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飼育員さんの初めてのお客さん(10)

「では、行ってきますね。」

「あっその前に、ちょっと待ったティーア。」


次の日の朝、予定通りに出発の時間を迎えティーアとルージュはドラグニア軍にお世話になるために何故かドラグニア軍仕様の馬車に乗ってドラグニア城まで行くことになっていました。

アスカさんは断ったらしいのですがザハスさんがどうしてもと押しきったようでこうなってしまいました。

なんでもアスカさんの弟子であるティーアが行くということで最大級の歓迎をすると言うのですがさすがにそれは断ったそうです。

そして、今その件の馬車に乗ろうとしていたところをアスカさんに呼び止められたのです。

既にルージュは一番をとり先に乗り込んでいました。


「はい。何ですか?」

「行く前で悪いんだけど……ちょっと来て。」


そう言うとアスカさんはティーアを一旦家の中に戻そうとしました。

何か忘れ物でもしましたでしょうか?

でも、アスカさんが普段とちょっと違うような……


「ちょっと何やってんのよー!早く行くわよ!」

「ちょっと忘れ物をしました。待ってください。」

「ふん。早くしなさいよ!」


とりあえず、ルージュを待たせておいてティーアはアスカさんに着いていきました。


「で?どうしましたアスカさん?」

「うん。ちょっとお願いがあるの。」

「はい…………何ですか?」


アスカさんが珍しく真剣な顔つきでお願いをしてきました。

そしてティーアを書斎兼研究室に案内し、奥から箱を持ってきました。


「これなんだけど…………」

「あっ……それは。」


それは昨日もアスカさんがずっと調べていたドラゴンの卵でした。

そう言えば昨日も分からないと叫んでいたのはこれのことだったんですね。


「そう。ドラゴンの卵なんだけど…………昨日、光ったって話はしたよね?私、どうしてもあの事が引っ掛かって一晩調べてみたんだけどこれ見て。」

「それは…………古いドラゴンの文献ですか?何々……『招かれし主人現れ力求めしその時光の中竜誕生せんや』ですか?どういう意味です?」


ティーアはアスカさんの指差した一文を読み上げましたが、さっぱり分かりません。


「まあ簡単に言えばこのドラゴンは自分の選んだ主人が来て必要になったときしか生まれませんてことらしいんだけど……ここの『光の』ってのが引っ掛かってね。」

「それが昨日、アスカさんが言ってた卵が光ったって事ですか?」

「うん。まあ、確信が無いんだけどね。それでこれ。」

「あっ…………それは昨日の。」


アスカさんは持っていた手紙をティーアに見せてきました。

それは昨日ティーアが見つけた。

差出人不明の手紙でした。

ただ一文だけ『ドラゴンノビーストテイマーニシテクダサイ』とだけ書いてあったものです。


「ビーストテイマーってもしかしてルージュのことですか?でも、ルージュの話ではたまたまここに来たみたいでしたけど…………」

「…………それがもし、『招かれし』だったら?」

「アスカさんはルージュがたまたまここに来た訳じゃないと?」

「うん。もしかしたらこの子に呼び寄せられたんじゃないかと思って。でも、まだ求められてないから生まれていない。」

「そんな事があるんですか?にわかには信じられないです。ドラゴンの方からなんて。」


でも、もしそれが事実であることを証明出来ればこの卵は孵化するということになります。


「でも、そうするとこの手紙の意味が繋がりませんよ。この文面では誰かをドラゴンのビーストテイマーにしなくてはいけません。本来これを送るのべきはビーストテイマーになりたい誰かです。ここに『招いた』側ではありません。」


そうです。

もし、これが何らかの力や奇跡によってこの卵のドラゴンが招いたものであるなら本来の文面は『ビーストテイマーノドラゴン』と逆になるべきなのです。

これではおかしいのです。


「うーん。そこが分かんないんだよね。だからティーアにお願いしたいんだけど、今日1日この卵を持っていてくれない?ルージュの側にいればずっといれば何か起きるかもしれないし。観察してほしいの。現に昨日光った時ルージュはこの部屋に私といたし…………」

「確かにそうですけと…………」


それこそアスカさんがやるべきでは?と言いかけてティーアは辞めました。

それは自分のその時に目覚めた好奇心と自覚だったかもしれません。

アスカさんが初めてティーアに託してくれた大事な卵の仕事ですから。


「…………分かりました。やってみます。」

「…………うん。よろしく。」


ティーアは卵をアスカさんから受け取りました。

ずっしりしていて生命の重みを感じます。

それを布でぐるぐると包み背負っていたカバンにいれてなるべく揺れないように固定しました。


「これでよしっと。」

「ドラゴンの卵は石で打っても割れないから大丈夫だとは思うけどね。頼んだよ。」

「とにかくやってみます。ルージュも卵も任せてください。」

「うん。意識させないようにルージュには極力秘密にしておいて。あの子は変に意識するからね。」

「分かりました。行ってきます。」


ティーアもそう思います。

ティーアはカバンに増えた重みを感じつつ今度こそ馬車に乗り込みました。


「ちょっと何してたのよ?待ちくたびれたわよ。」


案の定、馬車の中で待たされていたルージュはご機嫌ナナメでした。

…………こういう時はと。


「すみません。忘れ物が見つからなくて。お菓子持ってきたので食べますか?」

「気が利くじゃない。貰ってあげるわ。」


ほら、一発で機嫌が直りました。

こうしてティーアとルージュ、それに卵を連れた馬車は一路ドラグニア城生へと進んでいきました。


「うわーっ、ドラグニア城はおおきいのね。」


ドラグニア城に近づくに連れてルージュが興奮ぎみに窓から外を見ます。

その姿は正に子供そのものでした。

そういえばティーアも初めてドラグニア城側まで来たとき同じでしたね。

…………今は違いますよ。

ティーアも成長してますのでもうこんな事で興奮したりしないです。


「もう着きますよ。」


ほら、至って冷静にしています。

今回はドラグニア軍の竜舎ということでドラグニア城側まで行きますが入ることはありません。

ドラグニア城を右手側に隣の大きな建物に入ります。

そこは軍の詰所も兼ねているのでたくさんの軍の人が昼夜問わず国のために動いています。


「しかし、何か慌ただしいような…………」


いつも見ている訳ではないので正確には解りませんが全体的にバタバタしているような気がします。


「あっ!あそこに人が待ってるよ。」


ルージュが指差す先に人が二人立っていました。

きっとティーア達を迎えてくれる方でしょう。

片方はザハスさんですね。

でもう片方ですが…………


「げっ!あれは…………そうでした……ここはドラグニア軍でした。」

「ん?何かあったの?」

「おーーい!ティーア!おーーーい!」

「……何か呼んでるわよ。」

「………たぶんティーアのことじゃないです。」

「……でも…………」

「ティーアーおーーーい!」

「…………はあ。」


そこにはザハスさんの横でバカみたいにティーアの名前を叫び手を振り続けるロックの姿がありました。

ロックを知らないルージュはティーアに親切に呼んでいることを教えてくれました。

ティーアは見たくない現実にめをそむけましたが、残念なことに現実は再確認を薦めてきました。

そして馬車はちゃんと二人の前に停まりました。

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