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飼育員さんのお師匠さん(7)

「…………ア、……ィーア、……ティーア。」


ん?誰かがティーアを呼んでいるようです。

もう、朝でしょうか?

誰かに起こされるなんてアスカさんの所に来てからは初めてです。

あっ、もしかしたら、夢かも。

誰もティーアを起こしに来る人はいませんし、アスカさんはいつもティーアが起こす側です。

ということはこれは夢です。


「ティーア…………起きないと風邪引くよ。」


夢ですから起きないとかじゃないんです。

寝てるんですから朝になったらティーアは勝手に起きますよ。

だから待っててください。


「………起きないんだ。もしかして…………そういうこと?」


ん?何かが変です。

妙に現実的な声がします。

しかも声には聞き覚えがあります。

この声はそうです。アスカさんの声です。


「…………うっん。痛い……アスカさん戻ったんで…………ん?」


窓に寄りかかるように寝ていたため背中に少し痛みがありました。

ほとんど寝ぼけ眼で顔を上げるとそこには口がありました。

正確にはタコのようにすぼんだ口が。


「んーーー」

「きゃああ!」


頭がまだ回っていないティーアにはそれが何かははっきりとは分かりません。

がしかしティーアの本能がそうさせたのでしょう。

その口が触れる前にティーアは手で払い除けました。


「ぶっっ!」

「…………?アスカさん!?」


パチンという音の後になんか変なうめき声がしました。

やっとティーアの頭に血が巡ってきて状況が把握出来ました。

そこには多少曲がった顔を押さえるアスカさんがいました。


「いたーい!ティーアがぶった!」

「突然目の前によく分からないものがあったら誰だってそうします!一体何をしようとしてたんですか?」


アスカさんが涙目で顔を擦りながら言いました。

さっきのはアスカさんの顔が迫っていたようです。


「んー。勿論、ティーアが中々起きてくれないから目覚めのキスを…………」

「…………はあ、だいたい分かりました。っていうかいつ戻ったんですか?」


外を見ると夜明けにはもう少しといった所でしょうか?

東の空がほんの少しだけ明るくなってきたような気がします。


「うん?今。外から窓の側にティーアがいるのが分かったからさ。静かに近寄って様子を見てたら寝てるから起こそうとしても起きないからこれは目覚めのキスをしろって事かなと思って。」

「はいはい。」


余計な説明までアスカさんはしてくれました。

どうやら健在のようです。

あっ!ティーアはそんな事より大事なことを思い出しました。


「っていうかアスカさん!無事で良かったですけど肝心のドラゴンどうなったんです?後…………何で服装が変わってるんです?」

「あー、これね。」


アスカさんは立ち上がって自分の服装を見渡します。

それはティーアもよく知ってる軍服でアスカさんが昔ティーアが見た品評会で着ていたものとよく似ていました。


「久々に着たんだけと似合う?着ていった作業着がボロになったから替えてもらったの。」

「ボロにって……アスカさんが行ってから直ぐに鐘の音も止まるしどうしてたんですか?」

「ああ、鐘ね。あれはベール君に言って止めてもらったの。ドラゴンは聴覚も敏感だからあの音は良くないからね。」

「そうでしたか。」


どうやら計画的に鐘の音を止めていたようです。

そこからどうしたのでしょう。


「その後は…………これ!この本を頼りにしたの。」

「えっとそれって……」


アスカさんがそう言ってティーアに見せてきたのは一冊の本でした。

あのとき家から持っていった本です。

しかし、その本はドラゴンの生態等の参考文献ではなくティーアも過去に見たことのある本でした。


「それって絵本ですよね。ドラゴンのお話の載ってる。ティーアも昔読んだことあります。でもそれって…………まさか?」

「そう、そのまさか。」


その本はドラグニアではよく見かける子供向けの絵本でした。

内容は沼地に住む火を吹くドラゴンが財宝を守るという話でそれを取りに行く盗賊をやっつける話です。

なんとアスカさんはその絵本の話から答えをを導きだしたのです。


「この本を私調べたんだけどこういった絵本て神話とか伝説とかを元にしてるのが多くてさ。この本もその類いだって分かったんだ。それで今回、ファイアードレイクが沼地近くに出たっていうからもしかしてって思ったの。」

「何でそれがヒントになるんです?確かにその本の火を吹くドラゴンはファイアードレイクと一致しますがそこからどうやって?」


ティーアにはさっぱり分かりません。

アスカさんはその本をペラペラめくりながら言いました。


「うん。ファイアードレイクってのは元々沼地とか岩場に住むんだよ。それで西のあの辺には沼地があったのを思い出したの。そして、ファイアードレイクが暴れた理由はこれ!財宝を奪いに来た盗賊。」

「盗賊ですか?」


確かにあそこは人があまり近寄らない沼地ですが財宝なんて話は聞いたことがありません。

実は埋まっていて財宝があって盗賊が狙っていたなんてオチなのでしょうか?


