飼育員さんのお師匠さん(11)
「…………でそろそろ教えて貰えませんか?ティーアがメイドの格好になった理由を。」
「分かりました。」
ティーアは頭に白いカチューシャを乗せ完全にアムルさんと同じ格好になったところであらためて尋ねました。
その問いにアムルさんはすくっと立ち上がると手を前で組みいままでのメイドスマイルから一転、真剣な顔付きで話を始めようとしました。
「実は……」
「ちょっと待ってください。私がアムルに替わって話します。」
アムルさんが話そうとしたその時でした。
扉が開くとそこにはベールニック皇太子様がおられました。
「ベールニック皇太子様…………」
「皇太子。」
「うん。アムルありがとう。そこに下がっていてくれ。」
「はい。」
ベールニック皇太子様に対して心配そうな眼差しをするアムルさんを制してベールニック皇太子様がティーアの前に立ちました。
アムルさんは言い付けに従い扉の側までささっと下がります。
さすがはメイドさん。
「ティーアさん。今日は来ていただき先ずはありがとうございます。」
「いえ、ベールニック皇太子様。とてもありがたいお言葉です。ですが皇太子様がわざわざ言わなくてはならないほどの理由があるということですね?」
ティーアはベールニック皇太子様に失礼とは思いつつも単刀直入に聞きました。
理由いかんによってはアスカさんとティーアに危険が及ぶのではと思ったからです。
「ティーア様。いくらティーア様でも…………」
「いや、アムル大丈夫だよ。ティーアさん実は今日の品評会には重要な意味があります。ドラグニア王国を更に発展させる上ではとても重要です。」
「……それは何ですか?」
ベールニック皇太子様より先にアムルさんが反応しますが、ベールニック皇太子様がそれを制して話します。
今まででも品評会というのは国の行事として重要な役割をしていました。
しかし、今年は例年のより意味があるというのでしょうか?
「それは…………ドラグニア王国は今回の品評会から他国にもドラゴンを送り出す事にしました。」
「えっ?まさか!?そんな事をしたら…………何が起きるか……」
ティーアはベールニック皇太子様の発言に驚きを隠しきれませんでした。
今まではドラグニア王国は国外へドラゴンを売買したり貸与する事を禁止していました。
本来ならドラグニア王国にとってドラゴンは共存すべき生き物。
売買等の対象ではありません。
しかも国外にドラゴンを出すことは敵国の戦力の増強へと繋がる可能性もありドラゴン王国建国からずっと禁止されていた事です。
それを今破ろうとしているのです。
「ティーアさんの心配は分かりますが、今のドラグニア王国を救うにはこれしか無いのです。……ドラグニア王国は今、とても財政的に苦しい状況にあります。ドラグニア王国は資源の多い国ではありません。しかし、ドラグニア王国には他国には決して負けないドラゴンがいます。ここに頼るしかないのです。」
「そんな…………」
確かにドラグニア王国は元から大国でもなく資源の少ない国だったと聞いています。
それがドラゴンとの共存がうまくいき生活に組み込めていけるようになりここまでになったというのです。
謂わばドラゴンに支えられた国なのです。
「私はここ数年、他国との直接交渉をしてきましたがどの国も口を開けばドラゴンドラゴンと言います。…………もうドラゴンに頼るしかないのです。」
「…………」
「皇太子様」
国家間の交渉までティーアには分かりませんが、ベールニック皇太子様を見れば余程悔しい事があったのが分かります。
握りこぶしを作った手は震えています。
それは直接交渉を行っているベールニック皇太子様しか分からない事です。
アムルさんも心配そうにベールニック皇太子様を見つめます。
「…………それで、そんな大事にティーアが何を?…………アスカさんがらみのことだとは思いますが出来ることは多くありませんよ。」
「いえ、多くは望みません。ただ、ティーアさんには今日アスカさんの側に常にいて彼女のフォローをお願いしたいのです。……アスカさんはいささか自由なところが多すぎます。正直こういった催し物には向きません。しかし、そうは言ってはいられません。……今、アスカさんは注目の的であり今日の目玉ですから。私はもしかしたらアスカさんはこの品評会すら断るのではとも思いました。しかし、アスカさんはあなたの為に来てくれました。あなたの為なら考えてくれるかもしれません。」
アスカさんの性格はティーアも分かります。
正直何をするか分からない所はあります。
出来るだけティーアも失礼がないようにはしたいです。
「そして、今日の式典にはアスカさん一人で目立って欲しいのです。だから、ティーアさんには申し訳ないが今日はその姿でいて欲しいのです。」
「…………弟子は邪魔ということですか?」
「…………邪魔ではありません。見栄えの問題です。」
そう言ったのは後ろで控えているアムルさんでした。
「偶像に余計な物は必要性ないのです。私達の作り上げようとしてる象徴は誰にも届かない孤高であることで価値を増します。」
「フォローをお願いするのに届かない存在なんですね…………」
アムルさんの話を聞いてティーアは思わず皮肉っぽいことを言ってしまいました。
「そこが難しいところです。だからずっとアスカさんと一緒にいるティーアさんが適任なのです。世に顔もしられていませんしね。」
ベールニック皇太子様が仰います。
アムルさんを庇っているようにも聞こえます。
「…………ところでアスカさんはこの事は知ってるんですか?」
「いえ、先程見に行こうとしましたら衣装部屋で何やら揉めておりましたから。」
「ふふっ…………なるほど」
ティーアは見ていないのにその光景が瞬時に浮かびました。
たぶん、出てくるきらびやかな衣装に文句を言い続けたのでしょうね。
こんな状況なのに想像しただけで思わず笑ってしまいます。
「むしろ、アスカさんには普通に楽しんでもらうのがいいのかもしれません。予定では式典で紹介するだけですから。ですから、ティーアさんは普段通りにしていれば問題ありません。」
「そうですか……はい。分かりました。」
裏で行われている秘密をしりつつ普通にしていろというのも無茶苦茶ではと思いましたが、ティーアはアスカさんとは違い皇太子様に背くなんて正直出来ません。
アスカさんには出来ることなら知られない方がいいのは確かです。
どうやらこのまま何も起きないことを祈りつつ1日を過ごすしかないようです。
「では、私はこの後も色々とあるので失礼します。ティーアさんくれぐれもよろしくお願いします。アムルも後は頼む。」
「……はい。」
「はい。畏まりました。」
ベールニック皇太子様はそう言うと部屋を出ていかれました。
アムルさんは出ていかれるまで深々と頭を下げていました。
「……では、ティーア様行きましょうか。そろそろアスカ様も終わっているはずです。くれぐれも国賓の前ではメイドであることを忘れずに。」
「…………はあ、分かりました。」
「……メイドはため息なんてつきません。」
「…………はい。」
メイドのプロに釘を刺されつつティーア達は部屋を後にしました。
気のせいでしょうかアムルさんのティーアへの対応が厳しくなった気がします。




