飼育員さんのお師匠さん(9)
そして、品評会の日が来ました。
アスカさんとティーアは朝早くから準備に追われています。
あの後、ベールニック皇太子様から届いた招待状には場所と迎えの馬車が来る時間だけが書いてありました。
封筒の開け口はロウで固められドラグニア王国の刻印がスタンプされているその封を開けるときには何が書いてあるのかとドキドキしましたが少し拍子抜けしてしまいました。
「アスカさーん!準備終わりましたか?もう来ちゃいますよ馬車!」
「うーん。いいよ。」
「アスカさん!?」
アスカさんの準備を終えたという姿を見てティーアは驚きました。
なんと普段の作業着で現れたのです。
そりゃティーアも着ていく服はありませんけど、持ってきた服で精一杯着飾ってはみたんですよ。
ところが昔あそこで生活していたベテランのアスカさんは違いました。
「あーっ。ティーアそれ可愛いね。お人形さんみたい。でも、それだとあっちで着替えさせられるよ。ドラグニア城には衣装が山ほどあるから。よく私も式典の時はそこで着替えさせられたよ。今回もそれでいこうかなって。」
「ええっ!……何でそれを教えてくれないんですか?そしたらこんなに頑張らなかったのに…………」
「あれ?言わなかったっけ?でも、私が可愛いティーアを見れたから大丈夫。」
アスカさんはしれっと衝撃の事実を言ってのけました。
前の日の夜から衣装をひっくり返して探したティーアの努力を返して欲しいのですが。
と言うか何ですかその便利な衣装部屋。
まさかお城の方でもアスカさんのズボラを見ての特別な措置じゃないですよね。
「ティーアは一応それなりの服装で行きますよ。ティーアは来賓なんですから。それに、その服装はベールニック皇太子様に対して失礼です。せっかく招いていただいたのに。」
「そっか…………でも、私はめんどくさいからいいや。ティーアだけそうしなよ。」
アスカさんは結局出発するまでそのままでした。
そういえばアスカさんてお洒落な服とかあるんですかね?
中身はともかく見た目はいいんだからと思いましたがアスカさんにはやぶへびですね。
それから間もなくして馬車が到着しました。
王国からの馬車とあってとても豪華でした。
「うわぁ!凄いですよ!アスカさん!」
中も豪華な作りで思わずティーアは興奮してしまいました。
なにしろここまで豪華な物には中々乗ることなんてありませんから。
「…………ティーアって意外と子供だよね。可愛いからいいけど。」
「こ、これは違います!何かに参考になればとティーアは…………」
「はいはい。早く行こーよ。」
アスカさんはティーアの話を聞かずに適当に流してしまいました。
本当に違いますよ。
そりゃちょっとははしゃぎましたけど…………
とにかくアスカさんとティーアを乗せた馬車はゆっくりとドラグニア城に向かって走り出しました。
街の中に入ると街は品評会一色でした。
あちこちで出店が出ていたりドラグニア王国の旗が飾られて風に揺れています。
年に一回のこの品評会ですがとても華やかで賑やかでティーアはこの雰囲気も大好きです。
「アスカさん。アスカさん。見てくださいよ。華やかでいいですよ。」
「んー?そうだね。たまには街の中もいいねえ。」
「もう、何かお年寄りみたいですよ。」
「はいはい。ティーアは子供みたいだよ。」
ああ言えばこういうの繰り返しで街の中を進んでいきました。
やはりアスカさんは街の様子にはいまいち興味が無いみたいです。
「あっ!アスカさん!あそこあそこ!ドラゴンがいますよ。あれも今日の品評会に出るんでしょうか?」
そこにはこれから品評会に出るのでしょうかドラゴンが何匹かいました。
大きさも色も見た目も様々なドラゴン達がドラゴンの飼育員さんの側で羽を休めていました。
「おっ、他人のドラゴンかどれどれ?んーん、リンドブルムにベルーダ。わあお、ギーヴルもいるじゃないの。育てるの大変だったろうな。」