「正確には盗賊じゃないんだけどね。この本は絵本にするために少し話が大きくなってるの。本当は財宝を盗賊からドラゴンが守るんじゃなくて自分の住みかをドラゴンが外敵から守ってたの。」

「住みかを…………何からです?」

「それは私も探すまで分からなかったの。だからそこはベール君に協力してもらったの。ファイアードレイクを私達ドラゴンの飼育員が食い止める間にその住みかを荒らす外敵さんを探してもらったのよ。」


さらりとアスカさんは言いますがファイアードレイクを食い止めるって結構めちゃくちゃなことですよ。

相手は火竜ですら火を浴びたらひと溜まりもありません。


「そしたら沼地を隠れ家にしている野盗がいたんだって。ドラゴンはそれを住みかを荒らしに来たと思ったみたい。ベール君が野盗を全員捕まえて私が沼地の住みかはもう平気ですよーって教えたらファイアードレイクは帰っていったよ。」

「…………はあ。」


アスカさんはさらっと言いますが言っているスケールが大きすぎてティーアにはよく分からないことだらけです。

しかも、言い方が適当というか、アスカさんらしいというか。


「要するに武力でドラゴンを撃退なんてしなくていいんだよ。ドラゴンは頭がいいんだから暴れるには理由があってそれを取り除けば何もせずに大人しく帰ってくれるんだよ。その証拠に今回はドラゴンも人間も被害ゼロ!ちょっと私の服が焦げたけどね。んで、新しい服と代金を貰って。ベール君にそこまで送ってもらったって訳。」

「なるほど。…………詳しく後でまた教えてくださいね。」


それで服装が変わったんですねと妙に納得している自分が怖いです。

もう一回教わらないと理解は出来そうにないですけど。

しかも、ベールニック皇太子様を足として使うなんて何て恐ろしい…………


「とにかく無事で何よりです。」

「うん。ありがとう。ティーア、ところでお腹空いたー!」

「…………大丈夫です。すぐに準備出来ます。ちょっと待っててください。」


晩御飯を多目にしておいて良かったです。

すぐにティーアは台所に走りました。


「ありがとー。食べたら一回寝るね。」

「分かりました。疲れましたもんね。ゆっくりしてください。ティーアが朝のドラゴンのお仕事はやっておきますので。」


こうしてアスカさんの久々の対野生ドラゴンのお仕事は終わり平和が訪れたと思ったんですが、ここで終わらなかったんです。

その日のお昼過ぎ、ティーアがお洗濯を干していた時です。


「おーい。ティーアちゃーん。」

「ん?この声は……」


ティーアが声に気付いて隙間から顔を除かせるとフラミーさんがドラゴンに乗ってこちらに来るのが分かりました。

若干急いでる雰囲気がします。

フラミーさんの乗るドラゴンは一見すると大きな鳥にも見える地竜で幻獣コカトリスの元になったドラゴンとも言われています。

足がとても発達していて悪路でも走破出来るのが最大の特徴です。


「フラミーさん。こんにちは。どうしたんですか?」

「ティーアちゃん!大変だよ。」

「はい?何がですか?」

「とりあえず入っていい?アスカは?」

「アスカさんなら家に……どうしたんです?」


フラミーさんはティーアの側に地竜を止めるて降りると急かしたてるように話してきます。


「とりあえず入ってからで。急いで急いで。」

「はあ、分かりました。どうぞ。」


ティーアはフラミーさんに言われるがままに家に通しました。


「アスカさーん。フラミーさんが来ましたよー!」

「んー?フラミー?どうしたの?珍しい。何か用?」


奥からいつも通りのアスカさんが出てきました。

どうやら、アスカさんにも心当たりが無いようです。


「アスカ、やっちゃったね。街はアスカの話で持ちきりだよ。」

「何が?」


なんでしょうか?

ティーアにもさっぱりです。


「アスカが昨日ドラゴンを追い返したのが街ですごい評価されちゃってんの。それでフリーの凄腕金等級のドラゴンの飼育員がいるってなってて、竜商とか貴族とかがアスカを雇いたいって来ようとしてるんだよ。なんてったってベールニック皇太子が直接来て選んだんだからね。」

「えっ?何それめんどくさ。」


アスカさんが物凄く嫌そうに顔を歪めます。

確かにベールニック皇太子様が選んでアスカさんを連れていきましたが凄い影響力です。


「…………今のところフラミーさんしか来ていませんけど、するとこれから…………」


コンコン。

ちょうどその時でした。

玄関からノックする音がします。


「アマル商会のイヴレーアと申します。アスカ殿はおられますか?」


噂をすればなんとやら。

フラミーさんの言う人たちが来たようです。


「フラミー知ってる?あれ。」

「うん。同業だね。さすがに手が早いね。でも、あれなら私が出るよ。」


フラミーさんはそう言うとつかつかと玄関まで行き扉を開けました。


「あら?イヴレーアさんじゃないの。何か?」

「…………貴女はフラミーですね。先に来ておられましたか。用件は同じかな?」

「さあね。でも、こちらは円滑に話が進んでいるので今回はお引き取りしてもらった方がいいかもよ。」

「…………そうですか。…………では今回は一旦引きましょうか。アスカ殿によろしく。」


フラミーさんの含みのある言い方で納得したのか、新しい作戦を考えるためか分かりませんがイヴレーアさんという方は帰っていきました。


「フラミー、ありがと。」

「いや、あれはまた来るよ。そういう人だもん。竜商なんて。」

「そうなんですか。」


やはり作戦だったようですね。

あれが商人としての戦略なのでしょうか?

しかし…………


「……ああいう人がこれからどれくらい来るんですか?」

「ん?どうせ、みんなすぐに飽きるよ。」

「いやー、どうかな?アスカ、結構魅力的だよ。」

「そう?ティーア。私、魅力的?」

「…………そうですね。」


アスカさんはくねくねしながらポーズをティーアに見せつけてきますがティーアは不安でしかないですし少し怖いです。

こういう時アスカさんが羨ましいです。

コンコン。

また玄関を叩く音がします。

はあ、今日は長くなりそうです。


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