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飼育員さんのお師匠さん(13)

品評会の会場となるのはニームと呼ばれる円形の石造りの闘技場です。

この建物の歴史は古く、昔はこのニームはドラゴンと戦う戦士を育成するための鍛練場として使われたり、その技量を競い合う試合会場としても使われてきたといいます。

今はもう、そのようなことも行われなくなり品評会の会場としてのみ使われるようになりました。

ティーアとアスカさんはまたしてもお城の裏門から出されて馬車に乗せられてこのニームに向かいました。

お城からニームまではそう遠くないのですがそこはアスカさんのこともあり待遇が良いようです。

移動の間、アスカさんはずっと動きにくいとドレスに不満を言っていました。

………ティーアもそれを着たかったのになんて贅沢なんでしょう。


「何で裏門から?表からバーって行けばいいじゃん。」

「表からでは目立ちます。アスカ様は最近までドラグニアを賑わせていた方です。ひっそり行かないと囲まれますよ。」

「うーん。それは嫌だな。」


アスカさんの率直な疑問にアムルさんが答えます。

さすがは本物のメイドです。

どんな状況にも対応してきます。

因みに馬車の中は四人乗りでアスカさんの隣にティーアが座りアスカさんの真正面にアムルさんが座っています。

アムルさんがティーアたちの疑問に全て答えてくれます。


「ニームも裏門から入ります。そこからお二人のお席までは真っ直ぐ誰とも会わずに行くことが出来ますので……」


アムルさんが説明してくれます。

煩わしい挨拶なんかが無いのはとても助かります。

それにこの三人でいる時はメイドでいなくてもいいですから。


「私は助かるけど……ティーアもいい?」

「はい。ティーアもその方がいいです。」


アスカさんがティーアを心配してくれます。

元々ティーアが行きたがった品評会を自分のせいで行動が制限されていることにちょっと責任を感じているのでしょうか?


