、もう試験を終えられたんですか?それとも、ここで休憩中で?」
「えーっと……まあ……記録更新しちゃったって言えばわかるかな……」
ロリアンの目が輝く。敏捷力のテストでベトリックが披露した驚異的な動きを思い出し、迷路も最短時間で突破したに違いないと想像した。
「すごいです!最短記録でクリアされたんですか!?それなら合格はほぼ確実ですね!二つのテストで高得点を取れば、必要な点数のかなりの部分を確保できます!す、すごい……!どうやってやったんですか!?」
ベトリックが顔を背け、もじもじと答える。
「それがさ……罠に引っかかって……3分で脱落したんだ……」
「……は?」




