飼育員さんのお師匠さん(10)
紺色のメイド服に白いエプロンを着て頭にはカチューシャを着けた絵に書いたようなメイドさんがそこにはいました。
背丈はティーアより少し高いくらいでしょうか。
しかし手足はすらっとしているのにメイド服の上からでも分かるくらいのボリュームを感じる一部分。羨ましい。
顔は童顔に見えます。
そして、メイドスマイルというのでしょうか、少しも崩れない笑顔で対応してくれます。
もしかするとティーアより年下なのかもしれません。
「アムルさん。初めましてティーアと申します。今日はよろしくお願いします。」
「はい。本日は何なりとこのアムルにお申し付けください。」
とても丁寧な言葉遣いで好感が持てます。
さすがはドラグニア王国のメイドさんといったところでしょうか。
「…………」
「あのーアムルさん。突然で申し訳ないんですが一つお聞きしたいことが、ティーア達がここに連れてこられたのはやはりベールニック皇太子様の計らいなのですか?」
「ええ、そうです。ベールニック皇太子様が恐らくお二人がこの会場にあまり相応しくないお姿で来られるだろうとのことでして、アムルが対応をさせていただくことになりました。」
あっ、やっぱりバレバレでしたね。
アスカさんが朝に言っていた通りですが、このアムルさんの言い方からするとティーアの今日のこの服ってダメなんですね…………
まあ、分かってましたよ。
「ところでベールニック皇太子様は?」
「ええ、皇太子様は只今正面口で国賓対応をしております。こちらに来るのに時間がないのでアムルの対応でご容赦下さい。」
やはりそこは一国の皇太子様ですね。
今日はお忙しいのでしょう。
ティーアはベールニック皇太子様は少し緊張するので、だいぶ助かります。
アスカさんも恐らくめんどくさいことよりこっちの方が楽でしょう。
ん?そういえばアスカさんが馬車を降りてから静かです。
緊張でもしてるのでしょうか。
横をちらりと見るとふるふると小刻みに震えています。
「?アスカさん?」
「…………アムルさんあなたは今日、私のメイドなのよね?」
「……勿論です。何なりとお申し付けください。誠心誠意やらせて頂きます。」
「そお…………」
うん。アムルさん。これヤバいですよ。
相変わらずのメイドスマイルで受け答えをするアムルさんですが、大丈夫でしょうか?
「では、アムルさん。いや、アムル!ここで全て服を脱ぎなさい。それが出来ないなら私の真のメイドではありません。」
は?何を言ってるんですかこの人は?
そんなのアムルさんが了承するわけ無いでしょう。
「……分かりました。少々お待ち下さい。」
アムルさんはそう言うとエプロンに手をかけました。
そしてするすると脱いでしまいました。
って言うかこんなとこで二人でなにしてるんですか!
「ちょっと!アムルさんストップ!アスカさんも何をしようとしてるんですか?ふざけないでください!」
「ティーア、私はいつでも真剣だよ。メイドはどんな時でも主人に忠義を尽くすんだよ。」
「ティーア様、私はいつでも真剣でございます。メイドはどんな時でもご主人様に忠義を尽くすので御座います。」
「…………はあ、とりあえず中に入れて貰えませんか?もう疲れました。」
何なんですか?この二人。
この後、二人は何故か熱い握手を交わしていました。
はあ、アスカさんだけでも大変なのに…………この後どうなるのでしょう?
