飼育員さんの初めてのお客さん(18)
「はー。それにしてもこれからどうしましょう?」
外の状況は分からないし、出口の正確な場所も分からない。
出口の方を行くと言って別れたロックは未だに帰ってこず。
とりあえず今のところはここにいれば大丈夫ですがいつまでもここにいるわけにはいきません。
がしかし、焦っても仕方がないので今は少しここは落ち着かせてもらうことにしましょう。
椅子代わりの箱にルージュと二人で座りながらティーアはぐーっと一つその場で背伸びをしました。
「……この状況でよくそんな呑気な事を…………」
ルージュがそう言いながら横目でこちらを見ています。
小さい箱に二人で座ったのでどうしてもお互いに体が密着してしまうんですが一言も文句も言わずにちょこんと座っていました。
「まあ、今のところは安全ですし、ここから出る方法もありません。焦っても仕方がないですよ。」
「でも、方法は考えないとあいつだって全然ここに来ないしここだっていつまでも安全とは言えないのよ。」
「そう言われてもここから外に出るには…………ティーア達の入ってきたそこか……後はあそこしかないですよ。」
そう言ってティーアは上を指差します。
そこには明かりを取り入れるためか等間隔で窓というか隙間が幾つか並んでいました。
あまり大きくはありませんがティーア達なら抜けるには十分といっていいでしょう。
「…………じゃあ、あそこから出る方法を考えなさいよ。」
「……ルージュも考えて下さいよ。まずはあんな高い所に上る方法を。」
しかし、そこには問題が幾つかありました。
まずその窓のとにかく高い所にあるのです。
さっき隠れた干し草の頂上よりも高い所にあり、どう考えても届きません。
更にその窓には格子が付いていてそれを外さないと通り抜けられません。
「無理よ。あんな高い所になんて……………届かないし。」
「……そうですよね。やはりあそこからは無理ですよねえ。」
二人でその窓を見上げながら考えてみましたがここにある物をどう駆使しても届きそうにありませんでした。
外はもう日も暮れかけてきたのか外から入る光はオレンジ色になっていてそれが夕日であることを示していました。
「何であんなに高い所に作ったのよ!バカじゃないの!」
ルージュはもはやこの部屋を作った人にさえ文句を言っていました。
ここを作った人もまさかこんな事態になってこんな事を言われることになるとは夢にも思わなかったでしょう。
「あーあ。もし、私に飛べるドラゴンが使い魔としていたらあんなとこ楽勝に突破出来るんだけど。」
「そうですね。こんな時にドラゴンがいてくれ……ると……?」
「ん?どうしたのよ?」
ドラゴン…………ドラゴン。
その手もありましたか。
まだアスカさんには早いと言われましたが、今はそんな事を言っている暇はありません。
ティーアはカバンの中から例の卵を取り出しました。
「ルージュこれを見てください。」
「…………それって、卵……もしかしてドラゴンの?」
ルージュがティーアの持っている卵を見て確認するように聞いてきました。
ティーアも色んな事態に巻き込まれてすっかり忘れていましたが卵自体は傷一つなく綺麗なままでした。
しかし。アスカさんが見たという光を発していた形跡もありませんでした。
「そうです。アスカさんから預かってました。アスカさんが言うにはもしかしたらこの卵はルージュにの力になってくれるかもって。」
「この…………卵が?」
「ええ。この卵はルージュがアスカさんと二人であの部屋で着替えをした後に光を発したそうです。それはアスカさんでも見たことがなくてもしかしたらルージュに関係があるんじゃないかって。すみません。アスカさんにはルージュが変に意識すると悪い影響があるかもと見せるのを止められていたんですが…………」
「そう…………なんだ。」
あれ?もしかしたら隠されていたことにもう少し怒るかと思ったのですがルージュの反応はティーアの想像とは違いました。
ルージュはティーアからその卵を受けとると両手で優しく包み込みました。
その瞬間、ルージュの纏う雰囲気が変わった気がしました。
「…………ねえ。この子話をしてみてもいい?」
「……卵相手にそんな事が出来るんですか?」
「…………ええ。たぶんだけとこの子とは出来る気がするの。」
ティーアもドラゴン相手の意志疎通は言葉が分からなくてもなんとか出来るくらいにはなりましたがルージュは卵と話をすると言っています。
これもルージュのビーストテイマーとしての独特の感覚なのでしょうか?
