飼育員さんのお師匠さん(8)
この後もひっきりなしにアスカさんを訪ねるお客さんは来続けました。
ある人は破格の契約金を払うといい、またある人はお見合い、婚約の話を持ってきてアスカさんをなんとか連れていこうとします。
しかも、この騒ぎはこの日だけでは終わらず今日まで続きました。
フラミーさんがいる間は対応もしてくれたのですが、居なくなった後は最初はアスカさんも出て来てはいたのですが次第にめんどくさくなったようで結局ティーアが対応してアスカさんはすっかり引きこもり状態になってしまいました。
「ふええ、アスカさーん帰りましたよー。」
「んー。ティーアお疲れ。」
正直なところここまで凄さだとは思ってもみなかったティーアはもううんざりでした。
当の本人であるアスカさんはもうすっかり引きこもりに慣れてしまったようです。
「アスカさん。そろそろ何とかなりません?ティーアが限界です。」
「うーん。確かにそうなんだけどここを離れる訳にもいかないしなあ。」
そうです。
身を隠すだけならここから出るのが一番なんですがアスカさんとティーアがここを離れるとドラゴン達が困ります。
それにここがアスカさんとティーアの家ですから簡単には動けません。
かといって本当に何処かに行くなんて選択肢はありません。
完全に八方ふさがりです。
どうしたらいいのでしょう?
コンコン。
「…………また、来たよ。」
「…………そのようですね。アスカさん。今回は行きません?」
「やだ。」
「…………はあ。」
もう!こっちはそんなに暇ではないというのにさっきから次々と……どうしたものでしょうか?
しかし、玄関まで行くと相手は一応、上流階級の方と自分に言い聞かせます。
「はい。どちら様でしょう。……ひっ。」
「…………」
思わず声が出てしまいました。
玄関を開けるとそこには灰色のローブを頭からすっぽり被った人が立っていたのです。
それに顔は暗くてよく見えません。
ちょっと恐怖心すら芽生えました。
「…………あの。」
ティーアは恐る恐る尋ねます。
すると、そのローブの人は、
「ティーアさん、こんにちは。アスカさんは居られますか?」
あれ?聞いたことがある声です。
しかも、ティーアを知っている方です。
「あの…………どちら様でしょう?」
「ああ、すみません。これが邪魔でしたね。」
「あっ!ベールニック皇太子様!」
そのローブの人はベールニック皇太子様でした。
汚い服装は隠れてここに来るためでしょうか?
全身すっぽりローブで被っていたのでティーアには分かりませんでした。
「入ってもいいでしょうか?」
「あっ!はい。申し訳ありません。どうぞ。アスカさーん」
「んー?帰った?」
アスカさんがまたしてもめんどくさそうに返事します。
…………本当に自覚の無い人ですね。
誰のせいでティーアが苦労してると思ってるんでしょう。
でも、ベールニック皇太子様が来たとなればきっと驚くでしょう。
「いえアスカさん、ベールニック皇太子様がいらっしゃいましたので入ってもらいました。」
「え?ベール君?本当に?」
「こんにちは、アスカさん。お邪魔でしたか?」
アスカさんの疑うような返事をするとベールニック皇太子様が声をかけます。
だから言ってるじゃないですか。
「あら、本当ね。最近、あなたのお陰で大分忙しいんだけど。」
「やっぱりそうでしたか。これはご迷惑をお掛けしたようですね。」
全部ティーアに任せてるじゃないですか!と思いましたが、さすがにベールニック皇太子様の前なので自重しました。
この様子だとどうやらベールニック皇太子様は分かってて来たようです。
「で?今度はどんなご用で?」
「今日は用ではなく提案で来ました。」
「提案?」
「はい。お困り事の解決を提案しに来ました。直接。」
これはとてもありがたいです。
ベールニック皇太子様が直々にこの迷惑な状況を解決してくれるというのです。
しかも、直接言いに来てくれるとは……と思いましたが何か違和感があるような。
「ふーん。代わりに何かしろと…………そういうこと?」
アスカさんがチクリと一言言います。
…………やはりそういうことになるのでしょうか?
