飼育員さんのお師匠さん(15)
私達の連れていかれた場所はニームの中にある一室でした。
そこはがらんとしていて何もなく一つ窓はあるものの部屋事態は薄暗い場所でした。
「さて、何を話してくれるのかしら?」
部屋のど真ん中で腕組みをしたアスカさんが凄みをきかせています。
ベールニック皇太子様はその正面に窓を背にして立ち、ティーアとアムルさんは入り口の側でその光景を見つめている状況です。
「勿論、アスカさんが聞きたいことです。」
ベールニック皇太子様はいたって冷静にそして静かに答えます。
ティーアに出来ることはもはやありません。
「そう。では遠慮なく。今年の品評会。あれは何?」
「そこまで気付いているならもう分かっているのでは?」
「まあ、関係者から聞きたいしね。」
やっぱりアスカさんは既に全ての事をお見通しだったようです。
しかし、アスカさんに追及されていてもベールニック皇太子様は表情を崩すことなく淡々と話します。
「そうです。今年の品評会の最終選考は受けがいいものを選びました。」
「受け?」
その言葉の意味が分からずティーアが思わず口に出してしまいます。
しかし、そのティーアの疑問はすぐにアムルさんが補てんしてくれました。
「…………お客様受けの事です。ことさら今年の場合は他国のお客様受けが良いドラゴンが最終選考に残っています。」
「そ。今年のドラゴンは装備で身を固めて主人の命令に従順、そしてそれが空、海、地と全てのジャンルがいた…………そして、今年のドラゴンはみんな攻撃的なタイプのドラゴンばかり。」
確かにさっきティーア達が見たドラゴンはどれもそれに当てはまるものばかりでした。
でも、それだけでここまでの判断が出来るものなのでしょうか?
「勿論、たまたまかもと思ったわ。でも、あの席から『他国のお客様』を見ていて確証に変わった。あいつらのドラゴンを見る目を見てね。あの時と一緒。」
「…………そうですか。そこまでは私にもどうにも出来ませんからね。」
ティーアがあのドラゴン達に目がいっている間にアスカさんがそんなところを見ていたとは考えもしませんでした。
アスカさんが無言で見ていた時、ティーアはもっとアスカさんの事を考えるべきだったのかもしれません。
それを突き付けられたベールニック皇太子様は参ったといった表情でした。
「アスカさんのお考えの通りです。今年の品評会からドラゴンを他国にも売買出来るようにします。初めが肝心と言いますから今回は選考からこだわってみました。」
「…………あなたの考え?」
「はい。父…………ドラグニア14世にはもう了承を頂いています。」
「…………何が想定されるか分かってるの?王様は何て?」
「ええ。分かってます。出来る限りの策は尽くします。王は…………渋々といった感じではありました。しかし、この国の危機だと私が説得しました。最後は『次はお前の時代だから』と。」
ベールニック皇太子様も決定には苦しんだのでしょう。
冷静にに淡々と喋りつつも表情は暗く本当は本人もそれが正解だとは思っていないようにティーアには見えました。
「…………そう。やっぱり君は成長したね。あの頃とは大違いみたいだ。」
「ええ、アスカさんの一言のお陰です。あれがなければこうはならなかったでしょう。それに、アスカさんは一般人ですが私は皇太子です。いずれはこの国の王になります。この国は私が守ります。」
ベールニック皇太子様が前にちょっと言っていた事に関係するのでしょうか。
そう語るベールニック皇太子様は真っ直ぐアスカさんを見てはっきり言いました。
いつもの優しい雰囲気は消え、威厳すら感じさせるような鋭い目でした。
「アスカさんに一つだけ今回の事は謝らなくてはなりません。アスカさんを今回の件の象徴の様に扱ってしまいましたから。しかし、今後は迷惑の掛からないように配慮はします。」
「…………まあ、それは終わったことだしいいよ。でも私は私でやりたいようにやる。ベールニック皇太子の考えには賛同出来ないからね。」
「…………やはり、そうですか。」
アスカさんはベールニック皇太子様に迷いなく自分の本音を普段言いました。
でも、ベールニック皇太子様もそれを分かっていたように受けとります。
ですが、分かっていたとはいえアスカさんの賛同を得られなかった事が少し堪えているようです。
「…………まあ、そこまでの覚悟があるなら私はもう文句は言わないよ。直接話も出来たしね。ティーア帰るよ。」
「えっ?あっはい!」
アスカさんは突然あっさり引き下がると回れ右をしてこちらに来ました。
ティーアはその変わり身に驚きつつも後ろを着いていこうとしました。
「…………馬車を出しますよ。その格好で外に出るのは目立ちます。」
