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飼育員の初めてのお客さん(11)

「ザハスさん。この度はこのような機会を頂き光栄で身に余る思いでございます。本日はこちらに居ますルージュ共々しっかりと勉強させて頂きますのでよろしくお願い致します。」

「いやいや、私としてもアスカからの頼みだ。全力で力を貸させてもらうよ。彼女とは知らない仲では無いからね。こちらがルージュ嬢とやらだね。こんな若いのに熱心な事だ。」


馬車を降りると先だってティーアの方からザハスさんに感謝の言葉を述べました。

ザハスさんと会うのは品評会の時以来であの時は中々強烈な印象を残していたのですがどうでしょう。

あの時とは違い、やはり王国付きの金等級のドラゴンの飼育員だけあって本人から漂ってくる気品は高貴な身分の方であることを暗に物語っていました。

それとあの時はティーアはアスカさんの側にいたのですが……メイド服のせいかティーアとは認識されていないようでした。


「ど、どうぞよろしく。」


ルージュもいちおうザハスさんが偉い方なのでという事で最低限の挨拶だけはしていました。

ここであの悪態をつかれてはこの後にも響きますからね。


「うむ。よろしく。それと…………ティーア嬢はもう顔見知りのようだが紹介をしておこう。こちらは私付きの弟子であるロックだ。今日は私に代わってドラグニア軍の竜舎の中を案内させる予定だ。」

「…………え?今なんと?」


今、ティーアの聞き間違いがなければ物凄い嫌な事をさらっと言いませんでしたか?

すると、ザハスさんの隣にいたそいつは今や遅しと出番を伺っていたのかザハスさんの紹介と同時にティーア達の前に意気揚々と出てきました。


「という訳で今日は二人の案内役を務めるロックだ。今日はよろしくな。俺が案内役になったからにはどんな粉とでも聞いてくれ。そして俺の博識を見てティーアは………」

「あのー。さすがにザハスさんに案内を頼むのは恐れ多くて恐縮なんですがだからといってロックは無いんじゃないかと……」

「会ってすぐに否定!?」

「何こいつ?下等人種?」

「初めて会ってそれ!?」


だって、今日ロックに案内されたとなると後々なんて言われるか分かりませんから。

相変わらずなんか妄想爆発してますし。

隣にいるルージュも何か感じ取っているのか怪訝そうな顔をしていました。

ルージュも分かってきたじゃないですか。


「うん。私もアスカの弟子である君たちは最大限の歓迎をしたいところではあるんだがね…………ちょっと今は人を割くことが出来ないのだよ。大丈夫。ロックももうすぐ一年経つ。中のことはだいたい分かっているはずだ。それに知らない人よりはやり易いだろ?」

「はあ……そうですか。」


意外とザハスさんからの信頼が厚いのかそれとも人が割けないから仕方がなくなのかザハスさんはロックを薦めてきました。

さすがに立場上これ以上ティーアがどうこうと言うことは出来るわけもなく承諾せざるを得ませんでした。


「ふふーん。という訳だから改めて任せな。」

「……はあ、ではよろしくお願いします。」


それを側で聞いていたロックは無駄に得意気な顔をして再びティーアの前に出てきました。

ティーアはザハスさんな顔を立てる意味でも頭を下げました。


「では、私はここで…………ロック頼んだよ。くれぐれも粗相の無いようにね。でないとアスカに会わせる顔が無いからね。私は上にいるから。」

「はい!ザハスさん。了解致しました。ではお二人とも行きましょうか。今日は私が全力でお二人をご案内致します。」

「……はあ。」

「ふん。何よ。格好つけて。」


そして挨拶が済んだからなのかザハスさんはそそくさドラグニア城の方へと行ってしまいました。

そして一方、ロックは普段のロックからは聞いたことのない口調でティーアとルージュを竜舎へと案内し始めました。

その竜舎は外観からしてアスカさんの所の物とは比較にならないほどでした。

とにかく全体的に大きいのです。

竜舎の扉は分厚い鉄で出来ていてその大きさは家ほどの高さがありました。

いつもは城の高い城壁の中に隠れており見ることは出来ないので近くで見るとその大きさがよく分かります。


「はあ、大きいのね。なんでこんなに大きいの?」


さすがのルージュも上を見上げながらあんぐりとしていました。

恐らくカトラス王国にはこんな大きな扉は無いのでしょう。


「ああ、それはドラゴンが通れるようにさ。ドラゴンが中から出るときにだけ開けるんだ。とても大きなドラゴンが出てくる時や一度にたくさんのドラゴンが出てくる時は圧巻だぜ。」


ザハスさんが居なくなって自由になったのか普段のしゃべり方にすっかり戻ったロックが興奮ぎみに言います。

実際それを見たことがあるのはロックだけですがティーアもその光景を想像しただけで興奮する気持ちは分かります。

それがもし、自分の育てたドラゴンだとしたらもっと心踊る光景となるのでしょう。


「で。俺たちはここから入るのさ。」

「ここから?」


ロックがティーア達を案内したのは先ほど紹介された大きな扉の一部分となっている普通の大きさの扉でした。

なるほど大きい扉を見るのにずっと上を見上げていたので存在に気が付きませんでした。


「ああ、そうさ。ここからが本当のドラグニア軍の竜舎なんだ。じゃあ改めて。ようこそ!俺達の竜舎へ。」

「「…………うわあ。すごおおい。」」


思わず感嘆の声を二人で揃ってあげてしまいました。

外の扉から想像はしてはいましたが内部はティーアの想像をはるかに越えるものでした。

竜舎内は天井まで吹き抜けになっており天井には大きな開閉式の扉がついていました。

きっとあそこから飛竜が飛び立つのでしょう。

また竜舎内の両側にはドラゴン達が一匹に付きの一部屋といった感じで自分達の檻の中に入っていました。

それが一階と二階にあるのです。

それが奥までずぅぅと続いていました。

一体何匹のドラゴンがいるのでしょうか?


