飼育員さんのお師匠さん(4)
ガンガンガン!ガンガンガン!
その声の直後にまた扉を叩く音が響き渡りました。
「誰?こんな時に。」
アスカさんが眉をひそめます。
入り口には鍵をかけておいたので入ることは出来ません。
「アスカさんの知り合いじゃないんですか?だって、アスカさんの事をしっかり言ってますよ。」
金等級のドラゴン飼育員って言ってましたし、何よりアスカさんを直接指名してましたし。
「うーん。ティーア、ちょっと見てきて。怪しいやつだったら追い返していいから。」
「えーっ、ティーアが行くんですか?」
アスカさんは明らかにめんどくさそうに言いました。
そういうのは全部ティーアに押し付けるんですから。
「ちょっと怖いんですけど…………」
「大丈夫大丈夫。…………たぶん。」
結局はアスカさんに押しきられるようにティーアが玄関口へ行きました。
その間もガンガンガンと扉を叩く音がしています。
そして、外からは男の人の声が聞こえます。
ティーアは勇気を出してその声に対して返事をしました。
「ちょ、ちょっと待ってください。今開けますので。」
ティーアはそっと扉を開けました。
「はい。どちら様で…………えっ?」
そこに立っていたのはこの家には普通はあり得ないお客様でした。
「すまない。私はドラグニア王城から来た者だが、こちらに金等級のドラゴンの飼育員のアスカ様はおられますか?緊急なんだ!居るのなら至急会いたい。」
「あっ…………えっ。あっ……あの。」
そこに立っていたのは普段ティーア達が決して見ることはないドラグニア王国軍の兵士の人でした。
鉄製の鎧を身にまとっていて正に正統派の軍兵士といった感じの人です。
とにかく急いでいるようで顔は汗だくでした。
ティーアはその切羽詰まった形相に思わずしどろもどろになってしまいました。
「…………私ならここにいるよ。」
「あっ、アスカさん…………」
ティーアがしどろもどろになっていたのを後ろで見ていたアスカさんがティーアと兵士さんの間に入ってくれました。
最初からそうすれば良かったのではという疑問は置いておきティーアはこの場をアスカさんに譲りました。
どうやらアスカさんは何かを勘づいているようです。
何となくいつものアスカさんの様子とは違った雰囲気がします。
「貴女が金等級のアスカ様ですか?」
「まあ、『様』なんて対してもんじゃないけど恐らくあんたが探してるのは私で間違いないはずだよ。」
「良かった。では、こちらを見ていただきたい。」
そう言うと、その兵士さんは一枚の紙をとりだしてアスカさんの目の前で見えるように開きました。
「あっ!その印は!」
「……………………」
その紙の印を見てティーアは思わず声をあげてしまいました。
その印は間違いなくドラグニア王国の印でした。
その印が示すのはその紙が国の勅令であるということです。
勅令は簡単に言えば王様からの直接の命令で余程の重大な事でないと簡単には発令されません。
アスカさんはその紙を見ても一切動じることはなく無言でその紙を見ていました。
「『金等級ドラゴンの飼育員。アスカ殿。ドラグニア国の緊急事態につき軍への復帰を命じる。ドラグニア王国 第一皇太子 ベールニック』」
「………………」
「えっ?」
その兵士さんは勅令の書かれた紙をティーアとアスカさんにはっきり見せるようにして広げると一言一句間違いなく読み上げました。
なんとベールニック皇太子様の銘でアスカさんの軍への復帰が勅令として読み上げられたのです。
その内容にティーアは驚いの声をあげてしまいました。
しかし、当の本人であるアスカさんは微塵も動揺することなく眉ひとつ動かさないで今も無言でその勅令の紙をじっと見ていました。
「以上がベールニック皇太子様よりの勅令です。アスカ様、早速ではありますが城へ行く準備をお願い致します。外に馬は用意してあります。」
「ア、アスカさん!」
「…………」
城への召還命令が出てしまった以上、アスカさんは戻るより仕方がありません。
ティーアはどうすべきでしょう。
やはりここは弟子としてアスカさんの後ろに着いていって少しでも手助けすべきでしょうか?