アスカさんはドラゴンの一言に飛び付くと食い入るように馬車の窓からドラゴンを見ていました。
先程までのふてり具合が嘘のようです。
しかもまるで子供の様な無邪気な笑顔でぶつぶつと独り言を言いながら見ていました。
やはりアスカさんは心底ドラゴンが好きなんですね。
街中を抜けるといよいよドラグニア城が見えてきます。
「やっぱりティーア達以外にも来賓のお客様はいるんでしょうか?周りの何だか馬車が増えてきましたね。」
お城に近づくごとに行き交う馬車が多くそして見た目が明らかに豪華になってきました。
ティーアは中にどんな人が乗っているのだろうとは思いましたが怖くて覗けませんでした。
「そうだろうね。ドラグニア最大の行事だし。ドラゴンは他の国も欲しいから絶好の機会だし、何より王様達にお顔を御見せしないとね。」
アスカさんがわざとらしく強調しながら言います。
確かに昔、見に行ったときも高いところの席の人達は豪華なドレス姿だったような記憶があります。
本当にティーア達はそんな方々と一緒の席で見ていいのでしょうか?だいぶ心配です。
そんな事を思っているうちにもうすぐドラグニア城の正門です。
普段は遠くからしか見ることの出来ない門をこんな近くで見ることになるなんてティーアは少し感激でした。
「ところでアスカさん。もうすぐ門を抜けますが、ドラグニア城には来るのはいつ以来ですか?もしかして軍を辞めてから初めてですか?」
「うん。そうだね。ほら、ティーア門のあそこ見て私が傷つけた跡。あの時はワイバーンが突然暴れたして焦ったー。んであそこの欠けてるところはね…………」
「ははは…………」
ちょっとその思い出は笑いにくいのですが…………でも、アスカさんは一度辞めたお城にあまり嫌な所は無いようであちこち見回しては不吉な事を言ってました。
「わあ、綺麗ですね。それに下から見るととてと大きく見えます。ここでアスカさんは暮らしてた時期があるんですね。」
「…………まあね。」
そして門を抜けるといよいよドラグニア城が下から上まで見えます。
門が大きいので遠くからでは全部を見ることが出来ないこのお城はこのドラグニア王国の象徴です。
ティーアもこんな間近で見ることが出来て感激です。
「あっあれ?」
ティーアはそこで異変に気付きました。
普通ならこのまま正面入り口に馬車を着けるところですがティーア達を乗せた馬車は正面入り口には行かずそのまま通りすぎていきました。
「アスカさん!入り口通りすぎてしまいましたよ。何処に行くんでしょう?」
「恐らく裏門かな。ベール君分かってるね。あんなギラギラした貴族連中とは一緒に居たくないからね。それに私達がこんな格好で来るのを分かっててじゃないかな?他の王族がいる中にこれはまずいからね。」
アスカさんはそう言いますがそう思うならもうちょっとましな格好で来ればと思うのはティーアだけだでしょうか?
でも、ベールニック皇太子様もそれを見越しての計らいだとすると…………アスカさんてやはり単純なんでしょうねと思ってしまいます。
そしてそのまま進んだ馬車は小さな門の前で止まりました。
「あっ、アスカさん止まりましたよ。降りましょう。」
「了解っと。あっ!ここ懐かしい。よくこっそり夜中とか城から出るとき使った。そりゃまだあるよね。」
こんなところでなんてカミングアウトしてるんですか。
アスカさんは懐かしそあに語りました。
と言うかアスカさんそんな事をしてたんですね。
随分無茶なことをしてるじゃないですか。
そして、先にアスカさん。続いてティーアが降りるとそこには私達を待っていたであろう一人の女性が立っていました。
その人はティーア達が降りると一つ深く頭を下げるとこう言いました。
「良くいらっしゃいました。アスカ様。ティーア様。私は本日、お二人の担当を致しますメイドのアムルと申します。よろしくお願い致します。」




