飼育員さんのお師匠さん(14)
「それでは、これよりドラゴンの品評会を開始致します!」
「アスカさん!いよいよ。ですね!」
「そうだね。ティーアは何が楽しみ?」
「……そうですね。前はドラゴンを見るのが好きでしたけど、今日はドラゴンを見てアスカさんに色々と教えて貰えるのが楽しみです!」
「そ。でも、簡単には教えないよ。」
「えーっ、アスカさんお願いしますよ。」
「…………お二人ともお静かにお願いいたします。」
「「…………はい。」」
いよいよ品評会が始まりました。
会場では開会の式典が行われていますがティーアとアスカさんはその事もすっかり忘れて喋っているとアムルさんに釘を刺されてしまいました。
結局忙しかったのか、ベールニック皇太子様が姿を現すことはなくほとんど説明もないままに事が進んでいきます。
「アスカさん!今度はベールニック皇太子様が話されますよ。」
「あっ、本当だ。偉くなったねえ。」
そんな事を話しているとティーア達の後ろに立っていたアムルさんがすすっと来てティーアたちに話しかけます。
「アスカ様この後ベールニック皇太子様がアスカ様をご紹介致しますので立ち上がって手を振って下さい。その際ティーア様はこちらに。」
アムルさんが事前にこれからのことを話してくれました。
どうやらここでアスカさんの出番です。
「それくらいはしょうがないか。分かったけど……何で、ティーアは別なの?弟子くらい一緒にいても………」
「アッ、アスカさん! 今回はこの間のことの感謝の為なのでアスカさんだけでいいです。ティーアは何もしてませんから。」
「…………ティーアが言うならだけど…………」
アスカさんは納得してはくれませんでしたがどうにかティーアが離れたちょうどその時ベールニック皇太子様がアスカさんを紹介します。
「…………では、ここで今日来ていただいた中でお一人紹介したい方がおられます……皆さんもご存知の通りつい先日ドラグニア王国の西部にドラゴンが出現しました。しかし、その事件は一人の金等級のドラゴンの飼育員によって解決されました。それがそちらにおります。アスカ殿です!」
ベールニック皇太子様がアスカさんのことを手で指し示したその瞬間ワーッという歓声が地鳴りのようにニームに響きました。
ティーアはお腹を押される感覚に似た違和感を覚えるほどでした。
「あはは……何か凄いね。あの時以上かも。」
アスカさんはティーア達にも歓声で聞こえない中、そんな事を言いながら若干顔をひきつりつつ手を振っています。
さすがに今まで色んな人を見てきたせいか上品な感じが少し出ていました。
元々見た目は素晴らしい人です。
ちゃんとしてれば凄いんです。
「ははは…………こんなもん?ふう。」
アスカさんは一通りニームの周りを手を振り終えるとすっと座りました。
万雷の拍手はアスカさんが座っても鳴り響いていました。
大成功でしょう。
拍手が止むとベールニック皇太子様がないと再び喋り始めました。
「彼女の様に優秀なドラゴンの飼育員はまだまだこの国にはおります。今日はそのドラゴンの飼育員達が懇切丁寧に育てた珠玉のドラゴン達をゆっくりとご覧下さい。そして、この国の力をその目で確かめて下さい。」
「…………随分外向けの挨拶だね。」
「…………そうでしょうか?」
ベールニック皇太子様の言葉に対してアスカさんが一言そう言いました。
確かにさっきの言い方だと国民への言葉というより国外への言葉という感じがします。
しかし、ティーアは曖昧に返事しました。
アスカさんには気付いて欲しくなかったからです。
「本日は最近まで国交が不安定だった国も来ております。ベールニック皇太子様も気を使っておられるのです。」
アムルさんがすかさず一言入れてきます。
ティーアよりアムルさんの方がフォロー役適任ではなかったのではないでしょうか?
「…………ふーん、そう。」
「アスカさん!そんな事より始まりますよ。」
「……そうだね。」
アスカさんは先程までの表情とは異なり若干険しいような感じがしました。
それはまるでアスカさん自身の感じている違和感を整理しているようでした。
『最初のドラゴンはこちらです!黒等級バックスの飛竜。ワイバーン。統制のとれた編隊をご覧下さい!』
「よし!みんな行くぜい!」
「ケヒャーン!クーゥ!」
進行の方の紹介と共に若い男性の大きな掛け声がしました。
それと共に後ろにいた先頭の一匹を起点に五匹のワイバーンが飛び立ちます。
ワイバーン達はそれぞれが銀色兜のような物をかぶり胸当てを付けています。
五匹は一気に空高く飛び上がりっていきました。
「ターンフィード!」
「カーゴー!」
バックスさんが一つ号令をかけると先頭の一匹が大きな鳴き声をあげて上空で宙返りします。
とても綺麗に統制なされています。
「アスカさん、先頭のあの子。とても良く訓練されてますね。ほかの子達もしっかり着いていますよ。」
「…………」
「アスカさん?」
アスカさんはとても厳しい顔をしてそのワイバーン達を見ていました。
側にいるティーアの声が全く届いていないようです。
普段アスカさんが出さない雰囲気にティーアがしり込みしてしまいます。
その後もワイバーン達はその場での旋回、急降下の後の急上昇等々様々な技を見せてくれました。
周りの観客も一つ一つの技に大きな拍手を鳴らしていました。
しかし、ティーアの隣に座るアスカさんは眉一つ動かさずに会場をじっと見つめています。
まるで何かを見定めているかのような瞳でした。
やがて、土竜ザルド、海竜トプセルとティーアの見たこともないドラゴンが次々と登場し、会場を盛り上げます。
しかし、アスカさんは相変わらず静かにその様子を見つめています。
「では!次はいよいよ!ドラグニアが誇る金等級のドラゴンの飼育員。ドラグニア軍のザハスです!今回のドラゴンは…………」
「アスカさん!ザハスさんですよ。ほら!」
「…………アムルさん。」
「はい。」
「…………アスカさん?」
アスカさんはティーアの声には答えずアムルさんを呼びました。
ずっとティーア達の後ろにいたアムルさんはそれが分かっていたかの様に冷静に反応します。
「……ベール君は今何処にいるの?すぐに会いたいんだけど。」
「ベールニック皇太子様は只今、来賓のお客様とのお相手の最中のため難しいかと。」
「…………私も来賓のはずだけど。分かった。私から行くわ。彼は何処にいるの?」
そう言うとアスカさんは立ち上がってティーア達がいた席から外れようとしました。
その間ティーアは動くことが出来ませんでした。
本来ならティーアがここで出ないといけないのですがアスカさんの今の雰囲気に押されてしまっていました。
「アスカ様…………今はお待ち下さい。今は…………」
「…………アムル。いいよ。私が話す。」
「あら、ちょうどいいところに。」
アスカさんがアムルさんをを突破しようとしたその時でした。
アムルさんの背後からアムルさんを制止するような声と共にベールニック皇太子様が現れました。
まるでこのタイミングでこうなることが分かっていたかのように。
「ベール君、いやベールニック皇太子様。少し聞きたいことがあるんだけど。」
「ええ、恐らくそろそろだろうと思ってました。…………ここでは、人の目もありますので、別の部屋を用意しています。」
「そう。じゃあ行きましょうか。」
二人の間にはティーアには触れられない緊張感がありました。
ベールニック皇太子様はアスカさんとティーアそしてアムルさんを別室へと案内しました。
たぶんここからの会話の中ではティーアが入る余地は無いのだろうと思いましたが、ティーアはアスカさんをもっと知らないといけないと思いました。
こうなったのにはティーアにも責任がありますから。