「理解が相変わらず早いですね。大した事ではないですよ。アスカさんに品評会に出てもらいたいのです。」
「参加資格のあるドラゴンはいないけど。」
「いえ、参加者ではなく特別な席で品評会を見ていただければと思っています。」
特別な席?まさかアスカさんが審査員とかでしょうか?
でもあれは確か色々と選ばれるのに決まりがあった気がします。
とすると本当の特別席でしょう。
凄いことです。普通の人が一生かかっても座れないような所です。
しかし、何ででしょうアスカさんの顔がちょっと違います。
「…………私をプロバガンダにでもする気?」
「プロバガンダ?」
その言葉を初めて聞きました。
どういう意味なのでしょうか?
「そ。簡単に言えば歩く広告塔かな。」
「…………」
ティーアはそう言った言葉を初めて聞きました。
アスカさんを広告塔に?アスカさんなんかでいいんですか?
一方のベールニック皇太子様は無言でアスカさんの話を聞いています。
予想外の展開に空気がちょっと重くなります。
しかし、ベールニック皇太子様の答えは違いました。
「いえいえ、ただの今回のお礼ですよ。勿論ティーアさんもご一緒に来ていただいて結構です。」
満面の爽やかな笑顔で仰います。
ティーアにはベールニック皇太子様の本心を読むのはちょっと無理そうです。
お考えがさっぱり分かりません。
「…………まあいいや。このめんどくさいのが無くなるし、ティーアとも元々品評会には行くのを約束してたからね。いいよ。ベール君。のった!」
「ありがとうございます。アスカさん。」
ティーアが理解できない間にどんどん話は進んでいるのでいきます。
今のところティーアに分かるのは特等席で品評会が見れるということぐらいです。
「では、詳しいことはまた。私も時間が限られていますので。」
「ベール君。」
「はい。」
「…………成長したね。」
「アスカさんのお陰です。では。」
ベールニック皇太子様は去り際にアスカさんとこんな会話をしていました。
うーん。結局ティーアには分からないことだらけで終わってしまいました。
何か二人の間にも色々とありそうですし、ベールニック皇太子様がアスカさんを使って何かを考えているということはなんとなく分かりましたがそれ以外はやはり全然分かりません。
ティーアは心配になりました。
「…………アスカさん……」
「何?」
「何も無いですよね?ただ品評会を見るだけですよね?」
「うーん。どうだろ?私はむしろどこからどこまでが品評会なのかが気になるよ。」
アスカさんはいつもの感じで喋りますが考えながら喋っている感じがします。
会話の意味も分かりにくいです。
「と言いますと?」
「うん。起こることが都合がいいなと思って。王様が居なくなったと同時にドラゴンが出て、ベール君が私の所に来て、私の予測通りに解決してってね。」
「…………誰かが仕組んだと?」
アスカさんは大胆な予想を立てました。
しかし、そんな事が出来る人は限られます。
あの人しか…………
「いや、分かんない。これは私の勘。でももしそうなら凄いなと思って。そこまでして何がしたいのかなって。」
「それは…………分かりません。」
「私も。私はそういうのは関係なく自由にドラゴンの飼育員さえ出来ればいいからさ。」
「アスカさん…………」
アスカさんが普段とは違って複雑そうな顔を見せます。
そんなアスカさんを見ているとティーアの方も複雑な気持ちになります。
「まあ、とりあえずは私達は参加するだけだから言われた通りに行ってみましょ。ティーア楽しみにしてたでしょ?」
「はい。」
「…………さて、ところでティーアとの約束はどうしようかな?っと
。」
「うっ……覚えてますよね。」
こういう時でもそういうことはしっかり覚えてますよね。
品評会に行くのをめんどくさがったアスカさんにティーアが約束したこと。
一つアスカさんのお願いを聞くということでした。
はあ、品評会に行くためとはいえ何であんな約束をしたのでしょうか?
ティーアにも交渉術が欲しいです。
ベールニック皇太子様が帰った後は不思議と来客がピタリと止まりました。
アスカさんは『さすがだね。』なんて言ってましたが、余計にベールニック皇太子様の作戦なのではないかと疑念がわいてきました。
品評会。何もないといいんですけど…………