「…………そうね。お願いしようかな。」
「アムル。頼む。」
「はい。」
ベールニック皇太子様がそれを見てすぐに提案してきます。
アスカさんは素直に応じるようでアムルさんが準備のため馬車の所にすぐに行きました。
「ねえ、ベール君。」
部屋を出る間際、アスカさんがベールニック皇太子様に尋ねました。
「はい。何でしょう?」
「あの、ファイアードレイクもあなたの仕業?」
「…………いえ、偶然です。」
「…………そお、じゃあね。」
「では、ごきげんよう。」
アスカさんとティーアはこうしてニームを後にして家までアムルさんの扱う馬車で帰りました。
「あー、長かったー。あんな堅苦しいものやっぱりでるもんじゃないなあ。」
アスカさんは帰ってくるなりドレスをその辺に脱ぎ捨ていつもの服に着替えます。
因みにアムステルダムさんが馬車に着ていった服を置いていてくれてすぐに着替えることが出来ました。
ティーアは着ていった服をアムルさんに散々言われたのが嫌だったのでメイド服のままでした。
「アスカさん…………その。」
「…………ティーアは最初から知ってたの?」
ティーアが言う前にアスカさんから聞いてきます。
普段のアスカさんからするとなかなか見ない姿でした。
「はい。着替えの時からでしたがベールニック皇太子様から直接言い渡されました。すみません。黙ってて。」
「まあ、皇太子様からの指令じゃね。…………でも、ちょっと残念かな?私よりあっちを選ぶなんて。」
「あっ……いや、その。」
「分かってるよ。わざと言ってみただけ。ティーアは私を心配してくれたんでしょ?先に知ったらそれこそ品評会ごと潰しかねないしね。」
アスカさんはティーアをからかうように言いますがティーアにはそれがアスカさんの本音なのかどうか自信がありませんでした。
それに今日、自分がしたことが正しいのかも分からなくなっていました。
「アスカさん……その、あの、ティーアは…………」
「…………ティーア。この間の約束やろうか?」
「約束?」
「そ。品評会にいったら何でも一つ私の言うことを聞くってやつ。」
そう言えばそんな約束していました。
一向に約束の内容を言わないのでティーアはすっかり忘れていました。
しかし、このタイミングで何を?
「『次回から何があっても隠し事はしない』それが相手にとって悪いことでもね。」
「あ。」
「心配してくれるのはありがたいけど、もっと信用もして欲しいなって。まあ、私が信用しづらいのは分かるんだけどさ。その……いちおう師匠だし。」
アスカさんは照れ臭そうに頬をかきながら言いました。
ティーアは普通の人としての気持ちを気付いてあげられていなかったようです。
重要なことを隠されて後で分かったときほど嫌なことはないと…………
「アスカさん!」
「ん?何?」
「隠し事をしてごめんなさい。今後はしません。」
ティーアはアスカさんに向かって頭を下げました。
それがティーアに出来る誠意だと思ったのです。
「ふふふ…………」
「?」
「あははは、ティーアは本当に可愛いね。」
ティーアが真剣なのにアスカさんは大笑いをし出しました。
何なんでしょう?
「私はティーアのそういうところが大好きだし、この仕事に向いてると思うから弟子にしたんだよ。大丈夫。ティーアなら時代が変わってもやっていけるよ。私が保証するよ。」
「???アスカさんそれはどういう…………」
「そんな事より…………これから当分そのメイド服でいない?仕事は全部私がやるからさ。ティーアは家でメイドの仕事だけしてればいいよ。」
「な、何を突然言うんですか!嫌です!これは無理やり着せられたとさっき言ったじゃないですか!だからもう着ません。」
「えーー!」
「えーじゃないです!だいたいですね…………」
この後フラミーさんに聞いた話ですが品評会の後に正式に他国とのドラゴンを使った貿易が解禁される法案が出来たことが発表されました。
しかし、他国との取引の際にはいちいち国の検査が必要となる一定のルールが設けられました。
具体的には武器、軍事目的のドラゴンの取引の禁止やドラゴンの飼育員との直接交渉の禁止等です。
お陰でフラミーさんは大忙しだそうです。
しかし、一方で他国との貿易が増えたことでドラゴンの飼育員も人手不足や腕の良いドラゴンの飼育員の緋引き抜きなんかもあるらしく大変みたいです。
アスカさんには何か裏の力が働いているらしくそういったことにはなりませんでしたが…………
これはベールニック皇太子様の配慮なのでしょうか?
とにかく、ドラゴンの飼育員は新しい転機を迎える事となったのでした。
この章は終わりです。
次回からはまた違うお話です。
2つ考えててどっちにしようか迷い中です。
またよろしくお願いいたします。




