飼育員さんの初めてのお客さん(19)
「凄い煙…………ルージュ手を掴んだら離さないで下さいよ。」
「…………うん。」
通路は思った以上に煙に包まれていました。
視界はとても悪く1メートル先も見えているのか分かりません。
しかしこれはティーア達に取っては好都合です。
出口側へ向かい進むティーア達は煙で見えづらく、足音はたくさんの足音の中でかき消されています。
ティーアはルージュを見失わないようにルージュの手をつかみ進みました。
ルージュ本人も手を離した瞬間にティーアを見失うのが分かったようでがっちりとティーアの手を掴みます。
お互いの居場所が確認できているので極力声は出しませんしこの煙の中では不用意に煙を吸い込んでしまうので口はなるべく塞いでいました。
やがてティーア達はまた扉に到達しました。
そこがこの通路の行き止まりでした。
「入りますよ。ここが出口かもしれません。」
「うん。」
もはや二人に止まる事は出来ません。
ティーアは静かに扉を開けました。
大丈夫。後ろにも気付かれなかったようです。
「ここは…………倉庫?」
そこには大きい物は竜車や荷車といった荷物や人を運搬するための道具からバケツ等といった日常のドラゴンの世話で使うものまで様々な物が置いてあるだだっ広い場所でした。
「出口…………ではないみたいね。」
「ええ、しかも煙もここまで広いと広がりきらないので無意味ですね。……でも、外は近そうですよ。あそこです。」
ティーアの指差す正面には竜車などを外に出すための大きな門がありました。
そこからならきっと外に出られるはずです。
「とうとう見つけた!早く行こう。見つかる前に。」
「ええ。」
倉庫の中は広いわりには明かりなどが一切なく暗いので見つかりにくそうでしたがもう猶予はあまりありません。
火が消えればこちらにも敵が戻ってくるでしょう。
その前にでないといけないのです。
ティーアたちは物陰から物陰へと移動しながら門を目指しました。
「しかし……ここまで誰もいませんでしたね。」
「それだけ作戦がはまったんでしょ? 最初はどうなるかと思ったけどやるじゃない。誉めてあげる。」
ルージュはそのように言っていましたが本当にそだったのでしょうか……それならいいのですが。
「まあ、それよりあと少し。ここからは一気に行きましょう。」
最後の竜車の物陰に隠れながらルージュが言います。
後は門まで一気に行ければ恐らくは外です。
「ええ。じゃあ、行くよ!」
「はい!」
ルージュの掛け声と共に一気に門まで二人で走りました。
あと20歩、後10歩。
よしここまで来た。そう思った時でした。
「誰だ!?そこにいるのは?」
「!?見つかった!?最後の最後に!」
ティーアでもルージュでもない声が倉庫に響き渡りました。
後ろを見ても誰もいません。
どこから?
「でも…………門まで行けば出られます。振り向かないで走ってください!」
「うん!」
ルージュにそう叫びティーアもなりふり構わず走りました。
もう出口は目の前です。
しかしやはりそこまで甘くはなかったようです。
敵は後ろから来たわけでも隠れていたわけでもなかったのです。
それは上から降りてきました。
ドラゴンに乗って。
「ん?お嬢ちゃん二人か。とりあえず止まってもらおうか。」
「…………飛竜。」
「嘘。」
出口とティーア達の間に飛竜が割って入りました。
背中には人が一人乗っています。
雰囲気からすると敵で間違いない無さそうです。
「んー?お前らここの人間じゃないな?どっから来た?」
「街の外れです。今日はここでドラゴンを見せてもらっていただけの部外者です。この子は…………同僚です。」
「…………」
とっさにルージュを同僚と言いました。
別の国の人間だとバレるのは不味い気がいたからです。
ルージュはティーアの意図を汲んだのか無言でした。
「そうか………でも、外に出すわけにはいかないな。人質は多い方がいい。しかも部外者なんて人質としては好都合だ。」
飛竜に乗る男はとおしてくれる様子はありませんでした。
それはそうでしょう。
でも何とか…………
「…………じゃあ、せめてティーアだけにしてくれませんか?ティーアはあの金等級のドラゴンの飼育員のアスカの弟子です。人質としてはいいはずです。でも、この子は何も関係ないです。人質にしても仕方がないです。」
「ほお……お前があの……」
食い付きました。
アスカさんの名前を使ったのは申し訳ないですが今回は許して下さいアスカさん!
「…………あ、あんた、何を言ってるの?」
「……ルージュ。ルージュは他国の人間です。ここで見つかる訳にはいきません。その点ティーアは大丈夫です。だから……」
「大丈夫なわけないでしょう!ここまで来て!」
「ルージュ!我慢してください!あなたは守らないといけないんですから。」
そう。
ルージュはアスカさんのお客さんです。
アスカさんのお客さんはティーアのお客さんですからきちんと責任は果たします。
「まあ、とりあえずそこのお前を連れていくか。生憎こいつはもう一人しか乗れないし。一人連れていっただけでも俺の取り分は増えそうだしな。大人しく来い!」
「分かりました。ルージュ。早く行くんです。」
「……嫌。」
ルージュがそう言うと思ったのでティーアはそちらを見ずに大人しく飛竜の前に行きました。
彼女の顔を見ることは出来ませんでしたがこれで助かるなら。
「…………嫌。」
恐らくワイバーンなんでしょうが、それにしては少し大きいです。
亜種か何かかもしれません。
「…………行っちゃやだ。」
「…………約束してください。この子は逃がすと。」
「まあ、他の奴に見つからなければな。あと、その荷物は邪魔だ置いていけ。」
まさかこんな機会でワイバーンに乗る事になるとは昔から乗るのには憧れていたのですが…………残念です。
ティーアはその場に鞄も置きました。
これでドラゴンの卵はちゃんとルージュに渡ります。
「……行っちゃやだ。」
ティーアは飛竜の足元に縄でくくりつけられました。
飛竜足はとても太くまるで丸太にでも縛り付けられたようでした。
そしてそこにルージュを残し飛び立とうとした正にその時です。
「ティーア!行っちゃダメー!!」
「何!?」
「眩しい!!」
ルージュが叫んだ瞬間にティーアのさっき置いた鞄が強い光を放ちました。
辺りが一瞬にして明るくなり視界が無くなりました。




