飼育員さんの初めてのお客さん(12)
「ここは…………もしかして孵化器のある部屋?」
「そう。まあ、ここは卵の部屋ってところだ。」
「孵化器って何よ?卵?もしかしてドラゴンの?どれどれ?」
ロックに案内され入った部屋にはだいたい20個といったところでしょうか。
棚に綺麗にドラゴンの卵の孵化器が並べられていました。
アスカさんのところには孵化器が無かったので話には聞いていましたが実物を見るのは今回が初めてです。
ルージュに至っては孵化器すら知らないようで興味津々です。
しかしこんなに沢山あるとなるとかなり効率的な孵化を行うことが出来そうですが、ちょっと様子が違いました。
「あれ?卵が入ってない?一つも…………」
「ああ、悪いがそうなんだよ。」
「えー、使えないわね。何とかしなさいよ。」
ルージュが文句を言っていましたが、ドラゴンの卵はそれ自体が珍しい物ですなくてもおかしくはありません。
と、思いましたがロックの言い分は違いました。
「いや、ちょっと前までは切らすことなく孵化させてたんだよ。全部フル稼働だったんだ。」
「え?これ全部を!?一体どこから卵を……」
ロックはさも当然のように言いますが信じられません。
あの、アスカさんでさえ個人ではほとんどお目にかかる事が出来ないって言ってましたから。
「まあ、おれにはよく分かんないけど王国軍ってことでどこぞから集まってくるらしいぜ。でも、最近はでんでダメだ。最近出来たドラゴンの国外取引の新しい法律のせいさ。みんなここより自分のところで育てたり余所に高値で売ったりしてるらしいからな。」
「そんなことが…………」
ティーアは聞いていてなんだか心が痛いような気がしました。
ドラゴンをお金としか考えていかの行動がティーアには心苦しく思えたのです。
「……要はお金なのね。」
ルージュも同じような反応でした。
ビーストテイマーとして生きていこうとしている彼女にも響くものがあったのでしょう。
「あっ…………忘れてた。」
「ん?何だよ?」
「ううん。何でもない。それより喉乾かない?飲み物あるんだけど……」
「気が利くわね。貰うわ。」
「はい。」
ここで、ティーアは一つ思い出しました。
というよりはここに来て色々神経を使いすぎて忘れていました。
ティーアか卵をアスカさんから預かっていたことを。
ティーアは二人に飲み物を与えて気をそらしながら陰で少し確認することにしました。
「……変化なしかな。」
「どうかしたの?」
卵に特に変化はありませんでした。
アスカさんには様子を見ながらとは言われましたが本当に何かあるのでしょうか?
すると、ルージュがカバンを覗きこむティーアを不思議に思ったのか声をかけてきました。
……まだ見せるには早いでしょう。
「いえ、何でもないです。それより一休みついでにロックさっきの続きをしてくれない?ここなら今はちょうどいいでしょ?そのために衛兵の人たちが増えたって言うならティーア達も何かあったときのために知っておかないと。」
ティーアは誤魔化すのも含めてロックに話をふりました。
もちろん、さっきロックが漏らしていたちょっとした訳についてです。
「ああ、その話か…………実は最近何者かは不明なんだけどここを襲撃するっていう予告があったんだ。」
「えっ!だから衛兵を増やして守りを固めてるんだ…………で、予告は何時なの?」
「ん。今日。」
「は!?今日!?」
ロックはそれがどうしたという顔で言ってきました。
…………というか……え?どういうことなんでしょう。
ティーアは思わず言葉を失ってしまいました。
「ちょっと待ってよ!なんでそんな日に私達がここにいるのよ!普通、別の日にするとか考えるでしょ!バカじゃないの!」
側で一緒に聞いていたルージュがティーアの代わりとばかりにロックに対して烈火の如く怒ります。
そ、そうです。
ティーアが言いたかったのはそれです。
「まあ、聞けって。その予告は今に始まったことじゃないんだよ。」
「……どういうこと?」
