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飼育員さんの初めてのお客さん(15)

「ん?おかしい…………」


ロックが扉を少しだけ開けたところでそう呟き開ける手を止めました。


「おかしいって…………何が?」

「いや、この先はドラゴンがたくさんいる場所だ。こんなに静かにしている訳がない。夜中だって無音になることはないくらいだから。」


確かにロックの言うとおりでした。

少しだけ開けられた扉の向こう側からはほとんど物音がしません。

先ほど通った時にはドラゴンの鳴き声がしない瞬間なんてありませんでした。

しかし、今はどうでしょう人の声と多少の雑音は聞こえるもののそこにドラゴンが一匹でもいるような音は一切しませんでした。


「みんな外に出ていったということはない?」

「いや、それはない。どんなに大事でもこの近辺で起きてるんだ全部のドラゴンを出すなんてスペースすらないよ。」

「そっか…………じゃあ何で?」

「…………それを見てみるしかないか。ティーア達はここにいて。」

「ちょ、ちょっと。」


そう言うとロックは自分が通れるかどうかのギリギリだけ扉を開けて身を隙間に音を立てないように入れて出ていきました。

しょうがありません。

ティーアはロックが出ていくとすぐに扉を閉めてルージュとその場に小さくなって待つことにしました。

その間少しルージュに話しかけることにしました。

ルージュは一緒には着いてきてはいますが表情は暗く極端に口数も減ってしまっていました。

まあ、無理もない話です。

ティーアだって今のこの状況で冷静でいられる意味がよく分かりませんから。


「ルージュ、怖くないですか?もう少しの辛抱です。きっと無事に逃げられますよ。」

「わ、私は全然平気よ。あんたこそこんなことになって……その…………私を恨んでないの?」

「恨む?何故です?」

「だ、だってさっきあいつが今日は帰るか?って聞いたときに私が無理に連れ回さなければこんなことにならなかったし…………そもそも私があんたの所に来なければ今日ここに来ることもなかったんだから…………あんたが私を恨んでも……その…………文句は言えない。」


ルージュはどうやらその事をを気にかけていたようでした。

下を向きひどく落ち込んでいました。

喋る言葉もいつもの彼女とは思えないほど弱々しく最後の方の言葉はほとんど声になっていませんでした。


「はあ…………そんな事を気にしてたんですか?年下のくせに。」

「そんな事ってだって…………私は……」


ティーアに言い返すその声は震えていました。

やはり彼女なりの責任を感じているのでしょう。

全く…………世話が焼けますね。


「ルージュ。大丈夫です。私はルージュを恨んでなんかいません。あなたは一生懸命に自分のすべき事をしようとしていただけですから。今回このような事態になったのは…………そりゃ驚いてますがティーアはこれから金等級のドラゴンの飼育員になるんです。これくらいの事態はこの先何度もあるかもしれません。それにその時はティーアは一人かもしれませんが今はルージュ。あなたがいます。ついでにロックも。こんなに頼もしいことはありませんよ。」

「…………でも。もしここで…………」

「……その先はストップです。今はどうしたらここから出られるかを考えるんです。マイナス思考は考えを鈍らせますよ。ティーアはルージュがどうやったら安全に出られるかを考えます。ルージュはティーアがどうやったら安全に出られるかを考えてください。そしたらお互いに助かる確率がより上がりますから。」


ティーアは今自分が思い付いた限りの言葉をルージュに投げ掛けました。

ルージュに伝わる言葉になっていたでしょうか?

もし、アスカさんならこの状況ならもっといい言葉が出るかもしれません。

というよりはこんな事に巻き込まれずに外に逃げているかもしれません。

しかし今はティーアしか居ません。

ティーアがきっと守って見せます。


「今はロックを待ちましょう。ロックはすばしっこいですから。きっといい情報を持って来ますよ。」

「…………分かったわ。あなたが私の事を助けるなら絶対に私から離れちゃダメよ。もしいなくなったら絶対に許さないからね。」

「はいはい。分かりましたよ。ルージュも離れないで下さいね。もしいなくなったら今夜はアスカさんと二人で寝てもらいますからね。」

「そ、其れだけは絶対に嫌。」

「ふふっ。元気出たようですね。」

「…………ふ、ふん。私は元から元気よ。」


どうやら悪態も戻ってきたようでとりあえず一安心といったところでしょうか。

ティーアの言葉が伝わったかどうかはこの際どうでもいいことです。

気持ちが前向きになっただけで大分違うはずですから。

ちょうどその時でした。

扉がコンコンと小さくノックされました。


「俺だ。ロックだよ。入るぞ。」

「ふう。ロックなの?とりあえず無事ね。」


一瞬ビクッと体に緊張が走りましたがロックの声を聞いて一気に力が抜けました。

ロックは見つかることなくも戻ってきたようでした。


「で?外はどうだったの?」

「ああ。ドラゴンはとりあえず全部眠らされていたよ。だから静かだったんだ。」

「寝ていた?まだ昼なのに?」

「ああ。たぶんさっきティーアが言ってたゴスの実かも。部屋中甘ったるい香りがしてた。たぶん敵の仕業だ。」


なるほど。

ゴスの実でドラゴンを全部眠らせてから襲撃したんですね。

それならドラグニア軍の戦力もだいぶ落ちます。

なにせドラゴン一匹で人間何人分もの力がありますから。

それにドラグニア軍はドラゴン頼りな所も多いと聞いたことがあります。

そこを狙われたということでしょう。


「で?敵はいた?」

「ああ、見える限りでは5、6人位いた。後は逃げ遅れた人かもしれない何人か捕まって縛られてる人もいた。だけど運がいいのか俺たちが行こうとしてる通路に人はいなかった。」


やはりあの奇襲です。

逃げ遅れた人もいたようです。

でも、ティーア達に今のところ残念ながらその人達を助ける術はありません。

ここは辛い選択ではありますがロックの言う通路にバレないように行くしかないようです。


「そう…………じゃあ早いうちに行った方がいいわね。何時その通路にも来るか分からないし。」

「ああ、そうだな。皆には悪いが行かせてもらおう。」

「ええ。上手く外に出れたら外の人に中の事を話しましょう。いいですね?ルージュ。」

「ええ。分かったわ。必ず。」

「よし。じゃあ、行くか。静かに低くして着いてこい。」


ロックは再び扉に手をかけるとゆっくりと開けて体を外に出しました。

ティーアとルージュはロックより一回りは小柄なのでロックがギリギリで出た扉の幅をすると抜けて外に出られました。

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