人手もいないよりはいた方がいいでしょうし…………
そんな事に思いを巡らしつつアスカさんの答えを待ちます。
アスカさんは相変わらずじーっと勅令を無言で見ていました。
何かを考えているんでしょうか?
そして僅かな沈黙が流れた直後にアスカさんか言葉は一言言い放ちました。
「嫌だ。」
「…………は?」
「…………な、何?」
ティーアの聞き間違いでしょうか?
今、アスカさんは嫌だと言いましたか?
まさか王国からの、ベールニック皇太子様からの勅令に対して嫌だとわがままを発したのですか?
予想外の一言にティーアも思わず言葉を失いましたがそれは兵士さんも同じだったようです。
目の前にいるその顔は見るからに驚いていました。
「だから、嫌だって言ってんの。なんでこんな紙切れ一枚で私を呼び出そうなんて、しかも軍に復帰?冗談じゃない。」
「お、お前これはベールニック皇太子様よりの勅令だぞ!分かってるのか?」
「そ、そうですよアスカさん!いくら嫌でも勅令に背くのはまずいですよ。下手したら死罪ですよ。」
アスカさんの突然の悪態にさすがに兵士さんも声を荒げました。
そりゃそうです。
勅令を持っていってアスカさんを連れてこれないとなればこの兵士さんの責任問題にもなるかもしれません。
それに一堂出された勅令を拒否すること事態死罪にも匹敵するくらい重罪です。
それを拒否するなんてどうにかしてます。
「だって、私に来てほしいなら本人が直接頼みに来るのが普通でしょ?それをなんでこなもんで済ませようとしてんのよ。」
「き、貴様!それは国家反逆罪と見なすぞ!」
「ふん。やってみなさい!私はここから動かないから。」
とうとうアスカさんはその場にどかっと座り込んでしまいました。
もうここまで来るとアスカさんの意地なのでしょうか。
訳が分かりませんがここままではアスカさんは犯罪者になってしまいます。
何とかしないと、しかもなるべく逆撫でしないようにしないといけません。
「ア、アスカさん。何が問題なのかティーアには分かりませんが、ここはとりあえずお城まで行きません?一人が嫌ならティーアも一緒に行きますから。」
「ティーア…………甘い、甘いよ。そういう事じゃないんだよ。」
……もうこの人何なんですか?
本当は捕まりたいんじゃないんですか?
ティーアかなすすべなく立ち尽くし、兵士さんの怒りが頂点に達しようとしていました。
「はははっ、やはりちっとも変わってませんね。アスカさんは。」
「ん?」
「あっ!」
「えっ?えええ!」
兵士さんの後ろから違う声がしました。
その方向を見てその場にいた各々が声をあげました。
なんとそこにいたのは…………
「ベ、ベールニック皇太子様!?」
そうです。
そこにはまさかのベールニック皇太子様が立っていたのです。
ティーアの目の前です。
側の兵士さんはすぐに膝を着きました。
それを見てティーアも慌てて真似をしました。
一方でアスカさんは先ほどの座った体制のままでした。
「ベールニック皇太子様申し訳ありません。この者が勅令に背くもので…………」
兵士さんは額に汗をかきながら説明していました。
やはりこの展開は緊張するのでしょう。
「いや、大丈夫。予想通りの結果だから。君は先に城に戻っていてくれ。ここは私がやるから。」
「はっ!」
ベールニック皇太子様に言われて兵士さんはすぐにその場を離れて馬に乗り城に行ってしまいました。
可哀想に相手がアスカさんでなければこんなことにはならなかったでしょうに。
しかし、これでこの場にはティーアとアスカさん、そしてベールニック皇太子様という3人が残りました。
一体どうなってしまうのでしょう?
しかし、先ほどベールニック皇太子様が言っていた予想通りという言葉も気になりました。
だがその疑問はすぐに解決するのです。
「……………アスカさん、お久しぶりです。5年ぶりですか?」
「うん。久しぶりだね。ベール君。」
「え?えええええ!?」
その挨拶にティーアは心底驚きました。