「そう?ならいいけど。」

「はい。次回はティーア自身の力でここに来ますから。」

「…………そう。その時は私は側で応援するよ。」


ティーアは自分の為、アスカさんの為に精一杯の大口を叩きました。

それに対してアスカさんはニコッと笑って答えてくれました。

でも、ここ数日でティーアに芽生えた正直な思いでした。

ドラゴンから国を物理的救ったのも、これから英雄として国を経済的に救おうとしているのもアスカさんです。

勿論ティーアに出来ることなんて今はほとんどありません。

でもいつかはあそこにたどり着きたいという思いはさっきのベールニック皇太子様との話でより強い思いになったのは確かです。

でも、今はティーアがほとんど出きることのない中で出来ることをするしかありません。


「着きましたよ。」

「あっ、そうですね。相変わらず大きいです。アスカさん、大丈夫ですか?」

「動きにくい。あぁ!もう!」


そうこうしている内に馬車はニームの裏手に着きました。

馬車を降りて見上げるとドラグニア王国の何処からでも見えるこのニームがティーアの目の前に高くそびえていました。

ティーアの後ろではアスカさんが慣れないドレスで馬車から降りるのに悪戦苦闘していました。

これはニームの中では気にしながら歩かないとダメですね。


「アスカさん!ティーアが後ろから歩いてスカート引っ掛からないようにしますから。」


ティーアがアスカさんの後ろに回ってスカートの裾を摘まみます。


「ありがとう。ティーア。助かるよ。お礼にちょっとだけならスカート覗いてもいいよ。」

「…………遠慮しておきます。」

「えー。本当は見たいくせに。下着も凄いんだよ。」

「はいはい。」

「お二人ともこちらです。」


こんなところで何をぶっちゃけているのでしょうか、この人は。

ティーアは軽く流すとアムルさんの先導でニームの中に入りました。

お城とは違いティーア達だけの通路というものはなく来賓の方が使う通路を歩くことになったのですが何故か警備の軍の人だけで他に誰もいません。」


「アムルさん。ここっていつも人がいないんですか?」

「いえ、来賓の方々は只今、ドラグニア14世王との懇談会をしておりましてお城におられます。先にアスカ様たちのみをご案内しました。」

「なるほどねー。王様との懇談会か……堅苦しそう。」


アスカさんはその話を聞いて苦い顔をしていました。


「凄い方ばかりなんですかね?」

「ええ、各国の王様や大使様が多数来ております。」


うーん。それは緊張しそうです。

アスカさんの言うとおり堅苦しそうです。

これはティーアも正直勘弁願いたいところです。

しかし、アスカさんとこう意見が合うと何だかアスカさんにティーアが毒されたみたいですね……………ちょっと見直さないと。

そんな事に思いながら通路を歩いていた時です。


「これは、アスカじゃないか!」

「げっ!この声は…………」

「…………あれはザハスさんですね。」


後ろから一人の男の人に声をかけられました。

そこには現在軍の金等級のドラゴンの飼育員をしているザハスさんがいました。

ピシッと決まった軍服がザハスさんを引き立てています。

ですが、その姿を見た瞬間アスカさんはひどく嫌そうな顔をしています。


「や、やあ、ザハス。久しぶりね。」

「そうだね。今日はどうしたんだい?今日の君は宝石のように輝いているじゃないか。あまりの美しさに目が潰れるかと思ったよ。」

「…………そうね。潰れるといいと思う。」

「それにしてもアスカはあの頃から変わりなく美しい!まあ、私も君の金等級を受け継ぎ更に磨きがかかっているがね!」

「…………そうね。磨きすぎてすり減ってなくなればいいかな。」


…………アスカさんが勢い負けしてます。

というか、ティーアは初めてザハスさんが話しているのを見ましたがこれはもしや…………


「…………ところでザハス……無駄なのは分かって聞くけど自分で言ってて恥ずかしくない?」

「この美しい私が何が恥ずかしいのだい?でもアスカ……君の美しさには負けるがね。」

「……あーもういいや。」


ついにアスカさんが頭を押さえて白旗を上げました。

ザハスさん凄すぎます。

でも決して口にはしませんがなんか気持ち悪いです。


「今日は来賓だろ?皇太子様から聞いているよ。私は出る側だがね。」

「あー。そうなの?」

「ふふん。私の素晴らしいドラゴンには期待していてくれ。あのドラゴンを見ればきっとまた君は私の魅力を再確認して再び惚れ直すはずだ。勿論私の答えは『はいよろこんで!』だがね。」

「………そうだといいね。」

「では!私は準備があるので!またなアスカ!んっ!」


そう言うとザハスさんは風のように走り去っていきました。

…………何だったんでしょう?

去り際に何か口から飛ばしたようでしたが見なかったことにしましょう。

ティーアに向けて発射されたものではありませんし。


「…………アスカさん。」

「…………今は聞かないで。そのうち説明するから。」

「分かりました。」

「よろしいでしょうか?では参りましょう。」


深い訳がありそうです。

ティーアは物凄くトーンダウンしているアスカさんをそっとしてアムルさんがさらっと先を案内するのに着いていきました。

うーん。ザハスさん恐るべし。


「こちらが二人のお席です。」


それかすぐにティーアたちの用意された席に着きました。


「高いですね。アスカさん!」

「そうだね。ここには来たことないな。ほら、ティーア。あっちが王様の席だよ。」


ティーア達の席はニームでも一際高い場所の席でちょうど反対側が王様達の座る席でした。

先程のショックからアスカさんも立ち直ったようで楽しそうです。


「本当ですね。凄いです。」

「気に入っていただけましたか?」

「はい。勿論です。」


品評会が一望出来る席にティーアは興奮が隠しきれませんでした。

アムルさんもティーア達を見ていないのに満足気です。


「では、ここでゆっくりしていてください。私は食事を持って参ります。」

「あっありがとうございます。」

「そうだね。お腹すいたよね。でも食べるとこれもっと苦しくなりそうだなあ。」

「ふふっ、じゃあ控えめでお願いします。アスカさん。」

「では、失礼します。」


そう言うとアムルさんはすっといなくなりました。

ティーアとアスカさんはアムルさんが戻ってくるまでの間席から下を眺めていました。

下には一般客もだいぶ入ってきていてもうすぐ始まることを物語っていました。


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