気を取り直して裏門から入るとそこは調理場に続いていました。
「お足元が悪いのでお気をつけください。」
先程脱いだエプロンを着直しアムルさんが先頭になりどんどん進んでいきました。
その後ろにアスカさん、ティーアと並んで進んでいきます。
「先ずはお二人にはそれぞれにこの式典に相応しい格好になっていただきます。」
「はい。」
「はあ、ドレスかなあ?…………あれ、苦しいんだよね。」
アムルさんが説明しながらお昼の準備でしょうか調理中の横を進みます。
勿論文句を言っているのはアスカさんです。
「ここからは城内の廊下です。まだこの外は城内で仕事をするものが歩く通路です。そこから衣装部屋まで行きます。」
調理場の突き当たりに扉がありそこでアムルさんからの説明がありました。
ここからがようやく本当の城内のようです。
「では、入ります。」
「うわーっ、大きな壁に高い天井ですねえ。でもここは…………」
「そうだよ。ここは使用人用の廊下。あそこの角を曲がったところが本当のお城って感じだよ。」
中に入るとそこからはお城の中といった感じで大きな壁に高い天井があり廊下もとても広いです。
そんな場所は見たことありません。
でも、ここはまだ使用人の為の通路で豪華な作りで装飾などはありません。
アスカさんはお城にいたことがあるので城の造りの違いも勿論知っているようでした。
「では、アスカ様は先にこちらに。ティーア様はちょっとお待ち下さい。」
「そうなの?じゃあ、ティーアまた後でね。」
「えっあっはい。」
アムルさんの先導で先にアスカさんがお部屋に連れていかれました。
その後アムルさんはすぐに一人で戻ってきました。
「お待たせしました。アスカ様はお部屋で御支度を為さってます。ティーア様はこちらで……」
「あっはい。分かりました。」
ティーアはまた、別の部屋なんですね。
さすがはドラグニア城です。
そういうお部屋が幾つもあるんですね。
「アムルさん!ティーアは青いドレスとかがいいです。それでそれで、ティアラとかも憧れます!」
「そうですね。きっとティーア様にはお似合いかと思います。」
衣装部屋への間、二人きりになったティーアは浮かれ気分でアムルさんに自分の衣装の希望を話していました。
アムルさんはティーアの言う事に賛同してくれました。
来賓というくらいですからそれくらいはしてもバチは当たらないですよね。
「では、ティーア様。ここがお部屋で御座います。」
「ここ……ですか?」
ティーアは中に入って戸惑いました。
なんとティーアが入った部屋にはところ狭しと様々なメイド服が並んでいたのです。
「あのー……アムルさん?ここって…………」
「いえ、大丈夫で御座います。」
何が大丈夫なのでしょうか?
それと同時に部屋の扉からガチャンと音がしました。
「あのー……鍵かけてないですか?」
「いえ。大丈夫で御座います。」
そう言いながらアムルさんはポケットに鍵をしまい何処からか採寸用の麻の紐を取り出しました。
そしてたくさんあるメイド服の中から1着手元に持ってきました。
「では採寸を致しますので全部脱いで下さいませ。それとも私がお脱がせしましょうか?大丈夫で御座います。アムルはこの城で一番のメイド服の仕立ての腕前があると自負しおります。」
アムルさんはメイドスマイルを保ったままものすごい事をティーアにぶつけてきました。
「…………あのー。展開が全く掴めないのですが何故ティーアがメイド服を?」
ティーアはこの展開についていけずに立ち尽くすばかりです。
というよりは鍵をかけられてしまったので逃げることも出来ません。
「全ては皇太子様のご指示で御座います。詳しくはお着替えの終わってからでお願い致します…………もう、アムルは初めてティーア様を見た時から脱がせたく…………ではなく仕立てと着替えがしたくて我慢の限界です。」
…………何かさらっと怖い話が聞こえたのですが、とりあえず皇太子様が指示したということは……どういうことでしょう?
しかし、ティーアにはそれを考えている余裕はありませんでした。
「アムルさん。冷静になりませんか?分かりました分かりました。とりあえず服は自分で脱ぐのでその手をわきわきしながら近づくのを止めませんか?」
「…………分かりました。でも、アムルは冷静そのものです。ただ……メイド服姿のティーア様を見たいだけなのです!」
アムルさんは力強い言いました。……もうティーアに逃げ場はありません。
はあ…………何でこうなったのでしょう。
その後ティーアはアムルさんにされるがままに採寸、仕立て、着替えをさせられてメイド服姿になりました。
一つ誤解していたことはアムルさんはただメイド服を着せたいだけでティーアの体に触れる事は一切ありませんでした。
そして、とにかく完璧でした。
素早いし寸分の狂いもありません。
さすがは得意と自負しているだけはあります。
ただティーアはメイドの姿になっていく自分の姿見ながら思いました。
…………この後、アスカさんに会いたくないな。