しかし、ここは彼女を信じるより他ありません。
「ええ、お願いします。」
「うん。」
ルージュはそのまま目を閉じると卵をおでこにコツンと当てました。
「…………汝、我の使い魔としての力を果たすに足るものかや。…………さればその力の証を示せ…………」
「………………まさか本当に……光ってます。」
ルージュが呪文のような言葉を紡ぐとぼうっと卵が鈍く光だしました。
その鈍い光は卵の中から光っているようにも見えます。
「…………汝、我に使えし意思あらばその姿を現せ………………もしくは我への誓いを…………」
「………………」
ティーアは目の前で行われているこの光景に思わず言葉を無くします。
その光景はあまりにも美しくあまりにも儚いようなそんなように見えたのです。
しかし、それも長くは続かずルージュはその後は何も言葉にすることもなく、卵も次第に光を失いただの卵に戻ってしまいました。
「………………ん。」
「…………どうです?何か……聞こえました?」
「この子はから感じるのは今までとは違う。とても暖かい。恐らくアスカの推測通り。でも、何かが足りないって言ってる。…………でも、それは教えてくれない。…………だから孵化はしない。それが分かるまでは。」
「…………そうですか。」
目を開けたルージュは困惑したような顔で言いました。
たぶんこの子がルージュの使い魔となるドラゴンなのは確かなのでしょう。
しかし、もう一つ必要な事があるようです。
ルージュにはそれが何なのか分からないようでした。
「で、でも、この子がルージュの使い魔なのでしょう?遂に見つかったんですよ。良かったじゃないですか!」
「…………ううん。私はもう使い魔さえ見つければビーストテイマーに慣れると思ってたでも、違うみたいね。まだまだね。」
ルージュは明らかに落ち込んでいました。
恐らく自信があったのでしょう。
しかしそれは足りないという一言で否定されてしまいました。
でも、それだけで自信を失って欲しくはありません。
「でも、一つだけじゃないですか。それさえ分かればこの子はルージュの力になってくれるんですよ。探せばいいじゃないですか、足りないもの。それにこの子は暖かい感じがするんでしょう。きっとルージュのために優しさで言ってるんですよ。」
「………………」
「一つだけなんて凄いですよルージュ。ティーアなんか足りないことだらけです。まだまだ一人前になんてなれません。あなたはティーアより2つも年下なんです。職種は違ってもティーアはここまできたルージュを尊敬します。だから頑張りましょう!頑張って探しましょう。足りないもの。」
ティーアは何でこんなにルージュを励ましたのでしょう。
依頼人だから?年下だから?
たぶんそれは自分にダブって見えたからかもしれません。
ティーアもアスカさんを目標としつつも規格外過ぎるアスカさんを目の前にすると、一人前になるには足りないことだらけで不安です。
だから、あと少しのところまで来たルージュにはもう一頑張りして欲しかったのです。
手の届く所まで来た目標を掴むために。
「…………バカみたい。」
「ん?何か言いましたか?」
「ふ、ふん。何であんた何かに元気付けられなきゃいけないのよ!この子は私のドラゴンよ。最高にして最強のドラゴンのはずよ。そうそう簡単に事が進んだら面白くないわ。だから一つくらい障害があった方がいいのよ。」
……どうやら復活したようです。
その場に立ち上がり薄い胸を反らしていつものドヤ顔で啖呵を切ります。
「で、でもこの子はとりあえずあんたが持ってなさい。」
「何故です?これはルージュが持ってた方が…………」
「い、いいの!一応あんたは見習いだけどドラゴンの飼育員なんだからちゃんと管理しなさい。そして私が完璧になる瞬間を見せてあげるわ。」
「…………要は私の事を見てて。そして一緒に誕生の喜びを味わいましょうと?」
「バ、バ、バ、バ、バカじゃないの!わ、わ、わ、私何でこんなロリと!とにかくあんたが持ってるの!」
慌てふためくルージュの顔は真っ赤っかでした。
全然素直じゃないですね。
まあ、そこがルージュの良いところなんですけどね。
「分かりました。ティーアが持ってますよ。こうなったら何としてでもここを出る方法を探さないとですね。」
「当たり前よ!こんなとこ1秒でも早く出たいわ。」
「同感です。じゃあ、作戦を練りますか。」
辺りは暗くなってきました。
これを利用するしかないですよね。
ティーア達は外に出るんですから。
勿論二人で。