「この予告は20日くらい前から始まったんだ。毎日のように朝に門の外に置いてあるんだよ。決まってその日の太陽が傾く時刻にドラグニア軍の竜舎を狙うっていう内容なんだ。」
「毎日?それじゃあ毎日それと戦ってるの?」
そんな話全然聞いたことがありません。
それどころがそんなことがあったらドラグニア王国中が大騒ぎです。
「それが……今まで予告通り来たことがないんだ。だから皆もいちおう毎回警備をしっかりしてるんだけど誰かのイタズラじゃないかって……」
「……今日で何回目なの?」
「13、4回。」
「は!?そんなに毎回毎回?バカじゃないの!」
確かにルージュの言うとおりです。
毎日のようにそんな状態でバカらしくなるのも当たり前に思えます。
というかそれをやってる人たちも相当な人達です。
「まあ、そうなんだけどさ。何があるか分からないって言うし噂じゃあ反対派の企てじゃないかって噂もあるから念のためにやってるんだ。」
「反対派?」
「ああ、ドラゴンの国外貿易自由化に反対してる人とか後はドラゴンの飼育員を引き抜かれた竜舎の人たちなんかさ。最近はドラグニア軍も他国からの要望が多くてさ。それで仕事が増えすぎちまったからそれを補うためにドラゴンの飼育員を補充しようと他の竜舎のドラゴンの飼育員の引き抜きをしてたんだよ。だから恨まれてる可能性もありそうだから…………」
はあ、なんか内情を聞けば聞くほどって感じがします。
正に自業自得というか権力の横暴というか。
「……どっちもどっち。バカばっか。」
「ティーアもルージュの意見に賛成です。ですが……その方々の気持ちも十分に分かります。」
そういうことに興味のないルージュは大人達のいざこざに呆れているようでした。
ティーアもそれには至極賛成ではありますが当の本人達にとってはとても真剣なことであるのは明白でした。
特に反対派にとっては死活問題です。
「まあ、とりあえずこれが今ここで起きてるちょっと訳ありの内容だ。どうする?二人がやっぱり今日は出直すっていうなら俺がザハスさんに聞いてくるけど……」
「嫌よ!私は今日見て回りたいの!そんな来るか来ないかも分からないような連中にびびっていてもしょうがないもの。それに見るのはもう私のドラゴンは目の前まで来てるの。」
まあ、ルージュならそう言うとは思いました。
ほんのちょっとだけ帰るに期待をしたのですが無駄でしたね。
「ティーアは?……ま、まあ、何かあってもティーアは俺が……」
「ティーアも残ります。ルージュはアスカさんのお客さんです。アスカさんのお客さんはティーアのお客さんですから。それに1日ではありますがティーアのお仕事を手伝ってくれましたから今度はティーアの番です。ですから一人で行かないで下さいね。ルージュ。」
「ふ、ふん。勝手にすれば。」
「ふふっ。では勝手にします。」
ティーアがルージュに向かってそう言うとルージュはプイッとそっぽを向いて悪態をついてきました。
しかし、顔は見えませんがルージュの耳が赤くなっていることだけは見えました。
「あのー、だから俺はだな、その……」
「じゃあ、休憩は終わりにして次の場所に行きましょうか。予告時間まではとりあえずまだ時間はありそうですし。ロック次の場所への案内をお願い。」
「……分かった。」
「?何で落ち込んでるの?」
「いや、いいんだ。」
「あっそう。変なの。」
理由は分かりませんが落ち込んでいたロックに案内してもらいティーア達は卵の部屋って部屋を後にしました。
「次は?何を見れるの?」
「……飼料室だよ。ふう。」
ロックはまだへこみぎみでした。
さっきの会話でへこむことありましたっけ?
「…………あんた気付いてないの?」
「何がです?ルージュ。」
「はあ、やっぱりいいわ。師匠が師匠なら弟子は弟子よ。それにこいつだし。」
「?」
アスカさんと何の関係があるのでしょうか?
さっぱり分かりません。
でも、まあ、ロックですし、特に興味も無いので大丈夫でしょう。
とにかく次の飼料室が楽しみです。
何か勉強が出来るといいですね。