「こ、これ全部ドラゴン!?」

「そうさ。これがドラグニア軍の竜舎さ。」


その光景にルージュも驚きが隠しきれません。

ロックがさも同然との如く答えました。

しかし、ティーア達が驚いたのが心地よかったのか鼻の穴が開いていました。

しかし、この中でルージュに合うドラゴンを探すというのはとても骨が折れそうです。

しかし一方のルージュはというと…………


「ふふーん。こんだけいるならきっといるわ。私の……私の運命のドラゴンが!」


ヤル気満々でした。

でも、ティーアも手伝うんですよね?


「じゃあ……早速ドラゴンを見させて貰うわ。ほら、行くわよ!」


ルージュはもはや待ちきれないといった感じでティーアを急き立てます。

しかし、そこにロックが割って入りました。


「ちょ、ちょっと待った!ドラゴンは最後だよ。最初は施設を見せて回れってザハスさんから言われてるんだ。」

「何よいいじゃないの!そんなの私が決めることでしょ?あんたは黙ってなさいよ!もしくは私達だけで行くわ!」

「そんなのダメに決まってんだろ!それにこれが無いと先には進めないんだよ。」


そう言うとロックは胸ポケットから紐に括られた銀色のペンダントのような物を取り出しました。

そのペンダントは薄い板になっておりドラグニア王国の刻印が掘られていました。


「ロック。それは何?」

「これは通路にいる衛兵に見せるんだ通過書代わりなんだ。今ちょっと訳ありってこともあって色んな所に衛兵が警備してるんだよ。これがないとすぐに捕まっちまうよ。」


まあ、予想は出来たことでした。

こんな重要な場所ですからセキュリティが厳重であっても何も不思議なことはありません。

それより一つ引っかかる発言が今のロックの言葉にはありました。


「それは分かったわ。でもロック。ちょっと訳ありって何?」

「…………あー、それはきっとティーアの聞き間違いだよ。それより……」

「言いなさい。」

「……はい。でも、ここは人の目が多いからもう少し人の少ないところでもいいか?みんなピリピリしてるんだよ。まあ、そこまで深刻な状態ではないし。次のとこを見学しながらでもいいだろ?」

「……分かったわ。」


周りを見ると確かにそこかしこに人がいてティーア達をチラリチラリと見ていました。

確かにティーア達のようなお客さんは珍しいはずです。

ロックと一緒にいるとはいえ何らかの理由を抱えている現状怪しまれてもおかしくはありません。

ここはロックの言い分を聞くのが一番でしょう。


「ルージュもいいですか?後でも時間はあります。ここは我慢しましょう。」

「しょ、しょうがないわね!寛大な私に感謝しなさい。そこの!後、べ、別にあんたに言われたからじゃないからね!ロリ!」

「俺、そこのって名前になったの?」

「はいはい。分かってくれてありがとうございます。」


ルージュも理解してくれたようで何よりです。

ロックは隣で名前が『そこの』になり落ち込んでいました。

ティーアはもうすっかり慣れました。

これがルージュなりのコミュニケーションですから。


「ほら、ロック。そんな事より次の場所にさっさと案内をして。時間が無くなる。」

「あっ、ああ。分かったよ。こっちだ。」

「ルージュ行きますよ。」

「私に指図しないで…………ちょっと置いてかないでよ!」


落ち込んでいたロックを無理矢理呼び起こすと次の場所に案内をさせました。

そこはドラゴンがいる檻と檻の間にある扉から行くことが出来、開ける前にやはり衛兵の方が一人立っていました。


「はい。これ。」

「はい。確認しました。どうぞ。」


ロックがペンダントを見せると衛兵の方が扉を開けてくれました。

やはりロックがあるのでさっき言っていたようにあのペンダントが無いと自由に行き来する事は出来そうにありません。

扉を入るとそこはさっきの広い竜舎とは一転して狭い通路でした。

幅は人がすれ違うのがやっとというほどしか通れる幅がなく、しかもとにかく真っ直ぐな通路が続いていました。

その通路を今、ロック、ティーア、ルージュの順番で進んでいました。


「どうなってるの?ここ。」

「ここはとにかく複雑なんだ。迷子にならないように着いてきて。」

「どういうこと?」

「ここは上に行くための階段や道も全部右側に沢山並んだ扉のどれかなんだ。聞いた話だと侵入者が迷うようにわざとそうしたらしい。俺も覚えるまで何回迷ったか。」


確かに通路の左側にはティーア達の入ってきた扉が一つだけなのに対して右側には同じ間隔で扉が幾つもありました。

確かに初めてここに来たら間違いなく迷うでしょう。

ルージュはティーアの後ろでこの変わった通路に戸惑っているのかキョロキョロと辺りを見回すばかりでした。


「なんでそんなに複雑に?」

「さあな。それだけここが重要なんだろ。」

「……なるほど。」


ロックにしては至極全うな意見でした。

そして、少し狭い通路を歩いたところでロックが止まりました。


「ここが次の目的地だ。まあ、なんの変哲もない扉だけど。」


そこにはさっき聞いたとおりの沢山並んでいるうちの一つにしか見えない扉がありました。


「ここには何が?」

「まあ、入ってからのお楽しみかな?あいた!」

「ムカつく。」

「何で!?」


……なんか腹立つ言い方でしたが仕方がありません。

それにルージュも同意見だったようでロックの足を蹴っていました。

ティーアはそれで気が済んだので大人しく中に入ることにしました。

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